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5万円台の5Gスマホも投入サムスンが中華格安スマホに対抗

世界のスマホ市場でシェア1位のサムスンだが、アメリカや日本、インドなどでは他メーカーの後塵を拝している。中国でも数年前まで圧倒的な強さを誇っていたが、いまやシェアの上位には中国メーカーがずらりと並び、存在感は皆無になっている。だがここに来て反撃ののろしをついにあげて次々と新製品を送り出してきた。新しいGalaxy Aシリーズで巻き返しを図ろうとしている。

中国メーカー同士が熾烈に争う
サムスン・アップルを脅かす存在に

サムスンのスマホと言えば、高性能な製品「Galaxy S20」やペンが使える「Galaxy Note10」などハイスペックなモデルが日本でも販売されている。だが、実は世界各国で一番売れているモデルは別のライン、価格を落とした「Galaxy A」シリーズなのだ。日本でも今年は「Galaxy A41」が発売予定。2019年には「Galaxy A20」「Galaxy A30」が発売された。モデル名を見てわかるように、Galaxy Aシリーズは数字2桁でモデル名を表しており、10桁の数字が大きいほど機能が高い。また1桁の数字は「0」が2019年モデルとなっている。

価格重視で使いやすさを追求したGalaxy A20。

サムスンはGalaxy Sシリーズ、Galaxy Noteシリーズをフラッグシップモデルとし、スペックを下げたミッドレンジモデルとしてGalaxy AシリーズやGalaxy Cシリーズなどを展開していた。2014年頃まではその戦略がうまくいき、中国市場でも圧倒的な強さを見せていたのだ。ところが中国メーカーが次々と高コスパモデルを出し、5万円程度でも高性能なカメラを搭載、特にセルフィーに強いフロントカメラ性能を高めていくと、同じ価格帯のGalaxyのミッドレンジモデルは性能や本体品質が低く、見劣りするようになってしまったのだ。

ハイエンドモデルに注力し、ミッドレンジモデルはそこから機能を省き、コストダウンした製品として展開するのはどのメーカーでも同じ戦略だ。しかし、中国メーカーのミッドレンジモデルはフロントカメラに注力したことで、性能比でサムスンを含む海外メーカーのミッドレンジモデルを駆逐していった。その勢いはハイエンドモデルを次々と出し、ミッドレンジモデルは前年・前々年の製品を値引きして販売するというアップルをもシェア上位から引き下げてしまったほど。そして中国メーカー同士が気が付けば「打倒サムスン・打倒アップル」ではなく、ライバルを互いのメーカーとしたことで、高品質で低価格なスマホを次々と作り出していったのだ。その結果、それらの製品が中国だけではなく世界中に展開されることで、中国メーカーの勢いはどんどん増していったのだ。

ハイエンドモデル重視路線は正しいがミッドレンジで中国メーカーに追い抜かれてしまった。

インドショックがサムスンを襲う
生まれ変わったGalaxy Aシリーズ

中国市場では惨敗のサムスンも、他の国では高いシェアを誇っている。だが、2017年に大きな事件が起きた。それは2014年にインド市場に参入した中国シャオミのスマホが、2017年第4四半期にサムスンを抜きシェア1位の座を奪ったのだ。中国に次ぎ世界2位の規模を誇るインドでも中国メーカーに抜かれるという「インドショック」は、サムスンのスマホの開発戦略が壁にぶち当たっていることを明らかなものにした。大きな話題を集めるフラッグシップモデルは人気だが、数を稼げる中低価格帯の製品は中国メーカーに完敗したということを証明してしまったのだ。

どのメーカーも最上位モデルの性能を1つでも、下のモデルが上回るということは無い。iPhoneを見ても「iPhone 11」の性能は「iPhone 11 Pro Max」をすべて下回っている。だがサムスンは2018年から大胆にもGalaxy Aシリーズの機能強化を図った。

当時のGalaxy Aシリーズは数字1桁の型番で展開中。まず「Galaxy A7」はサムスン初のトリプルカメラを搭載。その年のフラッグシップモデル「Galaxy S9+」「Galaxy Note9」でもデュアルカメラであり、Galaxy Aシリーズがより高い性能のカメラを搭載したのだ。さらには「Galaxy A8s」でディスプレイ内にカメラを配置したパンチホールカメラをこれもサムスンとして初採用、そして「Galaxy A9」はクワッドカメラを搭載、もはやカメラだけを見るとGalaxy Aシリーズのほうが魅力的な存在になっていったのだ。さらにこれらの機種はフロントカメラ画質も2400万画素とフラッグシップモデルよりも高画質だ。「ミッドレンジモデルだからスペックが低いという」イメージは大きく変わったのだ。

クワッドカメラが珍しい時代にGalaxy A9はフラッグシップモデルを出し抜き4カメラを搭載した。

2018年になるとGalaxy Aシリーズはさらに独自の動きを図っていく。モデル名は今と同じ数字2桁となり、10機種以上もの製品を出していったのだ。その中には5G対応の「Galaxy A90 5G」、カメラが本体から飛び出し前後に回転する「Galaxy A80」といった特徴的なモデルだけではなく、お手頃価格で十分なカメラ性能を有する「Galaxy A50」など魅力的な製品を揃えていった。一方低価格ラインで日本でも発売になったGalaxy A20におサイフ機能を搭載するなど、安いだけではなくローカライズもしっかりと行なうことで販売数を伸ばしていったのだ。

