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「ライバルはラグジュアリーブランド」日本酒スタートアップのClearが2.5億円調達

Clear代表取締役 生駒龍史氏

日本酒スタートアップのClear(クリアー)は2月3日、総額2.5億円の資金調達実施を発表した。Clearは、日本酒に関するWebメディアを運営しながら、プレミアム日本酒のブランド「SAKE100(サケハンドレッド)」を展開。酒蔵と共に開発した高品質・高価格の日本酒をネット経由で販売するなど、日本酒に特化した事業を展開している。

海外で高まる日本酒ニーズによりスタートアップに勝機

ここ数年、国内外でSAKEスタートアップの動きが活発だ。これはしかし、日本酒産業そのものに勢いがあるということではなく、むしろ産業自体はもう数十年、ずっと衰退傾向にある。なぜ、この分野で新興企業に注目が集まるのだろうか。

農林水産省「日本酒をめぐる状況(令和元年10月)」(PDF)によると、日本酒の国内出荷量はピーク時(1973年)には170万キロリットルを超えていたが、近年は50万キロリットル程度まで減少。一方で吟醸酒、純米酒といった「特定名称酒」の比率は増加傾向にあり、出荷量も一般酒と比べれば、そう大きく落ち込んでいない。

また、国内出荷量が減少傾向にある中で、輸出量は日本食ブームなどを背景に増加傾向にあり、2018年の輸出総量は約2万6000キロリットルと10年で倍になった。金額では2013年に初めて100億円を突破して以来増え続けており、2018年には222億円と10年で3倍の伸びとなっている。

さらに、日本酒の海外輸出を促進するため、政府も後押し。輸出向け商品のみを製造する場合に限り、日本酒製造場の新設許可を政府が検討していることが2019年11月、明らかになった。これまでは需給均衡を保全するため、原則として清酒製造免許は新規発行されていなかったのだが、これで国外向け限定とはいえ、日本酒造りに新規参入する道が開ける可能性が出てきた。

こうした状況のもと、パリに醸造所を開設し、世界酒としての日本酒開発を進めるWAKAZEや、地方に眠る酒蔵をよみがえらせ、土地オリジナルの日本酒を蔵と組んで販売する日本酒応援団、AIによる日本酒レコメンドサービスや、SAKEセレクトショップなどを運営するMIRAI SAKE COMPANYといったスタートアップが登場。資金調達や大手企業との提携を実現してきている。そのひとつが、SAKE100などを展開するClearだ。

Clear代表取締役の生駒龍史氏によれば「国外でもSAKEベンチャーは増えている」とのこと。同社の調査では現在、45〜50社ぐらいのスタートアップがあるそうだ。日本酒の海外出荷量は年120%成長を遂げているが、「フランスワインの世界市場は1兆2000億円規模なので、(222億円の日本酒市場は)まだまだ伸びしろがある」と生駒氏は考えている。

「これは歴史的に革命的なことだ」と生駒氏は言う。「これまで日本酒のプレイヤーは減ることはあっても、新たに入ってくることは長年なかった。それが近年、新規参入が始まっている」(生駒氏)

この状況を生んだ理由について「インバウンド訪問者が増え、日本各地で本場の日本酒を飲んだ人たちが、帰国してから『地元でも日本酒が飲みたい』と考えて動き出していることや、ユネスコの無形文化遺産に登録されたことで和食がムーブメントとなり、それに合う食中酒として日本酒が求められていることなどが考えられる」と生駒氏は分析している。

輸出のための酒造免許発行だけではなく、内閣府や国税庁などの関連省庁が中心となった、クールジャパン戦略の枠組みの中で促進する日本産酒類の輸出に関わる予算も、年々増加している。

「日本に1400ある蔵元は、1カ月に3社廃業している。これは赤字だからだ。蔵元は『安くてうまい』酒を追求してきたし、国税庁も金額ではなく、生産する量に対して課税してきた。一方で多様化は進んでいる。(大量生産を想定した)ビジネスモデルが同じようには成立しなくなっている」(生駒氏)

生駒氏は「日本酒業界にはラグジュアリーブランドが求められている」と語る。「海外では、フランスの第1級格付けのシャトーが造るワインのような、最上級の日本酒へのニーズがある。そういう環境では、レガシーなプレイヤーでなく、スタートアップにチャンスがあると見ている」(生駒氏)

世界に認められたプレミアム日本酒「百光」

Clearは2013年2月の設立。2014年にWebメディア「SAKETIMES」をローンチし、その後、英語版の「SAKETIMES International」も立ち上げ、運営している。

Clear代表の生駒氏は「一ファンとして日本酒の情報を集めるときにメディアが必要だったが、それがなかったので自分で作ることにした」とSAKETIMES立ち上げの経緯について話す。「当時は日本酒に関する情報がほとんど、流通していなかった。ちょうどバーティカルメディアの運営がはやっていた頃。2014年にSAKETIMESを立ち上げたときには、取材先の蔵元も『どこの馬の骨か分からないメディアが来た』という感じだったが、地道に取材を続け、2016年ぐらいからは、逆に執筆依頼が来るようになった」(生駒氏)

