今、クルマ好きの間で、とある輸入車の“最終モデル”が注目を集めている。それが、VW(フォルクスワーゲン)の7代目「ゴルフGTI」のファイナルモデルで、日本限定600台となる「ゴルフGTI TCR」だ。
ベースモデルである「ゴルフ」は、2019年秋に本国でフルモデルチェンジを果たし、8代目へと世代交代。さらに、ゴルフのスポーティ仕様であるゴルフGTIも、つい先頃、次世代の8代目モデルがお披露目された。
果たして、7代目の最終仕様となるゴルフGTI TCRは、どんなクルマなのか? 街乗りからワインディングまで、さまざまなシーンで実力をチェックした。
■別格のゴルフにあってGTIはさらに特別な存在
欧州車は熟成した最終モデルが狙い目――。これは、クルマ好きの間で定説化しているフレーズだが、クルマのモデルサイクルなどを考えれば、決して的外れな指摘ではない。
欧州車に限らず、他の輸入車や日本車も同様、クルマはフルモデルチェンジを経て新型へと生まれ変わっても、細かい改良を重ねて進化を続けていく。そして、次の世代へとバトンタッチされる直前の最終モデルは、デビュー当初に見られたウィークポイントを多数解消。必然的に完成度は高くなる。徐々にアップデートを重ねてバグなどを解消していくスマホのOSと同様、デビュー直後が必ずしもいいわけではなく、バージョンアップを重ねて熟した最終モデルの方が、必然的に信頼性は高くなるわけだ。
今、日本では、7代目の最終モデルを絶賛発売中のゴルフだが、そもそもゴルフとは、どんなクルマなのだろうか?
ゴルフは、“Cセグメント”と呼ばれるコンパクトクラスに属すハッチバックで、全長は4.3m。日本車のライバルはトヨタ「カローラスポーツ」や「マツダ3」、スバル「インプレッサスポーツ」などで、海外に目を向けるとメルセデス・ベンツ「Aクラス」やBMW「1シリーズ」も同じクラスに属す。そんな、世界中に競合がひしめく激戦区を戦い続けるモデル、それがゴルフなのである。
しかしそうした中にあっても、ゴルフだけは別格だ。ヨーロッパで最も多く販売されるモデルであると同時に、そもそも同クラスは、1974年にデビューした初代ゴルフがマーケットを創造したといっても過言ではない。そのためCセグメントは、通称“ゴルフクラス”とも呼ばれているし、VWのライバルメーカーは、ゴルフを基準に車両開発を行っているといっても過言ではない。つまりゴルフは、同クラスを代表するリーダー的存在なのだ。
そんなゴルフのラインナップにあって、「ゴルフGTI」はさらに特別な存在。初代ゴルフから設定され続ける伝統的なスポーツグレードで、高性能エンジンを搭載し、内外装にはさりげなく、特別なコーディネートが施されている。
■これまで上陸したGTIの中で最も俊足
ここに紹介するゴルフGTI TCRは、別格のゴルフであるゴルフGTIをベースに、さらに特別なモデファイを施した1台だ。
その要となるのはエンジンで、GTIのそれではなく、さらに上位のスポーツ仕様「ゴルフR」用のエンジンをベースにチューニング。排気量は2リッターながら、290馬力を発生する。ノーマルのGTIに比べると、なんと60馬力もパワーアップを果たしているのだから、特別感は尋常じゃない。実際、停止状態から100km/hまでの加速に要する時間は、わずか5.6秒。これまで日本で販売されたどのゴルフGTIよりも俊足だ。
さらに、減衰力を電子制御するショックアブソーバーを組み合わせた専用サスペンションや、電子制御油圧式のフロントディファレンシャルロック、さらに、強化されたブレーキや19インチのタイヤ&ホイールなどで走りを強化している。
そもそも、車名に輝く“TCR”とは、4ドアまたは5ドアで、2リッター以下のターボエンジンを搭載する市販FF車をベースとしたマシンで争われるモータースポーツカテゴリーで、VWもゴルフGTIベースのマシンで参戦中。このゴルフGTI TCRは、TCRをイメージして作られた公道用モデルで、レースマシンと直接的な結びつきはないものの、パフォーマンスは格段に引き上げられている。7代目ゴルフGTIの最後を飾るにふさわしい、メモリアルモデルといっていいだろう。