リアカメラが飛び出し180度回転してフロントカメラになるGalaxy A80。実験的なモデルだが大きな話題に。

東南アジアでは若者に人気のK-POPグループ「BLACKPINK」をイメージキャラクターに採用。ちなみに彼女たちのコンサートではステージに近寄り自分のスマホを差し出すと写真を撮ってくれるというサービスがあるが、Galaxyのスマホでなくては受け取ってくれない。そこでiPhoneのケースの裏に手書きで「Galaxy」と書いて手渡ししようとする、そんなファンが生まれたほどだ。BLACKPINK限定モデルも出すなど、Galaxy Aシリーズは若い世代をターゲットにしてフラッグシップモデルとは完全独立したモデル展開を行うようになったのだ。

Galaxy Aシリーズの製品発表会では利用シーンも若者に合わせている。

世界シェア1位メーカーの強さ
日本先行投入モデルも展開

2018年のGalaxy Aシリーズは「10」から「90」まで9つのラインナップと、派生モデルも含め大量の製品を展開。2020年はその勢いそのままに、さらに高性能化と高コスパ化を進めようとしている。たとえば「Galaxy A41」は4800万画素カメラを含むトリプルカメラを搭載、フロントカメラも2500万画素と高画質だ。日本ではドコモとKDDIから発売になる。Galaxy Aシリーズを日本でも強化するのは、2019年10月からスマホの割引上限価格が2万円と法律で定められたことにより、今後はiPhoneを実質無料で買うといったことが不可能になる。そのため若い世代を中心にこれからは価格相応以上の低価格モデルが求められる時代が来ようとしているのだ。そんな日本市場の動きを先取りしてGalaxy A41は日本向けモデルが世界で最初に発表されたのだった。

日本先行発表となったGalaxy A41。カメラ性能や日本モデルはおサイフ防水などコスパに優れている。

また、より高性能な「Galaxy A51」と「Galaxy A71」には5Gモデルも用意される。昨年は最上位のGalaxy A90 5Gのみが5Gに対応したが、2020年はそれより下のスペックの製品も5G対応となる。ちなみにGalaxy A71 5Gは599ユーロ、Galaxy A51 5Gは499ユーロで発売予定とのこと。中国ではすでに3000元前後=5万円前後の5Gスマホが次々と発売になっており、海外展開もされる予定だ。シャオミの格安5Gスマホ「Mi 10L」もKDDIから発売予定で、5Gスマホはいきなり低価格モデルの競争が激しくなる。

このように中国メーカーが5Gスマホの価格競争を繰り広げようとしている中、サムスンはGalaxy Aシリーズの5G対応を早めその市場への参入を急いでいる。

5Gに対応するGalaxy A71は5Gスマホとしては安い600ユーロ以下で発売予定。

中低位モデルの性能の一部を上位モデルより高めてしまうと、フラッグシップモデルが売れなくなってしまうという懸念はある。しかしGalaxy Aシリーズは明確に若者を狙ったマーケティングを行い、彼らが求める機能の強化と価格もターゲットユーザーが購入しやすいレベルに抑えることでバッティングしないシリーズとして製品展開を図っている。フラッグシップのGalaxy SシリーズやGalaxy Noteシリーズは最新の技術を惜しげもなく投入し、本体の質感も高めたプレミアムモデルとすることで明確に差別化されているのだ。当然のことながら高い価格でも高い性能のモデルが欲しいユーザーは世界中に多く存在する。

日本では2020年3月から5Gが始まり、本格的な5G時代を迎えようとしている。現時点でもすでに各キャリアから多数の5Gスマホが登場しているが、ユーザーの4Gから5Gへの乗り換えをスムースにするためには今のモデル数ではまだ足りないだろう。9月にはおそらくiPhoneの5G版が出てくるだろうが、価格はさらに高くなり一般消費者には手が出しにくくなる。一方Androidスマホを使っているユーザーの中で手軽に5Gを使いたいと考える層に、コスパに優れた5Gスマホを出せば十分受け入れられるだろう。サムスンも今後Galaxy A51やA71の日本投入を考えていることは間違いない。

5Gが始まった日本でもサムスンは存在感を高めたいはずだ。

年間3億台のスマホを販売するサムスンなら、他社に比べコストダウンや戦略的な価格設定も他社に比べて容易に行える。またハイエンドモデルはプレミアム感を高めるためにあえて高い価格に設定し、ブランドイメージを守ることも忘れてはいない。アップルが市場をけん引していた時代は終わり、中国メーカーが怒涛の製品投入で存在感を高めている世界のスマホ市場。2020年のサムスンは本気の反撃を行い、シェア1位を死守しようとしている。そしてこれらの争いの中で生まれた製品の中から、優れたスマホだけが生き残っていくのだ。消費者にとって、この各社の覇権争いは大きなメリットを生み出すのである。

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