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2020年も高評価を獲得!世界が称賛するマツダデザインの魅力と真価☆岡崎五朗の眼

世の東西を問わず、昨今、クルマ好きを中心に高く評価されているのが、マツダ車のデザイン。それは、モーターショーに展示される1台限りのコンセプトカーにとどまらず、市販車の世界においても同様です。

今回、そんなマツダデザインの魅力について改めて検証してくれたのは、モータージャーナリストの岡崎五朗さん。素晴らしいデザインの背景にあったのは、マツダの深いクルマ愛でした。

■2020年はマツダ3、CX-30、MX-30が高評価を獲得

日本には多くの自動車メーカーがあるが、デザイン面で世界から最も高く評価されているのがマツダだ。「VISION COUPE(ビジョン・クーペ)」や「RX-VISION(アールエックス・ビジョン)」といったコンセプトカーで、数々のデザイン賞を獲得しているのは知る人ぞ知る話。

加えて、「ロードスター」が2016年にワールドカー・アワードのデザイン賞を受賞するなど、市販モデルのデザインも高い評価を得ている。

そして今年2020年も、「マツダ3」がワールドカー・アワードのデザイン賞を、「CX-30」と「MX-30」がレッド・ドット賞のプロダクトデザイン部門で最高評価を獲得した。経済性や信頼・耐久性で高い評価を獲得している反面、エモーショナル領域を得意としていない日本車にとって、マツダの受賞ラッシュは快挙といっていい。

では、なぜマツダデザインは世界から高い評価を得ているのだろう? それを読み解くためには、まず“デザイン評価”の概念から解説していく必要がある。

燃費や加速性能など、数字で表せる性能を評価するのは簡単だ。並んだ数字を見比べるだけでいい。しかしデザインは数字じゃない。数字で表せないものをどうやって評価するのか? という問いかけに対し、「デザインは個人の好き嫌いだから評価対象にはふさわしくない」という考えもある。現状、日本カー・オブ・ザ・イヤーにデザイン賞が存在しないのはそのためだ。ひとつの見識としては認めるが、であれば「エンジンやハンドリングの気持ち良さも同様のことでは?」という気もする。

ある時、とある自動車メーカーのデザイン責任者に問うたことがある。「デザインは個人の好き嫌いの問題だと思いますか?」と。すると間髪入れず「いえ、違います」との答えが返ってきた。

「もちろん、ある一定以上のレベルから先は好き嫌いの範疇になりますが、そこに達するかどうかは絶対的なものなのです。その上で、自戒を込めていうなら、“ある一定以上のレベルに達しているデザイン”は案外少ない、というのが現実です」

概念的で少々分かりにくいかもしれないが、要するに「美男美女コンテストの本戦まで進めるのは、限られた人だけ」ということである。

■優れたプロポーションをベースにディテールを作り込む

そんな観点からマツダデザインを見ると、ある共通点が浮かび上がってくる。今回受賞したマツダ3、CX-30、MX-30だけでなく、「CX-3」も「CX-5」も「CX-8」も「マツダ2(デミオ)」も「マツダ6(アテンザ)」も、例外なく健康的で美しいプロポーションの持ち主なのだ。

クルマのデザインはふたつの要素に分けて考えると分かりやすい。ひとつはプロポーション。もうひとつがディテールだ。人間に例えれば、身長や体型がプロポーション、服やメイクや髪型がディテールとなる。例え超一流のデザイナーが手掛けた服でも、美しく見えるかどうかは着る人のプロポーション次第。

それはクルマも同じだ。マツダ車のプロポーションの最大の特徴は、“FF車らしさの放棄”にあると思っている。FR車の専売特許であるロングノーズや短いフロントオーバーハング、後輪に荷重を乗せた視覚的重量配分などをFF車で表現すべく、機能とデザインを分離。それがプロポーション作りにおけるブレークスルーにつながった。

長いノーズはスペース効率をやや犠牲にしたものの、止まっている状態でも今にも走り出しそうなスピード感や、後ろ足で地面を蹴るネコ科の肉食動物のような躍動感が、運動神経の良さを伝えてくる。マツダ車を見た時、他のFF車となんとなく違うなと感じさせる“なんとなく”の理由はそこにある。

そんな優れたプロポーションをベースに、徹底的にディテールを作り込んでいるのもマツダデザインの特徴だ。ラインを最小限に抑えたシンプルな造形は、折れ目や線で欠点を隠す必要のない、優れたプロポーションの賜物。

そして、光が当たった時のハイライトとシャドウまで計算し尽くされた繊細な面形状は、周囲の景色を写し込むことによってボディ全体をより立体的に、よりセクシーに見せる。

なぜ他のメーカーは、同じことをしないのか? やりたくてもできない、というのがその答えだ。まず普通のメーカーは、スペース効率を犠牲にするという決断ができない。次に、エンジン、トランスミッション、冷却系といった各パーツの配置=基本設計から見直さなければ、マツダのようなプロポーションにはならない。また、繊細な面形状を作り上げるには生産現場の協力が必要だが、普通のメーカーの生産部門は、面の表情とかニュアンスといった感覚的なものよりも、コスト削減に直結する生産効率を重視する。

そして、素晴らしいデザインが出来上がっても、アカ抜けないディーラーで販売したら魅力は伝わりにくい。

モーターショーに展示するコンセプトカーなら、大金を積んで優秀なデザイナーをひとりスカウトしてくるだけで、そこそこいいモノができるだろう。しかし量産車となると、生産技術、設計技術、経営戦略、社内コミュニケーション、販売店といった企業のすべての機能が、デザインコンシャスであることが前提になる。逆にいえば、マツダデザインの優秀性は、マツダという企業が持つ、強いクルマ愛を映す鏡というわけだ。

ビジュアルで魅了し、走らせることでさらに愛着が湧く…。クルマとはそういう商品であるべきだと思う。そして、そんな理想を全社一丸となって追求しているからこそ、マツダデザインは世界から高く評価されているのだ。

文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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