それにしてもゴルフGTI TCRは、眺めているだけで思わずワクワクしてくる。レーシングカーをイメージしたモデルだけあって、スタイリングからして刺激的なのだ。
例えば、フロントのリップスポイラーやサイドスカート、そして、リアのディフューザー類は、スタンダードなGTIに対してひと回り大きく、派手なデザインになっており、ルックスから高性能をアピール。特に、左右へ大きく張り出したリアディフューザーは、もはや市販車とは思えないほどアグレッシブな意匠だ。
インテリアに目を移すと、ステアリングホイールの頂点に、中立位置が瞬時に分かる赤いマークが入るなど、こちらもレーシングカーさながらの雰囲気。
さらに、激しいコーナリングでもカラダをしっかり支えるべく、左右のクッションが大きく張り出したシートを採用するなど、見ているだけで走りの楽しさが伝わってくる。
■楽しいカーライフを送れること間違いなし
そうした期待は、エンジンを始動させると確信に変わる。まず、バイク界のF1とも呼ばれるMotoGPなど、2輪のモータースポーツ界において、多くのトップチームが採用している排気システムのメーカー、“アクラポヴィッチ”社のチタン製エキゾーストがいい音を奏でる。そんな玄人好みのエキゾーストシステムは、音量的には極端にうるさいものではなく、意外とおとなしいものの、明らかにノーマルとは異なる太いサウンドを実現。ドライバーのテンションを高めてくれる。
走り始めても、ゴルフGTI TCRは輝きを失わない。加速はさすがに力強く、高速道路でもあっという間に制限速度に達する。興味深いのは、加速していく際のフィーリングで、後ろから何者かに蹴飛ばされたかのような強引さはなく、気がつくと速度がかなり乗っているといったイメージ。そのためか、ドライブしていると車体が軽いように感じられる。
走行モードを「スポーツ」にすると、サスペンションがより締め上げられ、乗り味はソリッドなものとなる。必要に応じて、電子制御で完全にロックするデフの効果もあって、峠道をぐんぐん曲がっていくので気持ちいい。またエンジンも、アクセルペダルを踏み込めばパワーが湧き上がるように反応してくれるから、ついついアクセルペダルを踏み込んでしまいがちだ。
ところで、500万円超のホットハッチであるゴルフGTI TCRのライバルは、ルノーの「メガーヌ ルノー・スポール」や、ホンダの「シビック タイプR」など、FF量産車の世界最速を争うモデルたち。そういったことから、ゴルフGTI TCRもドライバーを選ぶクルマ、という印象を受けるかもしれない。
しかし、ゴルフGTI TCRは、ファミリーユースも難なくこなす広い室内と荷室を確保しているし、VW独自のデュアルクラッチ式トランスミッション“DSG”はATと同じ感覚で運転できるから、ファミリーカーとして実力もかなり高い。
確かに、走行モードで「コンフォート」を選んでも、乗り心地は「すごく快適」とはいいがたいし、最小回転半径が5.7m(ノーマルのゴルフは5.2m)と大きいから、Uターンする際などは少々苦労する。とはいえ、クルマ好きなら楽しいカーライフを送れる1台であることは間違いなし。熟成し切った7代目ゴルフGTIのファイナルモデルは、まさに今が旬といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆GTI TCR
ボディサイズ:L4275×W1800×H1465mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1984cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:290馬力/5400~6500回転
最大トルク:38.7kgf-m/1950~5300回転
価格:509万8000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/285214/
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