●What’s ビザールウォッチ?
〈今月の時計〉
BELL & ROSS
BR01 LAUGHING SKULL WHITE
残念ながら、人間に与えられた時間は有限である。誰もがやがては死を迎え、人生という時を刻むことを終えるのだ。つまり時計は、死へと向かい行く残り時間を示すものでもある。ドクロの時計には、生と死に対するメッセージが込められているのだ。
死の芸術はどうやって生まれたのか?
ファッションなら「ハイドロゲン」や「マスターマインド・ジャパン」、スポーツならNLFの「タンパベイ・バッカニアーズ」やサッカーの「FCザンクト・パウリ」、音楽なら「グレイトフル・デッド」や「ミスフィッツ」。ジャンルも時代背景も国籍も全く異なるが、これらに共通するのは、どれもがブランドやチームロゴ、あるいはビジュアルワークにドクロを使っていること。世の中には“ドクロ”がたくさんあるのだ。
ドクロ=死であり、おどろおどろしいイメージがあるにもかかわらず、ドクロは長らく、人類共通のアイコニックなモチーフになっている。これだけ広く使われるのはなぜなのか? その背景には、中世ヨーロッパから広がった死生観が大きく関係している。
14世紀初頭に大流行したペストによって、ヨーロッパの人口は半減した。どれだけ位の高い人でさえ、容易に亡くなってしまい、しかも原因が目に見えないという極限の状況の中で、人々は死を恐れるのではなく死を身近に考えるようになる。その結果、ドクロが人間と踊る「死の舞踊」と呼ばれる芸術作品が生まれ、さらには「メメント・モリ(死を想え)」という死生観が生まれた。あまりにも死が身近だからこそ、死を恐れずに日々を大切にしながら生きていこうと説いたのだ。
ドクロの時計も、こういった姿勢の表れである。死へのカウントダウンを刻む時計に対してドクロを掲げることで、すぐそばにある死を想い、時間を大切にせよと説くのだ。
パリ生まれの時計ブランド「ベル&ロス」は、1994年創業の新興勢力。創業者のひとりが工業デザイナーであったため、時計のデザインやビジュアルコンセプトに定評がある。2005年に誕生した「BR01」シリーズは、航空計器のデザインをそのまま腕時計化したミリタリーウォッチ。大きな角形ケースは視認性に優れるというメリットがあるだけでなく、とにかく目立つのでダイナミックな腕元ができ、特に時計で遊びたいファッション業界者から好まれた。その最新作である「BR01 LAUGHING SKULL WHITE」は、ダイヤルの前面に巨大なドクロを配置するという攻めたデザインを採用。しかも脳天にテンプと呼ばれる機構を配置して、チクタクと動くようになっている。ドクロやストラップをアイボリー色でまとめ、妙なリアリティを追求しているのも面白い。こういった遊び心がファッション好きの時計愛好家を刺激するのだ。
とにかく存在感のある時計だが、その一方で、文化的にも正統派である。戦場という“死が身近にある極限状況”で使われるミリタリーウォッチと、メメント・モリの死生観は相性が良い。特殊部隊の徽章にドクロモチーフが多いのは、死を恐れぬ姿勢の表れだが、ミリタリーウォッチにそういった世界観を取り入れたのだ。
作戦を遂行するために開発されたミリタリーウォッチは、見やすくて壊れにくいことが重要であり、基本的に“真面目な時計”でなければいけない。そのため老舗の名門が得意としているジャンルだ。しかし新興ブランドのベル&ロスは、そういったルールに縛られず、死と時間、メメント・モリからビザールな時計を導き出した。
ドクロの時計はファッション的でもあるが、哲学的でもある。その価値を知ると、より魅力的に見えてくる。
BELL&ROSS
BR 01 LAUGHING SKULL
手巻き、SSケース、ケースサイズ縦46×横46㎜。世界限定99本。1,350,000円
問ベル&ロス ジャパン ☎03-5977-7759
http://www.bellross.com
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★★4
メカニズム★★★3
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★4
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000120936/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生