おっさん含む男子たるもの、少しは工具や工作に興味がありますよね。幼少の頃に工事現場を食い入るように見ていた人もいたでしょう。料理でも道具にこだわりがちなのも、男子の特性です。使う機会が少なくてもカッコイイ工具を持ちたい。これは男の本能かもしれません。工具の中でも、バッテリー式の電動ドライバーは、もっとも身近な存在です。これをパナソニック(旧・松下電工)が最初に発売したのは、すでに40年も前のこと。そこから現在まで、充電工具の技術は進化し続けてきました。その技術の流れと、最新製品を体験する機会がありましたのでレポートしましょう。
世の中を変える製品が続々と登場した1979年
パナソニックの充電工具は1979年の『EZ500』 に始まります。1979年は、昭和でいえば54年。IT・家電業界的には、なかなか熱い年で、NEC『PC-8001』やソニー『ウォークマン』が発売されました。また、テレビ朝日で『ドラえもん』『機動戦士ガンダム』の放送がスタートしたのも、この年。何かの特異点があったのでしょうか。
充電式ドライバーが開発されたのは、住宅などの工事でコンセントやスイッチを取り付ける作業者からの声がきっかけだそう。家を1軒建てるのに、電気工事業者は膨大な量の配線器具を設置しなければなりません。当然、ネジ締めの量も膨大になります。電動ドライバーもAC式ではコードが邪魔になるし、現場のコンセントは大工さんが占有することも多い。そのため、コードレスで使える電動ドライバーの強い要望があったのです。
『EZ500』には、同社の家電の技術が活かされました。モーターはヘアドライヤーのACモーターの技術が、多数のギアで構成される「駆動ブロック」は、メンズシェーバーの刃の精密加工技術が、充電技術もシェーバーの急速充電の技術が用いられました。
そして、この日本製の充電式ドライバーは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の目にとまり、スペースシャトルの船外活動に使われることになります。評価されたのは充電式ゆえの機動力と、T型の本体により、狙いの箇所にピタッと位置合わせできること。1982年から10年以上使用されたそうです。
「キーレスチャック」の発明はパナ
さて、充電工具で求められるのは大きく3つ。「使いやすさ」「電池の品質」「パワー&スピード」です。それぞれ、技術革新により40年間向上してきました。細かくはたくさんあるのですが、主要なものについて紹介していきましょう。
まずは、初期のモデルから採用されたT字型の本体。ネジなどの位置を確認しやすく、人間工学に基づいた握りやすいグリップが特徴です。現在、多くの電動ドライバーは、このような形状となっています。小型の銃器も似たような形状をしていますし、普遍的に使いやすい形なのでしょう。
インパクトドライバーのビット(先端に付けるパーツ)を交換する際、筒状のスリーブを回転して着脱しますよね。今や当たり前となっているこの機構は、1986年にパナソニックが製品化し、その後業界標準になりました。
それまでは、ドライバー本体の先に穴があり、そこにチャックキーという工具を差し込んでビットを締め付ける・緩める必要がありました。ところが、このチャックキーは紛失してしまうことも多く、ユーザーからは何とかならないかという声により、開発されたそうです。
電池は安全性と使いやすさが向上
充電工具の電池は、ニカド電池からニッケル水素電池へ、そしてスマホなどでおなじみのリチウムイオン電池へと進化してきました。ある一定以上の年齢なら、ニカド電池がすぐヘタる(ダメになる)のを経験していますよね。それが長寿命かつ大容量になり、取り扱いがラクになりました。
もうひとつ電池で重要なのが、安全性です。今の電池パックは、工具本体との間で情報のやりとりが行われています。電池パックの中には乾電池のようなセルが複数入っており、それぞれの状態は微妙に異なっている。放電時、つまり工具を使用している際に、各セルの電圧をモニターし、ひとつでも電圧が下がったセルがあれば、放電をストップ。逆に充電する際は、最初にいちばん電圧が高まるセルを検知すると充電を止めます。
昔、多くあった電池の発火事故は、不安定な電池にストレスを与えていたことが原因。この安全制御は、結果として電池の長寿命化も実現しました。
また、パナソニックでは、2012年から14.4Vと18V、2種類の電池パックを両方使えるデュアル電圧対応の製品を販売しています。電池の種類を自動判別し、適切な電圧・電流に自動制御する。作業現場においては、2種類の電圧の電池パックを使えるメリットは大きく、たとえばパワーが欲しいときは18Vの電池パックを、天井など上向き作業の際は軽量・コンパクトな14.4Vの電池パックと使い分けが可能です。また、自分の電池パックの容量がなくなった時でも、他の人から借りられるのは便利だとか。スマホで友達のモバイルバッテリーを借りられるような感じでしょうか。
モーターとハンマーの機構でパワーとスピードを向上
充電工具のパワーとスピードを決めるのは、モーターと内部の機構です。パナソニックでは、2004年に「ブラシレスモーター」を実用化。物理的な接点となるカーボンブラシをなくすことで、長寿命化とともに消費電力を下げることができました。さらにマイコン制御により、ローターの回転数を細かく制御することも可能になりました。
また、普段見ることはありませんが、内部の機構も進化しています。インパクトドライバーは、ネジを締めるとき、ガガガッと強い力がかかりますよね。回転に加えて打撃の力がかかっているのですが、これは、モーターの回転でバネを圧縮し、バネが伸びる力で大きな力を発生させるハンマーという装置によるものです。通常は1個ですが、パナソニックの製品では、2個のハンマーを備えることで、高出力と低振動を両立させる「ダブル・ハンマー機構」を2013年から採用しています。
最新モデルでは、さらに作業効率がアップ
さて、ここまで技術の進化を見てきましたが、最新モデルもチェックしましょう。
2019年に登場した新技術が、「ベクトル制御 Smart BL」で、ドリルドライバー『EZ74A3』とインパクトドライバー『EZ76A1』の2モデルに搭載されています。
Smart BLは、作業用途に応じてモーターのスピードとパワーを最適にコントルールする機能。穴あけやネジ締めのスピードが10%〜25%アップし、またネジやボルトを締めすぎて折ってしまうようなことが防げます。手動で細かく調整する必要がなく、現場に入りたての人手も熟練の職人のように作業ができるとか。工場や現場では1本数千円もするような高価なボルトも使われますし、締めすぎで部材が傷むことも防げますので、適正なトルク管理は品質向上とともにコスト管理にも役立つのです。
面白かったのは、「タップモード」。電動ドライバーで回転の方向(正逆)を切り替えるには、通常スイッチを手動で操作します。たとえば、ドリルで開けた穴をメスネジ加工する「タップ立て」では、右回転(正転)と左回転(逆転)を何度も繰り返すため、スイッチでの切り替え作業が大変面倒だそう。これを解消するのが新機能の「タップモード」で、トリガーを引く度に自動で回転の方向が変わり、作業効率が大幅にアップします。これは、抜き差しを繰り返すドリルの穴あけでも便利そうです。
以上、パナソニックのプロ用充電工具の進化を駆け足で紹介してきました。住宅工事の現場は身近で、常日頃すごい勢いで家が建っていくなぁと感心していましたが、陰にはこうした充電工具の進化があるのですね。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000120932/
- Source:デジモノステーション
- Author:小口覺