自宅から自転車から5分ほどのところに山があり、たまに行っているのですが冬の間はお休み。桜も咲き始め、ジムにも行けない日々が続いたため、久しぶりに山でもと走ろうと近所の山を目指しました。
せっかくなので、今回は“おばけヒール”とでもいおうか、“ヒールおばけ”とでもいおうか、それとも“ヒールモンスター”と呼ぶのがふさわしいのか…とにかくヒールが強烈なインパクトを放つホカ オネオネの「TenNine(テンナイン)」(3万3000円)の試走を兼ねることに。とはいえ、ほかのトレランシューズと比較した方が違いがわかりやすいかと思い、同じくホカ オネオネのテクニカルトレイル向け「SPEEDGOAT 4(スピードゴート4)」(2万900円)と履き比べてみました。走力に対してハイスペックすぎるかとも考えましたが、普通のシューズだと差がありすぎて比較にならないため最新モデルをチョイス。
ちなみに走力は、ジムでランニングマシーンを数キロこなし、たまに山を走るくらい。フルマラソンをサブフォーで走るとか、山岳耐久レースの「ハセツネ」に出場する目標があるわけでもない素人でも、ヒールの威力はわかるのか検証してみました。
■とにかくインパクト大のおばけヒール
今回、試したホカ オネオネの「TenNine」は、パッと見で分かるようにミッドソールからアウトソールにかけて、長さで約4cm、厚さが約3cmほど大きく外にはみ出しているのが特徴。アッパーは軽量で通気性がいいメッシュ素材、サイドには「XI」字形状にメッシュ補強材を採用。足入れ部分は伸縮性の高い素材が採用されています。
かつて存在したアディダスの「フォーミュラ」というシューズのソールが若干後ろにはみ出しているだけでも違和感を覚えたくらいなので、このはみ出し方はやはり強烈。撮影していると「そのシューズすごいですね」と声をかけられたほど。
もちろんデザインのために出っぱっているわけではなく、地面との接地面を最大限にする革新的なテクノロジー“ミッドソールジオメトリ”を採用しているから。
ちなみに「TenNine」という名前は「10の9乗=ギガ(GIGA)」という意味で、トレランシューズの次世代の期待感を表しているそうです。
突起したデザインのミッドソールは、安定性とスムーズな走りを生み出し、幅広にデザインされたアウトソールは接地面を大幅に拡大し、安定した走りにつながります。
カカトから伸びるヒールプルタブが快適性とサポート力を発揮。タンはシューズ内に固定されているため、足入れが容易でスポッと足を入れられます。足首の締め付けはきつくなく、優しく包むような履き心地。
バンプには長距離のランニングでの足の変化に合わせて伸縮する素材を採用。さらにソールは、つま先までしっかりとパターンが切られ、最後まで大地をつかみます。
履いていると後ろは見えないために分かりませんが、履いている姿はバランスが悪いですね(笑)ただ、履いているだけで走れる人“風”な雰囲気は醸し出せます。
■フィット感、安定感の高い最新トレイルモデル
今回、「TenNine」と履き比べたのは「SPEEDGOAT 4」。ホカ オネオネの契約アスリート、カール・メッツァーの愛称“The Speadgoat”の名が冠されたテクニカルトレイル向けシリーズの最新モデル。アッパーは通気性と耐久性を兼ね備えるメッシュですが、3Dプリントによるオーバーレイがしっかりと足をホールドし、つま先までピタッと密着。加圧シャツを履いている感じで、気合が入り、走るテンションが上がります。
カカトはホカ オネオネらしく厚めで、着地時の衝撃を分散し、悪路でも安定した走りを実現。アウトソールのグリップ力も高く、上り坂では滑らず、下り坂は安定して走れます
ソール面積の違いは一目瞭然。TenNineの方が圧倒的に広くなっています。ちなみに着用サイズはSPEEDGOAT 4が26.5cm、TenNineが26.0cm。
重量は実測値で、TenNineが26.0cmで335g(公称27.0cmで360g)、SPEEDGOAT 4が26.5cmで295g(公称27.0cmで312g)。
TenNineはソールの大きさに比べ、想像以上に軽量です。実際持ってみても、軽いはずのSPEEDGOAT 4の方がズシンと密度が高い感じで、TenNineの方が重さを感じずフカフカな感じがします。
■実際に走って分かった特性の違い
さて見た目の違いはパッと見た目にも分かりましたが、実際に走ってその差が分かるか? ということですが、素人でも分かるくらいまったく違いました!
