毎年1月にラスベガスで開かれる世界最大級の家電見本市、CES。例年に劣らず、今年の「CES 2020」でも多くの最新技術や製品が発表された。
そんな中、特に優れた製品に贈られる「CES2020 Innovation Award」を受賞し、注目を集めた日本発の製品がある。電子制御のIoT筋力トレーニングマシン「Higatrec(ヒガトレック)」だ。
今回は同製品を開発する株式会社All You Need Isの代表・比嘉一雄(ひが かずお)氏にインタビューを行い、Higatrecの特徴や開発の背景、そして未来の筋トレの姿について話を聞いてきた。
知らず知らずのうちに楽をしている従来の筋トレ
比嘉:はい、Higatrecは一言でいうと、データが取れる電動式のスミスマシンです。スミスマシンというのは、バーベルがレールに固定され軌道が上下に限定されているトレーニングマシンのこと。
スミスマシンでは、両サイドに重り(プレート)を付けることで負荷を変えることができますが、Higatrecでは電気制御によって負荷を調整します。
これにより、「1人で」「安全に」「効率的に」筋肉を追い込むことができるんです。
比嘉:順を追って説明しますね。そもそもこの効率性というのは、「コンセントリックフェーズ(上げるとき)よりエキセントリックフェーズ(下げるとき)のほうが、筋肉は大きな力を発揮できる」という筋生理学理論を前提としています。
簡単にいうと、ベンチプレスの場合、バーベルを上げるときよりも、下げるときのほうが大きな力を発揮することができるんです。例えば、上げられる最大重量が100㎏だとしたら、下げるときに耐えられる重量は140㎏くらいあるということ。
ーーということは、通常のマシンでトレーニングする場合、下げるときはある意味「サボっている状態」ということですか!?
比嘉:そうですね。上げられる重さは、下げるには軽すぎるんです。
Higatrecは電子制御にすることで、上げるときと下げるときの負荷を変え、常に筋肉に最大の刺激を与えます。そうすることで効率良く筋肉を成長させることができるんです。
ーーちなみに、負荷(重さ)の設定はどのようにして行うんですか?
比嘉:トレーニング前に「筋力測定」を行うことで、上げるときと下げるときでそれぞれユーザーが耐えられる最大の重量を測定します。これを元に負荷を決定していくわけですが……ただそれだけではありません。
例えば、ベンチプレスを行う場合、当然1回目よりも5回目のほうが力が出ないですよね。また、上げて下げるという動作のなかでも、位置によって出せる力が異なります。
そういったことを考慮して、Higatrecでは“常に最大限の力を出し切る”ようにプログラミングされているんです。
ーーだからこそ、少ない回数でも筋肉を追い込むことができるんですね。
アナログな筋トレ世界にIoTを
比嘉:はい、それがHigatrecのもうひとつの特徴です。
一度計測したデータはIDに紐付けて保存され、次のトレーニングでも活用できます。また、データはすぐにスマートフォンのアプリ上で見ることができるんです。
ーーなるほど、トレーニング結果をいちいちメモする必要もないわけですね。
比嘉:そうですね。
そもそも、これまでトレーニングメニューがどのようにして管理されていたかというと、「何キロを何回で何セットやったか」というものでした。これでは「どのように上げて、どのように下げたのか」という情報が欠けているんですよね。
これによって、毎日のトレーニングボリュームをTFOで管理することができます。「今日は3万TFOまでやろう」というように。
ーー確かに最近の「IoTでデータを収集するという流れ」に反して、筋トレの世界ってアナログな部分が多い気がします。
比嘉:そうなんですよね、それがいいんだっていう人もいると思いますけど。(笑)
でも、私は筋力のデータを集める、ということに意味があると思うんです。筋力のデータを集めている会社って意外とないんですよね。
これって多分「必要がないから」ではなく、エアポケットなんじゃないかと思うんです。
ーーでは御社では今後、そのデータを活用してビジネスを展開していく予定ですか?
比嘉:いえ、その前の段階です。まずはデータを取る対象者を広げたいと思っています。
今データを取得できるのは「筋トレ好き」に限定されるので、筋力データにかなりの偏りがあるんです。(笑)
なので、このマシンを筋トレ初心者や女性の方、あるいは介護の領域に広げていくことで幅広い筋力データを集めていきたいと考えています。
作ったのは自分の筋肉のため
比嘉:筋肉を大きくしたかったからです……自分の。(笑)
私は大学院でずっと筋肉について研究し、先ほどお伝えした「エキセントリックとコンセントリックの力の差」をはじめとした筋肉の成長に関する理論を学びました。
その上で、効率良く筋力トレーニングを行うことを考えたとき、物理的なウェイトだと限界があると思ったんです。
ーー自分が満足できる筋トレマシンを作るためにHigatrecを開発した、と。
比嘉:開発のきっかけは、そうですね。
でも実際に開発してみて、皆さんに使ってもらって、少しずつ考え方が変わってきました。より多くの人に使ってもらいたいと思うようになってきたんです。
そうすると、「こんな機能も欲しい」というのがどんどん出てきて……。
ーー例えば?
比嘉:一番実現させたいのは「フォーム習得・修正」の機能です。
現段階では、ある程度トレーニングをしていて正しい姿勢で行える人が対象になっています。ここにフォーム修正機能が加われば、本当の意味で「1人で安全に筋トレできる」ようになると思うんです。
さらに、いろんな人のトレーニングデータが入っているので、例えば「大谷翔平と同じトレーニングをしたい」といった要望にも応えられるんですよ。
ーートレーニングが楽しいと思える人が増えそうですね。
比嘉:そうですよね。今後はHigatrecの2号機もそうですけど、腕トレーニング用のマシンや既製品に後付けできるセンサーなんかも作りたいなと思っています。
筋トレの世界にIoTを取り入れたいですね。
All You Need Is代表取締役
CALADA LAB.代表取締役。
1983年、福岡県生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業後、東京大学大学院に進学。石井直方研究室にて筋生理学を学ぶ。「研究」と「現場」を繋ぐトレーナーとして活動。
月間200本以上のパーソナルセッションを行いながら、さまざまな執筆活動やメディア・セミナー活動を行う。書籍は40冊、累計100万部以上。
Youtubeチャンネル「東京筋肉大学」でダイエットの正しい情報を忖度なしで配信している。
- Original:https://techable.jp/archives/118222
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:Techable編集部