税制とは、まさに複雑怪奇なもの。政治に関心を持つ人なら、望ましい税制のあり方について強い意見をお持ちだろう。Salesforce(セールスフォース)のAI研究者は、いつだって間違いなく高度に政治的なプロセスである税制について、人工知能に考えさせるモデルの開発に挑戦している。
SalseforceのAI研究主任Richard Socher(リチャード・ソーチャー)氏によると、同社はAIとビジネスに関するあらゆるソリューションと、それがSalesforceの製品ファミリーの改善にどう役立つかを研究しているが、彼の部署では製品ラインへの応用を超えて、AIをより広範な社会問題の解決に役立てる方法も探っているという。
今の時代の大きな問題に目を向けるとき、とりわけ大きいのが経済的不平等だが、私たちはその解決方法を政策に求める。そこでSalseforceでは、さまざまな経済的変数を精査できる「AIエコノミスト」と同社が呼ぶモデルと、幅広い数々の経済モデルを構築した。そして、AIのパワーを利用し、政策の違いが、経済的不平等と生産性の関係性にどのような影響を及ぼすかを示し始めた。
「私たちは強化学習を使い、最適な課税方法の特定を試みています」とソーチャー氏は言う。それには、モデルの構築が伴う。最初は、資源の売買や家の建築といった基本の経済的インプットを使い、シナリオの違いが不平等にどう影響するかを調べるという、きわめてシンプルなものだ。
同社のウェブサイトに掲載されているQ&Aで、研究チームの一員Stephan Zheng(スティーブン・ジェン)氏は、その仕組みをこう説明している。
AIエコノミストは、税制の違いによって変化する実際の人間の対応をシミュレートするAIエージェントを数多く使っています。それぞれのAIエージェントは資源を集めて販売しお金を儲け、家を建てます。エージェントは、自分の活動、商売、建築の行動様式を調整することで、自身の有用性(つまり幸福)を最大化することを学びます。そのひとつの方法として、たとえば、時給を可能な限り高くして、収入を最大化し労力を最小化するというものがあります。
モデル化は、巨大な経済全体を見渡し、すべてのデータをAIエコノミストに与え、最適なモデルが構築できるようAIの強みを活かす形で行われる。このレベルのデータになると、どんなに有能なエコノミストであっても理解が難しくなるが、そこはAIが大得意とするところ。複雑なデータの集大成を見て、そのすべての情報を使い、人がよりよい判断を下せるように手助けしてくれる。
ゆくゆくは、このモデルがエコノミストや政治家を助けて、より平等な税制を作り出せるようになればと同社は願っているが、個々の政府がそれを作ることも可能だ。
「私たちがここで選択した目的は、生産性と平等性の配合でした。これが、純粋な株主資本主義から平等な利害関係者資本主義への移行の手助けになればと願っています。また、平等性対生産性のスペクトルの中の最適点が見つかることを期待しています」とソーチャー氏は説明している。
これはまだ初期段階だとソーチャー氏も認める試みだが、追々、もうひとつ複雑なレイヤーを加えたいと彼らは考えている。それは初期のゲノム研究に似ていると彼は言う。ゲノム研究では、具体的な結果はすぐには現れなかったが、そのうちCRISPRのようなツールが開発されるようになった。このアプローチが、彼らの最初の研究基盤の上に研究を積み重ねるにつれ、同様の影響を税制に与えるようになると彼は期待している。
「少なくとも私たちのシミュレーション環境では、もっとも広く使われている課税のベースラインよりもさらに最適なポイントを私たちは発見しました」と彼は話していた。
画像クレジット:Ron Miller
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(翻訳:金井哲夫)