SAKETIMESのページビューはローンチから5年間伸び続けており、現在は月間90万PV、45万UUと、日本酒専門Webメディアとしては国内でもトップクラスになったという。生駒氏は酒メディア運営の知見をワインやウイスキーなど、ジャンルを広げて横展開するのではなく、「日本酒の未来をつくる」という最初の動機に従い、深掘りしていくことを選んだ。その結果生まれたのが、2018年7月にスタートした日本酒ブランド、SAKE100だ。

SAKE100は、海外で求められる“最上級の日本酒”を酒蔵と共に開発し、販売する。「日本酒のラグジュアリーブランドをつくる」ことを目指す生駒氏は、2018年10月のシード調達から、今回のシリーズAラウンドに至るまで「定量より定性に注力してきた」と、日本酒におけるブランドづくりの重要さについて強調する。

SAKE100ブランドで提供されているプレミアム日本酒の例として、山形県の楯の川酒造と開発したフラッグシップ商品「百光(びゃっこう)」がある。百光は、山形県産の有機栽培で作った酒米を精米歩合18%まで磨いて作る、「上質」を追求した日本酒として、2018年7月にリリースされた。

リリースから1年足らずで、百光は世界的なワイン品評会「IWC(インターナショナル ワイン チャレンジ)2019」の純米大吟醸酒部門でゴールドメダルを獲得。また“フランス人によりフランス人のために開催される”日本酒コンクール「Kura Master 2019」でも、純米大吟醸酒部門でプラチナ賞を受賞している。「同じ年で、2つの賞を受賞することは少ない」と生駒氏はプロダクトの品質に自信を見せる。

その品質の高さから、一流ホテルや有名レストランでソムリエやシェフに認められ、パレスホテルやアマンリゾーツ、星野リゾートなどでも採用されているという、SAKE100の日本酒。ホテル・飲食業界といった業者だけでなく、個人向け販売でも「直近でリピーターは年間8万5000円〜9万円を購入し、年間100万円以上の購入者も2人いる。エンゲージメントは高い」と生駒氏は述べている。なお、販売の99%は消費者向けが占めるという。

蔵とのネットワークを大切にしながら海外展開図る

一般消費者からも認められ、海外および有名店でプロ中のプロによる評価も得たSAKE100に、投資も集まった。今回のシリーズAラウンドに参加した投資家は下記のとおりだ。

SAKE100の売上拡大策について、生駒氏は「面は広げたいけれど、ブランドとして需給バランスも大事。必要以上に生産を絞って無理に価値を上げることはしないけれども、どんどん作って出すということもしない」と語る。「そもそも製造サイクルに制限がある日本酒は、ブランドづくりと相性が良い。米を仕込んで、冬からある一定の時期酒造りをしたら、その年は造りたくても造れないというところに価値がある」(生駒氏)

2020年からは、調達で得た資金も活用して、SAKE100の海外展開を図ると生駒氏はいう。冒頭で挙げた農水省の資料によれば、日本酒の輸出額で見た輸出先上位国は、アメリカと中国・香港だ。全体の約3分の1がアメリカ、ほぼ同額で中国・香港の合計が続き、残りが他の各国となる。

「フランスへの進出はブランドとしての意義は強いが、マーケットは小さい。中国は市場の伸び率はよい国だが、ラグジュアリーブランドとしての日本酒を展開するにはまだ、少し早いのではないかと見ている。そこで、アメリカのサンフランシスコを中心としたベイエリアで事業展開を図るつもりだ」(生駒氏)

サンフランシスコは、郊外にワインの高付加価値化に貢献した産地・ナパバレーもあり、ミシュラン3つ星レストランはニューヨークより多い美食都市で、高単価のプレミアム日本酒へのニーズも高いと生駒氏はにらむ。「日本と同様、高級店や富裕層へアプローチしていく。進出するなら早い方がいい」(生駒氏)

5〜6年前の投資環境では日本酒スタートアップの旗を掲げても「投資家がピンとこなかった」が「今は変わった」と生駒氏はいう。「グローバルでの成功、ユニコーンを作るといった投資家の課題をかなえるのが、必ずしもWebサービスやB2B SaaSでなくなってきている今、強いのは(リアルな)プロダクトだ。D2C文脈でなくともグローバルに展開できて、富裕層にアプローチできる日本酒は、産業そのものがド真ん中に入りはじめている」(生駒氏)

国内外のほかのSAKEスタートアップと比べて「メディアで培った事情理解があることがClearの強み」と語る生駒氏は、SAKETIMESの運営のなかで、蔵を数百軒まわって誰よりも日本酒についてインプットしてきた、と自負する。「日本酒という産業を背負っていきたい。日本酒への熱意と情熱では誰にも負けない、ということを知ってもらっている、蔵とのネットワークをこれからも大事にしていきたい」(生駒氏)

「競合はエルメスやルイ・ヴィトンといった、ほかのラグジュアリーブランド」という生駒氏。「“心を満たし、人生を彩る”圧倒的な品質の日本酒づくりを通して、(あると暮らしやすさが上がるといった)機能ではない、プレミアムな日本酒のある豊かさ、ライフスタイル、世界観を実現したい」と語っていた。

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