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雇用維持のために誰もが利用可能な金融テクノロジーを

【編集部注】本稿はAnn Marie Mehlum(アン・マリー・メフルム)氏とJavier Saade(ハビエル・サーデ)氏による寄稿記事である。メフルム氏は、Summit Bankなど数社で役員を務める人物。FS Vector上級顧問、Fenway Summer顧問。前職はSBA資金アクセス担当副長官。サーデ氏はFenway Summerベンチャーパートナー、FS Vector上級顧問、Fenway Summer投資顧問を務める人物。前職は、SBA副長官兼投資イノベーション担当部長だ。

我々は以前、米国中小企業庁(SBA)で中小企業向けの資金、投資、ローン、イノベーションに関するプログラムを監督する職に就いていた。米国は3000万社の中小企業を支援している。中小企業による雇用は米国の就労人口の半分以上にのぼり、新規雇用の大半は中小企業が創出している。一方で、中小企業の8割は手元の資金で60日以上の期間を持ちこたえることができない。

今、世界の企業活動と雇用は、未曾有の規模と速さで壊滅的な影響を受けている。米国議会と政府が総額2兆ドル(約215兆円)の経済対策を打ち出したことは称賛できる。このうち3500億ドル(37兆7300億円)が米国の中小企業に注入されている。また、本記事の執筆時点で、さらに2500億ドル(約27兆円)の追加対策案の検討と交渉が進行中である。

政府は金融部門と定期的に話し合いを行ってきたが、中小企業を効果的に救済するには、あらゆる規模の銀行、フィンテック企業、その他のテクノロジー企業、地方銀行、資金のパイプ役となるその他の企業を巻き込んだ救済策が必要である。とにかく資金を企業に確実に届けることが急務であり、そのためにはテクノロジーの活用が必要不可欠だ。

米国時間4月8日、2つの有望な展開があった。1つは、SBAが金融機関の新規参入をより簡単にするために、AWSを利用したゲートウェイシステムを立ち上げたこと、もう1つは、ノンバンクやフィンテック企業への融資申し込みが可能になったことだ。もちろん良い展開だが、環境の変化に対応するように後付けされた対策にはたいてい根本的な制限が付いて回る。

温故知新ということで過去を振り返ってみると、2008年の金融危機は多くの点で、我々が現在直面している危機の「予行演習」だったと思う。両者には類似点がある。しかし、今回のパンデミックでは、実質的に経済のあらゆる部門が同時に大打撃を被っている。このことは、1700万人が失業保険の受給申請を行っていることからも明らかだ。

2008年の金融危機は、金融システムにおける過剰なリスクによって引き起こされたもので、そのショックが経済に及ぼす影響もある程度は予測できた。しかし、今回のパンデミックが経済に与えている外的ショックは、2008年の場合よりも相互関連度が高く、より速くかつ広範に打撃を与えている。

21世紀の問題には21世紀の解決策が必要だ。そのためには、政策から実施までのあらゆる段階でこれまでの考え方を一新する必要がある。米国の経済活動の大部分は中小企業と金融システムの交差部分で行われている。だからこそ、この分野において新しい考え方と実施方法が必要なのである。

ここで指摘しておくべきことが1つある。CARES Act法の実施に制限があるのは、銀行業務に今もなお利用される従来型のテクノロジーが足かせとなっていることが原因だ。各政府機関の時代遅れのシステム(これまでに何度も指摘されている、SBAの旧式で扱いづらいE-Tranシステムなど)もそれに含まれる。

政府機関のシステムはもちろん政府機関自体も、これほど大規模で緊急度が高い事態に対応できるようには作られていない。しかし、金融テクノロジーにはもともと、こうした事態にも対応できるスケーラビリティ、普及率、インフラ、アルゴリズム的機能、資金支給パイプとしての機能が備わっており、今こそそれを発揮すべきときである。以下この点について詳しく説明する。

金融システムは、テクノロジーが採用されるまでのタイムラグ、(現状を維持しようとする)組織的な慣性、規制による制約に大きく左右される。それが、今回の政策の実施に伴う混沌とした状況を生み出す原因となっている。今後検討される可能性がある経済対策の第4弾は、その点を考慮に入れて策定すべきである。中小企業に追加資金を注入するのは良い決断だが、その実施プロセスは改善する必要がある。

