エンジニアやデザイナーに特化した副業・複業採用プラットフォーム「Offers」を運営するoverflowは3月3日、複数の投資家よりシードラウンドで1億円を調達したことを明らかにした。
2017年6月創業の同社にとっては今回が初めての外部調達。調達した資金は主に人材採用に用いる計画で、Offersのさらなる機能拡充やサポート体制の強化を進めていく。なお今回overflowに出資した投資家陣は以下の通りだ。
- East Ventures
- DNX Ventures
- 名村卓氏(メルカリ執行役員CTO)
- 佐久間衡氏(ユーザベース取締役候補 B2BSaaS事業 CEO)
- 永見世央氏(ラクスル取締役CFO)
- 朝倉祐介氏(シニフィアン共同代表)
- 胡華氏(メルカリ / Advanced Technology)
- その他複数の投資家
約2年の「正社員ゼロ、副業・複業経営」経験を活かして開発
Offersは2019年5月にα版リリース以降、現在までに累計で50社以上が活用し、数千人規模の個人ユーザーが登録している副業・複業採用プラットフォームだ。
企業が求人を出して応募を待つのではなく、登録されているエンジニアやデザイナーにオファーを送って採用するダイレクトリクルーティング型のサービス。各ユーザーのプロフィールページを通じて「定量(スキル偏差値)」「定性(ソーシャル)」「レファレンス(共通の知人)」という3つの情報をチェックし、自社にマッチした人材と接点を持てることが企業にとっての特徴になる。
個人ユーザーは、複数のSNSアカウントを連携することによっていちいち手打ちで入力せずとも自動で履歴書を作ることが可能。GitHubやQiitaのアカウントを紐付けておけば、言語ごとのスキル偏差値も算出される。
偏差値は自分の書いコードや記事の量、他者からの評価などから割り出されるもので、参照ソースや算出ロジックに違いはあれど「Findy」や「LAPRAS」と似ている部分もある。良質なアウトプットをしていればスコアが高くなり、それだけ採用担当者の目にも留まりやすい。
このように生成されたプロフィールを基に企業は候補者を絞り込んでいく。スキルや経歴だけでなく、連携しているSNSの投稿なども踏まえて定性的な部分の相性を確かめたり、社員と候補者との共通の繋がりをチェックすることもできる。気になるユーザーが見つかれば企業側からオファーを送り、マッチングした場合にはチャット形式でのコミュニケーションが始まる仕組みだ。
overflow代表取締役CEOの鈴木裕斗氏によると、企業からはオファーの簡単さや返信率の高さが好評なのだそう。Offersでは副業が軸になっているため、正社員採用と比べてユーザー側の敷居が低いのが1つのポイントだ。転職や副業の意欲を示しているユーザーを絞り込めるほか、プロフィールページの豊富な情報から自社に合いそうな候補者を探せるので“明らかなミスマッチ”を事前に防げるのも大きい。
料金体系は成約時に20〜80万円の手数料を得るモデルで、企業と個人ユーザーの契約内容(月間の稼働時間)によって具体的な金額が決まる。
副業プラットフォーム自体はすでにいくつかあるものの、Offersが面白いのは運営のoverflow自体が創業から約3年にわたって「正社員ゼロの副業・複業経営」を実践し続けてきたこと。これまで同社には累計270名のメンバーが携わっているが、創業者を除く全員がフリーランスや本業を別に持つ副業メンバーたちだ。
この少々特殊なチーム編成はサービスにも活かされていて、たとえばつながりを可視化する機能は自社の経験も踏まえて実装したもの。overflowの副業メンバーは約8割が紹介経由でチームに加わっているそうで、共通の知人や人の繋がりを見える化することにはこだわりがあるようだ。
また企業をサポートするカスタマーサクセスチームはエンジニアないしエンジニア採用経験があるメンバーのみで構成され、現場経験と副業採用の実体験を合わせることでクライアントの「エンジニア・デザイナー×副業(複業)採用」を支援している。
複数回のピボットの末にたどり着いた副業プラットフォーム
overflowはサイバーエージェント時代の同僚だった鈴木氏、田中慎氏(代表取締役CPO)、大谷旅人氏(共同創業者 CTO)の3人が2017年6月に立ち上げた。
田中氏と大谷氏はともにエンジニアとしてサイバーエージェントなどで活躍。鈴木氏は同社のAmebaプラットフォームの管轄責任者を経て、iemoの代表取締役やDeNAキュレーションプラットフォームの広告部長などを務めてきた人物だ。
そんな3人が創業したoverflowのテーマは「時間を増やす」こと。人々が自由に使える本質的な時間を増やすべく、その障壁となるものや、世の中の非効率をなくす事業を考えた結果、最初に着目したのが「お金の問題」だった。
そこでoverflowではライフプランを作ると専門家からそれに沿ったアドバイスをもらえる「お金のパーソナルトレーナー」サービスを考案。会社としてはPMFを達成するまで外部調達を実施しないことを決めていたため、同サービスを開発する傍らキャッシュを稼ぐ事業としてコンテンツ制作やメディア運営に関するコンサルティング事業も手がけた。
最終的には事業の将来性などを検討した結果、お金のサービスからのピボットを決断。そこから現在のOffersに至るまでにも「4〜5個のプロダクトを試した」(鈴木氏)そうだ。
「(金融サービスの運営を通じて)たくさんの相談を頂いたが、ほとんどのアドバイスは収入を増やすか支出を減らすかになる。支出を減らす施策は結果的に本人の自由を制限する方向に向かいやすいこともあり、個人の収入を増やせる仕組みを次の事業を通じて作りたいと思った」
「その時ふと自分たちの2年間を振り返って気づいたのが『正社員ゼロ』でずっと会社を作ってきたということ。副業・複業メンバーだけでも色々な新規事業にチャレンジできていたし、コンサルティング事業では成果も出せていた。副業のインパクトの大きさや、働き方を自由に選択できる環境の必要性を自社の経験を通じて感じていたことに加え、ちょうど副業がトレンド化し始めたタイミングでもあったので、この領域で新しい事業を作ってみようと開発したのがOffersだ」(鈴木氏)
目指すのは「フレキシブル経営」のインストール
そのような背景で2019年5月にα版リリースを迎えたOffersは、上述した通り1年間で累計50社に導入。プロダクトやCS体制の作り込みも進み、クライアントの反応も含めて手応えを掴めたため、さらなる事業拡大に向けて初の外部調達に踏み切った。
調達した資金は社内の体制強化に用いる計画。Offersには現在20名近くのコアメンバーがいるが(もちろん正社員メンバーはゼロだ)、新たに人員を加えてプロダクトの機能拡充なども進めていく。
鈴木氏によるとOffersでは「3次元構想」を掲げていて、今後は大きく3つの方向に拡張する方針。別職種への拡張やグローバル展開など市場拡大を狙うほか、副業にチャレンジしたい人のボトルネックを解消する新規事業(たとえば確定申告を簡単にするサービスなど)、個人のパフォーマンスデータを活用した採用モデルの構築などに取り組む予定だ。
「自分たちが目標としているのは雇用形態にとらわれない人材採用により、経営スピードを最大化するとともに個人の働き方を自由にする『フレキシブル経営』を多くの企業に広げていくこと。企業がその経営スタイルをインストールするための手段を探した際、Offersが1番使いやすいサービスになっている状態を目指してプロダクト開発を進めていく」(鈴木氏)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/03/03/overflow-fundraising/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:masumi ohsaki