スマートフォンやSNSを含むインターネットの普及によって「個人が作成したコンテンツ」の存在感が増してきた。ユーチューバーを筆頭に影響力を持つ個人が次々と台頭してくるのに伴い、彼ら彼女らの活躍を支えるMCN(マルチチャンネルネットワーク)も複数のプレイヤーが登場し、しのぎを削っている。
国内のMCNと言えば2017年に東証マザーズへ上場したUUUMがその代表格だけれど、今回紹介するNateeは「TikTok」に特化したMCN。つまりTikTokの領域においてUUUMのようなポジションを確立しようとしている。
そのNateeは2月5日、アカツキをはじめとする複数の投資家より資金調達を実施したことを明らかにした。同社では2019年5月にシードラウンドで複数の投資家より約1800万円、同年10月にプレシリーズAラウンドでアカツキより約5000万円を調達済み。デットも含めると累計で約7500万円を調達している。
同社に出資している投資家リストは以下の通りだ。
- アカツキ(同社の投資プロジェクトであるHeart Driven Fundから)
- East Ventures
- 野口圭登氏
- 森本千賀子氏
- JJコンビ
- 匿名の投資家複数人
中国版のTikTokから刺激を受けてTikTok特化のMCNに
NateeはビズリーチでエンジニアとしてスタンバイやHRMOSに携わっていた小島領剣氏(代表取締役)とリクルートキャリア出身の朝戸太將氏(取締役COO)が2018年11月に創業したスタートアップだ。
ファウンダーの経歴だけ見るとHRTechの事業をやっていそうな気もしてくるけれど、彼らが選んだのはグローバルで急速に成長を遂げているショートムービーアプリのTikTokだった。
「中国版のTikTok(Douyin)を見た時にこれはやばいなと。検索による能動的なインターネットが終わって、レコメンドによる自動的なインターネットの時代が来た。まさにテレビの世界がモバイルでもようやく実現されたんだなと感じた。レコメンドエンジンの優秀さや(開発元の)ByteDanceの技術力も含めて、YouTubeやInstagramに並ぶようなサービスになると大きな可能性を感じた」(小島氏)
Nateeのミッションは「人類をタレントに!」。「自己表現をしながらありのまま生きる人たちを増やしたい。その人たちがもっと稼げるような環境を作りたい」(小島氏)という思いから、TikTokにフォーカスしたMCNという道を選択した。
ちなみに小島氏は学生時代に教育領域で一度起業を経験。当時から同じようなテーマを掲げていたため、ドメインや手段こそ大きく異なるものの、やりたいこと自体は以前から変わっていないそうだ。
現在Nateeでは数十万人のフォロワーを抱える人気TikTokerを含め、約120名のタレントを抱えている。年齢層は10代から30代まで幅広く、ジャンルも美容やスポーツ、お笑いなど様々。中にはトイプードルもいて、所属タレントのフォロワー総数は1500万人近くに上る。
特にNateeが重視してきたのが「しっかりと売れる人を育てること」(小島氏)。知っている人も多いとは思うけれど、現在日本で提供されているTikTokと中国のDouyinでは機能が異なり、中国版でのみ搭載されているものがいくつかある。たとえばECやライブ配信の仕組みがそうだ。
小島氏が重要視するのがTikTok上でモノを売れるEC機能。現在TikTokのMCNではフォロワー数を基にした純広告が主なマネタイズ方法になっているが、今後クライアントが「それが本当に効果に結びついているのか」をよりシビアに追求するようになれば、純広告だけでは思うような収益をあげられない可能性もある。
それもあって、ゆくゆくはTikTokにEC機能などが入ってくることも見越して、しっかりと活用できるようなタレントを今の段階から育てているのだという。
創業から1年ほどが経過し徐々に基盤が整ってきたため、昨年の秋頃からは広告営業もスタート。まだまだ規模は大きくないものの、すでに複数のナショナルクライアントとも取引がある。また1月にはTikTokの公認MCNとして契約を締結した。
徹底的なテックドリブン武器に成長
Nateeの特徴の1つは「徹底的なテックドリブン」であることだ。小島氏がエンジニアということもあり、初期から自社でタレントのアサインツールや動画アクセス解析ツールなどを内製。これを用いて有望なタレントをいち早くスカウトしたり、制作したコンテンツの分析やチューニングに力を入れたりしながら着実に事業を伸ばしてきた。
TikTokのMCN自体は国内でも複数のプレイヤーが存在するが、エンタメ業界がアナログな要素が多い業界でもあるため、テクノロジーに秀でた企業は少ない。企画やキャスティングに強みを持つMCN(事務所)が多い中で、クリエイティブ制作や広告・アカウント運用、効果測定までをワンストップでできるのがNateeの強みになっている。
「インフルエンサーをキャスティングして何らかの投稿をした場合、『再生回数はこのぐらいでした』で終わってしまいがち。自分たちはたとえば背景の色やテロップの色を変えたらどうなるのか、といったように細かい改善と分析を繰り返しながら、データを基にクリエイティブの勝ちパターンを探っていくような取り組みを続けている」(小島氏)
現在は案件管理などのオペレーションを効率化・自動化する社内ツールも開発中だ。MCNは案件やタレントの数が増えるに伴ってオペレーションコストも増加しやすい構造だが、Nateeではそこにテクノロジーを取り入れることで、より効率的に運営できる体制を作ろうとしている。
外からは見えづらいが、中ではゴリゴリとテックを活用している点が同社の面白いポイントの1つかもしれない。
TikTok×MCNで確固たるポジションの確立目指す
今回実施した資金調達は主に組織体制の強化が目的。広告営業やタレントマネージャーを中心にメンバーを増員しながらクライアントとのタイアップに力を入れるほか、上述した社内ツールの開発などを進める。規模が大きくなってきたこともあり、コンプライアンス面の教育も含めて良質なタレントの育成にも一層力を入れる方針だ。
中長期的には日本のタレントやIPがグローバルでも活躍できるようにするのが1つの目標。すでに半年ほど実験的に中国チームを動かしているそうで、一部のコンテンツを中国語に翻訳してDouyin上で配信する試みも始めた。数年後には海外の売り上げ比率を全体の50%ほどまで高めたいという。
MCNは一定のブランドを築ければネットワーク効果が働き、有望な人材が次々と集まってくる可能性も高い。そういう意味では1社だけが勝ち残る訳ではないものの「Winner takes allになりやすい市場」(小島氏)であり、NateeとしてはしばらくTikTok1本に絞って勝負をしていくつもりだ。
「現状ではTikTokはマネタイズが難しいプラットフォームであり、YouTubeなどと繋げて運用している企業も多い。ただ自分たちはその可能性を信じて、TikTokに全張りする。MCNは人が人を呼ぶモデルであり、『あの人がNateeに所属しているから』という理由でタレントが集まる事例が徐々に生まれてきた。市場を取り切るなら今年が勝負だと思っているので、TikTokと心中する気持ちでチャレンジしていきたい」(小島氏)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/02/05/natee-fundraising/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:masumi ohsaki