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静かで優しい光に再注目!フュアーハンド「ベイビースペシャル276」【アウトドア銘品図鑑】

かつては暗い、電池消耗が激しいと言われた電池式ランタンも、今では手のひらサイズでも大光量で、1~2泊のキャンプなら十分持つLEDランタンに変貌。やけどの心配がないのでファミリーキャンプを中心に人気上昇中です。しかもスマホを充電できるモバイルバッテリー機能も珍しくはなく、今なお進化しているのはご存じの通り。

そんなキャンプのランタン事情ですが、数年前より注目されているのが灯油を燃料とする非加圧式のランタン、通称“ストームランタン”です。

嵐が来ても消えないのが名前の由来で、またの名を“ハリケーンランタン”といい、アメリカで1800年代半ばに誕生したと言われています。150年以上たった今でも当時と変わらぬ構造を採用しており、年々進化を続けるLEDランタンとは対照的な存在。長い間、「ランタン=明るいほど正義」という図式がまかり通っていて日の目を見なかったこのランタンが、なぜ今、注目されているのでしょう?

元祖に比べて40年ほど後発ですが、ドイツ生まれのフュアーハンド「ベイビースペシャル276」(ジンク3600円/税別)で検証してみました。

写真ではわかりづらいのですが、バーナー部分を取り除くと二重構造になっていて、パイプの空洞も確認できます。

芯に着火するとまず燃料を含んだ芯が燃え、徐々にグローブ内の空気があたためられます。そのうち煙突に向かって上昇気流が発生。トップフードの穴から取り込む空気は、燃焼によってあたためられています。新鮮であたたかい空気は両側パイプを伝ってタンクに向かい、燃料をあたためつつバーナー部分に送られています。

バーナーに新鮮な空気を送りながら、循環する空気が燃料をあたためる。空気が2つの働きをすることで寒くて風のある日でも安定して燃焼するんですね。

複数の会社からストームランタンが製造されていますが、基本の構造は同じです。

 

■面倒くさがり屋さんにうれしい超簡単着火

着火はとっても簡単。芯にライターやマッチの火を近づけるだけで、ポンピングやマントルの空焼きといった“儀式”は不要です。

燃料は灯油かパラフィンオイルになります。

パラフィンオイルのほうがやや高価ですが、ススが出にくく、引火点も95℃以上(灯油は40℃以上。ガソリンの引火点は-38℃)でより安全に持ち運び・保管ができるというメリットがあります。

ジョウゴやスポイトなどを使ってタンクに注ぎます。

タンク注入口の下、約5mmまで注げますが、タンクは密閉できていないので、満タンにするとつなぎ目から燃料が漏れる危険性が高まります。

どうせ使用後は燃料を抜かなくてはならないし、そもそも燃焼時間は約20時間。50~70%程度に抑えておくと手間がかかりません。

注油口のキャップを閉めたら、左側にあるハンドルを手前に倒して切欠に引っかけます。これで芯が見えますね! 注油口右側にもハンドルがあります。これを回すと芯の長さを調整できるので、時計方向に1回転させて1~2mm伸ばしておきます。

ライターやマッチの炎を近づけて着火。たき火の中から薪を一本取り出し、着火する人たちも結構いるようです。

あとはハンドルを元に戻せばOK。芯を伸ばせば炎は大きく、芯を短くすれば小さな炎になります。芯が見えないくらい短くすると、消火。直感的に操作できます。

 

■キャンドルのようなゆらぎにホッとする

手軽に使えるストームランタンですが、決して大光量ではありません。これひとつだけだと少し心許ないかもしれません。

明るさは5W。コールマンのワンマントルランタンで130W、明るいと言われる1000ルーメンのLEDは70W程度。そう考えるとストームランタンの明かりはやはり非力です。

けれどもマントルを通すことのない炎、LEDとは違う燃焼による炎は見ているだけで落ち着きます。ファミリーキャンプのメインには心もとないですが、サブとして使いたくなるのも納得。それに、自分の周りだけを照らせばいいソロキャンプであればメインにもなり得ます。

