5Gを伴侶に得たVRに復活の兆しが見えた
5Gのネットワークサービスは高速化・大容量化が実現されることから、あらゆるものがインターネットにつながり、新しいインフラやエンターテインメント、サービスの形が生まれると言われる。その中にはオーディオ・ビジュアル機器も含まれて然るべきだ。映像やゲームの映像を立体視しながら楽しめるVR/AR関連のエンターテインメントも5Gと相性が良いとされている。
筆者の感覚では数年前からCESでVR/AR関連の魅力的なアイテムを見かけることが少しずつ減っているように思うが、今年はパナソニックが現在開発を進めるHDR対応の高画質表示に対応する眼鏡型VRウェアラブルデバイスがとても面白かった。
VR機器のコンポーネントやデジタルカメラのビューファインダーなどを手がける米国の部品メーカー、Kopinと共同開発した1インチのマイクロ有機ELパネルが本機の要を担うデバイス。CESの会場ではパナソニックが撮影した8K/HDRネイティブ映像を4K相当に変換した映像コンテンツをいくつか視聴した。映像の画素構造が全く見えないため、立体視の迫力がとにかくケタ違いだ。豊かな色彩とコントラスト感。リアルな映像の没入感に抗いようもなく引き込まれた。
ここまで説得力のあるVRデバイスなら、例えば家にいながら世界を旅するバーチャル旅行や、異世界を舞台に展開する映画やゲームにも本気でのめり込めると確信した。5Gネットワークにつながって高精細なVRコンテンツが次々に楽しめるようになれば鬼に金棒だ。今回このVRデバイスを体験して「本当にほしい」と感じたのは筆者だけじゃないはずだ。
本機が仰々しいヘッドバンドを頭に巻かなくても、メガネをかけるのと同じ感覚ですっと身に着けられる快適な装着バランスを実現していたことも特筆しておきたい。本機を手元でゆっくりと楽しめる日が今から待ち遠しい。
自動運転時代の車載3Dオーディオは「目をつぶって聴きたくなる」
2020年のCESはソニーが自動運転車を初めてデザインしたことで話題が持ちきりだった。ソニーがクルマのメーカーになろうとしていると受け止めた方も多いと思うが、実際にはそうでなく、ソニーが得意とする「センサー」と「AVエンターテインメント」の技術が、次世代の自動車をはじめとするモビリティと親和性が高いことをアピールするためのショーケースに近いと捉えるべきだろう。
筆者はソニーのデモカーに試乗して、同社独自の立体音響技術「360(サンロクマル) Reality Audio」が車内空間での過ごし方を革新してしまうスゴい技術だと感じた。車内で楽しめるマルチチャンネルサラウンドは取り立てて新しいものではないが、360 Reality Audioは音響空間の中に音源をオブジェクトとして自由自在に配置して、360度全天球に動かせる。クルマの壁を越えて天井から、足下から音が迫り来るような迫力あふれる体験を筆者も味わった。これは耳を澄ませながら、時に目を閉じながら集中して楽しみたくなる。
ドイツの老舗オーディオブランドであるゼンハイザーも独自の立体音響技術を車載エンターテインメントに展開していくことを今年のCESで発表した。AIの支援を受けて、ドライバーがより安全に運転できる自動車の中で楽しめるエンターテインメントの形も少しずつ具現化している。ソニーとゼンハイザー、続くライバルどうしの競争も激しくなりそうだ
LGがAIを活用したバーチャルフィッティングを開始する
LGエレクトロニクスが今年中の商用化を目指す、クラウドAIを活用したバーチャルフィッティングシステム「LG ThinQ Fit」をCESで発表した。3D立体撮影カメラの前に立つ人の姿をキャプチャして、服を着たままの状態で背丈や体のサイズを計測。その人の顔や出で立ちにそっくりなアバターをわずか10秒前後で生成してディスプレイに映し出す。そのアバターに服を着せ替えながら、自分に似合う衣服を探したりコーディネートが手軽にできる活用方法をLGは提案している。
ディスプレイは店頭のスペースにフィットするものが自由に選べるようになっていて、タブレットを代用してもいい。要は3DカメラとクラウドAIとして提供されるThinQ Fitのプラットフォームを導入することで、アパレルショップなどは「AI対応の次世代フィッティングサービス」を差別化のキーアイテムにできるのだ。
さらにショップで作ったアバターとアイテムを収録したカタログデータを、一緒に顧客のスマホアプリに転送して提供するサービスモデルも作れる。顧客はわざわざ店頭に足を運ばなくてもオンラインで自分の体型と好みに合う服を見つけて、ショッピングの続きが楽しめるというわけだ。CESは出展する各社にとっては大事な商談の場でもある。ThinQ Fitへのビジネスパートナーからの引き合いも多く寄せられているとLGの担当者が話していた。
高精細から脱皮を遂げたい8K
5G時代を迎えれば賑やかになると言われる「8K」については、今年のCESで入れ物の8Kテレビがいくつか発表されただけで、あまり刺激的なニュースはなかった。
もっともCESがエレクトロニクスのショーであることを考えれば当然と受け止めることもできる。ただ今後、8Kはテレビで美しい映像が見られるだけでなく、その精細感を活かした新しいインタラクティブエンタテインメントの形をハードとソフトのメーカーがスクラムを組んで模索すべき段階に来ているようにも感じた。
例えば8Kの高精細な画面の向こうに広がる世界を自ら視線の方向を決めて歩けるバーチャルミュージアムなど、VR/ARデバイスの開発から培ったインターフェイスのノウハウがテレビにも活かせるはずだ。PCやスマホの体験を派生させて高精細な大画面をマルチ分割して楽しむコミュニケーションツールやゲームエンターテイメントも作れるだろう。
今年もCESを取材して、2020年に本格的なスタートを切る5Gに牽引されて、AIやオーディオ・ビジュアル分野も大きく前進しそうだが、一方、これまで以上に映像分野などは“ただキレイであればいい”以上の期待と課題がわいてきた。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000121045/
- Source:デジモノステーション
- Author:山本 敦