その衝撃の情報が入ってきたのは、まさに第三回目を開催しようかというタイミングだった。
なめろうに酢?
新たなワードの出現にざわめくメンバーたち。
調べてみると、勝浦以北では、一般的に「酢なめろう」という生酢をつけて食べる方法がポピュラーらしい。
さらになめろう自体に酢を入れてもよく、それも「酢なめろう」もしくは「たたきなます」と呼ぶこともあるようだ。
控えめに自分はビネガーラバーであることを吐露する者も出現し、期待は高まるばかりである。
これは新たななめろうの世界が広がるかもしれない。
というわけで、今回のテーマは「酢」である。
なめろうにあう酢はどれだ
酢と一言でいっても色々ある。
とにかく並べてみる。
酢がいけるなら、もしかして香りのある調味料や薬味もあうのではないか?という仮説も飛び出てくる。
例えばニンニク醤油。こちらは自家製だ。
いっそパクチーなんかもいけるかもしれない。
これらも試してみることにする。
魚もいつも通り玄人の魚屋のおすすめを揃える。
ホタルイカ
今回の目玉は、シーズンのホタルイカである。
そのまま刺身として食べてしまいたいくらいの新鮮さだが、学びのためには我慢も必要。
大人の遊びには、規律も必要なのである。
かけるか、混ぜるか、それが問題だ
まずはごく定番のアジのなめろうに酢をかけて食してみた。
確かに酢の酸味のおかげでさっぱり食べられる気がするし美味しいのだが、なんとなくなめろうを食べているといった意識が薄くなるようだ。酢の味が最初に舌に残るからだろうか。
酸っぱいもの好きなら勧められるが、なめろうを食すという意味合いではそこまでの必要性はなさそうである。
なめろうを10皿くらい食べる必要性がある場合は、もしかしたら助けになるかもしれない。
では、混ぜてみたらどうだろうか。
イワシ∔あわせ味噌+米酢
うまい、これはいける。
青魚が苦手という人でも、するっと食べられるさわやかさだ。
皆が口々に賞賛する。いわゆる酢味噌だろうという突っ込みは今はしてはいけない。
イシダイ+あわせ味噌+梅酢
淡いピンクに染まったなめろうは、インスタ映えを狙えそうな鮮やかなピンクである。
サーブされた瞬間に歓声が上がる。
ピンク色のなめろうなんて、女子向けに打ち出したら、ちょっとしたブームになるのではないかという期待まで頭をかすめる。
しかし、食してみると梅酢が勝ちすぎていて、もはやなめろうとは異なる食べ物になっている(気がする)。
梅干しを顔もしかめずにそのままばりばり食べられるような人であればいいが、一般には勧められないかもしれない。
少なくとも、薬味は必須だろう。でなければ、単なる梅味の刺身である。
ホタルイカ+あわせ味噌+酢
なめろうとしては変化球だが、ホタルイカの苦みが美味しい。
しかし苦みのせいか酢の味はそこまで感じない。
たぶん入れなくてもそこまで変わらないだろうという意見で全員が一致した。入れても原価が上がるだけである。
イワシ+味噌+酢+パクチー
むちゃくちゃうまい。いやまじでお勧めである。
エスニックさがうまく融合し、素晴らしい酒のあてにメタモルフォーゼしている。
酢味噌ってこんなにパクチーに合うとは思わなかった。
これはたぶん店のメニューでも売れるだろう。
エスニックレストランなのか和食店かはわからないが。
ちなみに通常のネギだけでなく、パクチーなどの薬味も入れるなら多めがいい。
けちけちしてはいけない。
番外編:あじ+甘味噌+にんにくの醤油漬け
自家製にんにくの醤油漬けを入れ込んでみた。
あじのような青魚には生姜だとかたくなに信じてきたが、にんにく、いい。
醤油のような濃い調味料も、味噌のコクと混ぜ合わさってむしろまろやかに感じられた。
なめろうの可能性は無限大
酢なめろうを色々試した結果、かけるより混ぜ込む方がまとまりがよく食べやすくなる効果があるようだ。
特に生魚に少し苦手意識のある御仁であれば、酢は心強い味方になってくれるだろう。
しかし梅酢のように主張が強すぎると、かえってなめろう感を消し去るケースもあるので注意が必要だ。
いっそにんにく醤油のように、強いものと強いものを掛け合わせてしまう方がまとまるようにも感じる。
まるで人間関係のようではないか。
やはりなめろうとは奥が深いものである。
その後はいつも通り、なめろうにした残りの魚をあら汁にし、持ち寄ったつまみと酒を酌み交わし、今回も深く有意義な学びの夜は更けていった。
今月の学び
なめろうは酢をかけても美味い。
酢を混ぜ込むともっと美味い。
エスニック風でもすこぶる美味い。
パクチーはたっぷり入れよう。
生姜でなくにんにくもばっちりあう。
もちろんそのまま食べても変わらず美味い。
やはりなめろうは完全食。
執筆:小林聖
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000123130/
- Source:デジモノステーション
- Author:東京なめろう会