■走るというよりも跳ねる「TenNine」
足を入れた瞬間に違うのが、ホールド性とクッション性。TenNineは、アッパーが軽く柔らかいメッシュ素材ということもあるのでしょうが、足の甲がガッチリとホールドされている感覚はありません。どちらかというとフワッと包まれている感じです。
対するSPEEDGOAT 4はしっかりと足をホールド。足が固められるている感じです。
クッション性についても同様に、TenNineが柔らかめで、SPEEDGOAT 4が硬め。
見た目のインパクトは強烈ですが、走り始めるとヒールはまったく気になりません。
うまく言えませんが感覚的には、ヒールから着地し、ソールが弓なりになり、そのまま前にジャンプするように押し出されるよう。なので1歩が大きく、ポンッ、ポンッ、ポンッと大地を跳ねるような感覚です。実際にタイムを計っていないので速くなったかは分かりませんが、感覚値でいうと同じ距離でも歩数は少なく、疲労度は軽かったように思えます。
もう一つ思ったのが、路面の状況を感じにくいということ。これはソールの厚さによるものか分かりませんが、多少傾いていようが、凸凹であろうが、普通に走れるのです。なので包まれるような柔らかなホールド感でも、足首がブレる感覚がありませんでした。
■しっかりと大地をつかむ「SPEEDGOAT 4」
一方のSPEEDGOAT 4はアッパーが、足全体に吸い付くように密着。走る装具のようで、しっかりとホールドし高い安定感を誇ります。そして、足を運ぶたびに大地をグッとつかんで蹴り出して、推進力を得るイメージ。
走ってみると、なるほど足首がぐらつく心配もないですし、しっかりとグリップするのでトレランシューズというものはこういう感じなのかというのを実感できます。
トレランシューズの存在意義を確かめられました。
走って感じる大きな違いは、路面を感じる点と走り方です。SPEEDGOAT 4のソールは厚いものの、足が固められているためか路面の状況が足に伝わります。つまり斜面では、足も斜めになるため、体をそれに合わせて走る必要があります。しっかりとトレランを練習しないと履きこなせない感じがしました。
もう一つは走り方というか、1歩の違い。
例えるのは難しいのですが、写真にフキダシを付けるとすると、TenNineが「ポンッ、ポンッ、ポンッ」、SPEEDGOAT 4は「ザクッ、ザクッ、ザクッ」といったイメージです。
SPEEDGOAT 4はぴったりフィットし、走りやすかったのですが、走りにおける1歩が、“いつもの1歩”でしかないということ。跳ぶように走るTenNineと比べると、SPEEDGOAT 4は感覚的には普通のランニングシューズと変わりません。つまり自分が速くなったんじゃないかという幻想は感じられず、自分の実力なりにしか走れません。
今回履き比べてみて、素人ながら、マラソンにおいて厚底シューズがブームになったのがわかる気がしました。そして「TenNineは、シューズというより、スキーブーツやサイクリングシューズのように、トレラン専用のギアです」という注釈が入っているのも理解できました。扱える人ではないとオーバースペックすぎて、履きこなすことは難しいシューズと言えます。
TenNineは次世代を見据えて作られた第一弾であり、今後トレランシューズにもマラソンと同様に新しい時代が来ることを体感。ちょっとトレランにハマりそうです。
>> ホカ オネオネ
※取材・撮影は3月20日です
(写真・文/澤村尚徳<&GP>)
- Original:https://www.goodspress.jp/reports/285839/
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