「採用において主観的な意思決定が多い。“なんとなく”ではなく定量化したかった」
そう話すのは、機械学習の技術を用いることで、採用候補者が入社後にどれくらい活躍するのか、退職する確率はどれくらいなのかを予測する、ピープルアナリティクスサービスの「TRANS.HR(トランスエイチアール)」を開発するTRANS(トランス)で代表取締役を務める塚本鋭氏。
TRANSが経営者1000人を対象に行なった調査によると、「『面接での見極め』が自分は“平均以上”だと思うか?」という問いに対し、68%が「思う」と回答。そして、「『面接での見極め』が正しいか定量的に確認したことがあるか?」という問いに対し、89%が「ない」と答えた。
「経営には『ヒト、モノ、カネ』とあるなかで、一番『ヒト』の領域が定量化されていないと感じている」と塚本氏は言う。
さらに、同社が26歳から79歳の会社役員1000人を対象に2019年10月に実施したインターネット調査は、「前職で成績を残した優秀な人材を採用すれば活躍すると約7割が回答」、「しかし、転職前後で同じくらい活躍をした人は約3割しかいない」と結論づけた。
例えば、膨大な従業員を抱える大企業の出身者が、たとえ優秀な人物だとしても、少人数で切磋琢磨しなければならないスタートアップにフィットするとは限らない。経営者らが直感的に“ハマる”と感じたとしても。そう塚本氏は話す。
塚本氏は東京大学の大学院で機械学習や大規模シミュレーションに関する研究に従事し、人工知能学会研究会優秀賞、東京大学工学系研究科長賞(総代)などを受賞した。大学院を修了後、野村総合研究所にコンサルタントとして入社、2013年にクラウドワークスに8人目の社員として参画し、2014年には同社のIPOを経験。同氏が2018年に設立したTRANSでは、「採用した人が活躍しない、すぐに辞めてしまう」といった課題をデータ活用で解決することを目指す。
TRANS.HRは、「未来予測に最適化」されているという、自社開発の適性診断「TRANS.適性診断」を用意している。その適性診断により、採用候補者が「感性」的か「理論」的か、など、6つの軸を評価し、先に診断を受けた現社員たちのデータと見比べることで、入社後活躍や離職確率を予測し、採用や配置などの判断基準として利用できる。特徴は、候補者の採用から退職までのHRデータを一元管理し分析できる基盤を用意し、特許申請中であるHR領域に特化した機械学習の予測アルゴリズムを持つこと。2019年6月のβ版公開から7ヵ月で、上場企業を中心とした120社以上に利用されるようになった。
そんなTRANSは2月13日、メルカリ取締役会長の小泉文明氏、キープレイヤーズ代表取締役の高野秀敏氏、クラウドワークス代表取締役社長CEO吉田浩一郎氏らを引受先とする第三者割当増資、ならびに融資により、約5000万円の資金調達を実施したことを発表した。調達した資金をもとに、同社はTRANS.HRの正式版ローンチに向け、研究、開発を進める。
今後の展開について、塚本氏は「(TRANS.HRは)今は企業が自社に合う人材を判断するためのツール。だが、利用社数が増えていくと、各社の『活躍モデル』が構築される。応用すると、『ある応募者がどの会社に行くと一番活躍できるのか』が数値化できる」と説明。
「マッチングの制度を高めることにより、日本全体の生産性を上げられるのでは。労働人口が減っていく中で、社会全体での最適配置をどうやっていくか。そこがTRANSが抱いている一番大きな課題だ。データを使って最適配置が可能になるのではないか。そこに向けてトライしているところだ」(塚本氏)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/02/13/trans/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Daisuke Kikuchi