■芯と燃料さえあれば不具合とは無縁

加圧式ランタンのような細かなパーツはなく、芯と燃料さえあれば不具合はほぼなし。加圧式ランタンを使い慣れている人なら、ほぼメンテナンスフリーと感じるでしょう。

<グローブの掃除>

煙突の上にあるリングに指を入れ、引き上げます。キャリングハンドルを持ち、握るようにすると楽に引き上げられます。

注油口の反対側にガラスサポートが倒れるので、グローブを取り出します。サポートはしなやかなワイヤーなので、ゆっくり抜き取ればグローブが割れることはありません。

柔らかな布で内側についたススを取り除きます。取り付けは逆の手順でできます。

 

<芯の取り付け>

間違えて芯をタンク内に落とした、芯がなくなったので取り付けたいというときには、バーナーを取り外して作業しましょう。バーナー部分は本体の切り込みに差し込まれているだけです。

着火のときのようにグローブを持ち上げるか、グローブ掃除の要領でグローブサポートを倒したら、芯の長さを調整する火力調節ハンドルを持ち、横にスライドさせるとバーナーが取れます。簡単すぎる!

芯の差し込み口は、芯の幅とほぼ同じ。不器用さんは絶望を感じますが、大丈夫。
バーナーを裏側からのぞいてみると、芯を入れる穴に歯車があります。火力調節ハンドルを回すと、この歯車が動いて芯を送り出すんです。

芯を歯車に当たるまで差し込んだら、あとは火力調節ハンドルをクルクル回すと芯が通ります。芯が通らない!とイライラすることはありません。ついでに、変型してきた芯の先端をカット。芯の形で炎の形も変わるそうなので、炎が割れるなど偏るようなら平らに整えましょう。ただ芯を切るだけなら、バーナーを取り外す必要はありません。

 

■錆びてもカッコよく使える

本体はガルバナイズドスチール製。錆びたり、傷がついたりしますが、それすらもカッコイイ!

複数のメーカーからストームランタンが作られていますが、フュアーハンド製はつくりが良いことで知られています。「ベイビースペシャル」の本体はφ15×26cm、重量は520g。大きさの割に軽量だし、カールツァイス社との取引もあるショット社製グローブは熱に強く、美しく、長く使えます。

これはドイツの野外料理の先生が使っていた「ベイビースペシャル」。現行モデルのジンクとは異なる鋼板・スズメッキで、なおかつ屋外で酷使するためか、全体にさびが出ていて、それがなんだか雰囲気良し。ただ、キャップはうっかりなくしてしまって後から取り寄せたそうで、ちょっと違和感がありますね。

一番人気はマットなジンクで、他に9色あります。色付きモデルはツヤ感があり6000円(税別)、メタリックタイプが2種類で各7200円(税別)。色付きのものは燃焼でチムニーから上が黒く変色します。それもステキですが、どうしても気になるようならジンクや暗めの色を選ぶ方がいいでしょう。

シンプルながらも完成度の高さから長い年月を経た今も愛されるストームランタン。一時は市場から消えかけていたし、ストームランタンの2大ブランドであるフュアーハンドですら2013年に倒産に追い込まれました。

けれども、加圧式ランタンほどパワフルな明かりはありませんがとても静か。たき火のパチパチという音を遮ることもないし、他のキャンパーの邪魔にもなりません。

誰もが気軽に扱え、よほどのことでない限り不具合なし。

キャンプサイトではLEDが勢いを増し、日常生活でもIHやファンヒーターなど炎を見る機会がどんどん奪われています。そんな現代だからこそ、ストームランタンの揺れる炎が恋しい!

決してメインを張れませんが、このあたりが再注目されている理由でしょう。

>> フュアーハンド(スター商事)

 

>> [連載]アウトドア銘品図鑑

(取材・文/大森弘恵)

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