規制当局と各政府機関には、米国の中小企業が今回の危機によって受ける被害を最小限に抑えつつ、議会の本来の意図に従ってCARES Act法を実施して欲しいと願う。本記事の執筆時点では、納税者や中小企業に十分な現金が行き渡っているとは思えない。最新の数字によると、すでにSBAの救済資金の25%が中小企業に対して融資されることが確定しているという。これは心強い指標ではあるが、それでも3500億ドルという総額からみれば、ほんのわずかに過ぎない。

おそらく理解しておくべきもっと重要な点は、銀行が融資を確約したとしても、それで即、現金が中小企業に届くというわけではないという点だ。

現金が動くには、以下のような方法により、CARES Act法が中小企業に対して円滑に実施される環境を整える必要がある。(1)銀行券発行残高に関する最終指針の決定、 (2)流通市場の流動性の向上、(3)最新のデジタルインターフェイスによりすべてのステークホルダーが簡単に接点を持てるようにすること、(4)例えばフィンテック企業がサービスプロバイダー、資金のパイプ、または融資機関としての役割を担えるようにするなど、新規参入者への門戸開放。

これらが重要なのは、SBAは処理能力を最低でも50倍に拡大せよとの使命を課せられているからだ。SBAの全融資プログラムの融資額を合計しても年間250億ドルである。SBAは現在、8~12週間で3500億ドルという巨額の融資を取り扱っている。SBAが財務省、FRB、その他の政府機関と連携して24時間体制で、システム、テクノロジー、融資の実施に対応していることは分かっているが、喫緊の課題の解決に障害となる摩擦点が存在する。

今回のSBA融資に必要な資金の流動性をバックアップするために、FRBがサポートを表明したことは良いニュースだ。しかし、その実施にも時間がかかるだろう。同様に、FDIC(連邦預金保険公社)による地方銀行のレバレッジ比率の緩和も歓迎すべきニュースだ。規制当局は、慎重かつ一時的な要件および制限事項の追加緩和を検討している。これらはすべて今回の救済策の円滑な実施を助けるものだが、それでもまだ未解決の疑問点が残っており、さまざまな金融機関が傍観者となる原因になっている。

融資の規模や件数、短期間で融資を実施する必要性などの要因を考えると、デジタル化と最新テクノロジーの活用が急務である。SBAおよびその他の政府機関と規制当局には、デジタルファイナンスと金融テクノロジーを活用するためにエネルギーとリソースを投入することを求めたい。

金融テクノロジーは、融資申請の簡素化、顧客の確認(KYC)と資金洗浄防止ルールへの準拠、融資申請の自動化に役立つ。また、テクノロジーにより、融資の創出、引受、支出、処理なども改善される。これを使わない手はない。数百万の中小企業のうち最も脆弱な企業に限って、実は銀行与信を利用していない。しかし、そのような中小企業でも、例えばSquareなどのモバイル決済システムを利用している。フィンテックは今や、誰でも利用できるレベルに達しているのだ。今の状況にまさにぴったりである。規制当局はテクノロジーの集約的な能力をフルに活用して欲しい。

銀行に行くことができないだけでなく、プリンタさえ持っていない人もいる。だが、大半の中小企業とその経営者はスマートフォンを所有しており、すでに何らかのデジタルテクノロジーを活用している。多くのフィンテック企業が銀行自体にテクノロジーを提供している。そうした銀行は、今こそ迅速に動いて、そうしたテクノロジーを活用する必要がある。金融危機以来、2000億ドルが金融テクノロジーに投資されてきたことを考えれば、はっきり言って、フィンテックをイノベーションの実験だと考える段階はとっくに過ぎている。

資金を出すということに計り知れないプレッシャーがかかっているが、厳しい規制も同様に大きな障害となっている。今回のパンデミックにより、誰もが利用できる金融システムを導入する必要性が浮き彫りになっており、その中核となるのがテクノロジーである。新しい仕組みを試すのに今以上の好機はない。

失われた雇用を再び創出するのは本当に難しい。それよりも、雇用を維持すること(これは米国政府の最近の対策すべてに共通する基本理念だ)にエネルギーを注いだほうがはるかに効率的である。雇用を維持し、米国経済の心臓である中小企業に救済資金を届けることに力を尽くそう。

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(翻訳:Dragonfly)

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