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GTとしての実力はコチラが上!豪華なアルピーヌ「A110」は快適性も犠牲にしない欲張り派

高性能版の「A110S」や、限定モデルの相次ぐ投入など、話題に事欠かないアルピーヌのスポーツカー「A110」。2020年も、A110Sをベースとした限定モデルの上陸や、パーソナライゼーションプログラムの導入が予定されており、ますます目の離せない存在となりそうです。

スポーツカーファンを魅了する走りやたたずまい、さらに、話題性においても多くの人を惹きつけるA110。注目の最新モデル・A110Sのレポートは追ってお伝えするとして、今回は改めて、日本向けスタンダードモデルの豪華仕様「リネージ」の魅力を検証したいと思います。

■リネージはレザーシートやサブウーハーを備える豪華仕様

2017年末のジュネーブショーでデビューを飾り、翌2018年に日本での販売がスタートした新世代のA110。まずはそのアウトラインをおさらいすることにしましょう。

アルピーヌといえば、レーシングドライバーだったジャン・レデレが、1950年代に設立したレーシングカー/スポーツカーメーカーであり、1960年代から1970年代に掛け、ル・マン24時間耐久レースを始めとする数々のレースで栄冠に輝きます。中でも、ファミリーカーであるルノー「8(ユイット)」の高性能版に搭載されていたエンジンなどを用いて仕立てたスポーツカー、初代A110は、国際ラリーで活躍。その名を世界にとどろかせました。

その後、アルピーヌはルノーの傘下に収まります。1990年代までは、自社ブランドを冠したスポーツカーの開発・生産を行っていましたが、その後いったん、ルノーの高性能スポーツ車である“ルノー・スポール”仕様の開発・製造や、レース車両の開発拠点としての役割を担うべく、表舞台から退きます。以降、幾度となくブランド復活のウワサが流れてきましたが、2016年に新しいA110の原型ともいえる「アルピーヌ・ビジョン」が公開され、それとともに、アルピーヌブランドの復活が正式にアナウンスされました。

こうして見事に甦ったアルピーヌから、新しいスポーツカー、A110がデビューを飾ることになります。そのフォルムはいうまでもなく、かつてのA110のオマージュですが、ボディはかつての鋼管バックボーンフレーム+FRP製ボディではなく、専用設計のアルミ製プラットフォームを採用。駆動方式もRRレイアウトから、ミッドシップレイアウトに変更されています。つまり、エクステリアこそ往年の面影を感じさせるものの、中身は最新のテクノロジーが注ぎ込まれているのです。

新世代のA110は、昨今の安全基準に適合するために、全長4205mm×全幅1800mm×全高1250mmというボディサイズとなりましたが、車両重量は1110~1130kgと比較的軽量。そんな軽量ボディに搭載されるのは、排気量1798ccの直列4気筒DOHCターボエンジンで、最高出力252馬力(A110Sは292馬力)、最大トルク32.6kgf-mを誇ります。

ちなみにこのエンジンはルノーと日産自動車のアライアンスによって誕生したもので、ルノー「メガーヌR.S.(ルノー・スポール)」に搭載されるものと同系統。とはいえ、A110のそれは、出力、トルクともに若干控えめな数値となっています。また、新世代A110に組み合わされるトランスミッションは、いずれもデュアルクラッチ式の7速ATのみとなります。

現在、日本市場向けに設定されるスタンダードモデルは、ピュア(804万6000円~)とリネージ(844万4000円~)の2モデル。ピュアはスポーティな仕立てとなり、サベルト製の軽量モノコックバケットシートや、フックス製の鍛造アロイホイールが採用され、一部の快適装備が省かれます。一方のリネージは、リクライニングや高さ調整が可能なヒーター付きレザーシートが備わるほか、オーディオにもサブウーハーが追加されるなど、豪華な仕立てとなっています。

タイヤサイズは両グレードとも、フロント:205/40R18、リア:235/40R18と共通ですが、ピュアのホイールサイズはフロント:7.5J×18インチ、リア:8.5J×18インチであるのに対し、リネージのそれは、フロント:7J×18インチ、リア:8J×18インチと若干細くなります。また車重も、ピュアの1110kgに対し、豪華装備がプラスされるリネージは1130kgと少々重くなります。

そのほか細かく見比べれば、ブレーキキャリパーのカラーが異なるなど、ディテールは若干異なります。とはいえ、EBD(電子制御制動力配分システム)付きのABSやEBA(緊急時ブレーキアシスト)、解除スイッチ付きESCといった安全装備に差はありませんし、「ノーマル」「スポーツ」「トラック」という3つの走行モードを選択できるモードセレクター(スポーツボタン)も、両モデルともに標準装備となります。

つまり、ストイック…というほどではないにせよ、ドライビングを純粋に楽しみたいならピュア、GT(グランツーリスモ)のように、ツーリングも快適にこなしたいというのであればリネージ、という、絶妙なキャラクター分けがなされているようです。

■キルティング風ステッチなどで上質さを高めた室内

豪華仕様のリネージと対面して改めて感じたのは、やはり想像以上にコンパクトだな、ということ。全幅1800mmと聞くと大きいように感じますが、それは、グッと張り出した前後フェンダー分といった印象で、スペックから想像するほどの大きさは感じません。また、筆で描いたかのように柔らかい弧を描くフェンダーのラインと、リアに向かって絞られていく造形も、こうした印象を際立たせているようで、そのサイズ感はマツダ「ロードスターRF」をやや大きくした程度、といえば、想像しやすいかもしれません。

コックピットに収まると、絶妙なコンパクトさをまさに身をもって感じます。ドアはなかなか幅がありますし、上屋部分はかなり絞り込まれていますから、肩回りやサイドウインドウまでの距離に余裕があるわけではありませんが、こうした距離感がスポーツカーとしての程良いタイトさにつながっています。まさに、仕立ての良いジャケットを羽織るような、とでもいいたくなる感覚です。

リネージには、フルレザーシートなどの豪華装備が備わりますが、何より、キルティング風のステッチや、ディテールの金属加飾の風合いが、上質さを感じさせます。

グローバル化によって、クルマからブランドやお国柄といった個性が失われつつある昨今ですが、デザインと質感のバランス、この辺りのサジ加減は、素直に「アルピーヌ(ルノー)あっぱれ!」といったところでしょう。

■リネージは豪華仕様でも走りは楽しい!

さて、エンジンを始動させ、リネージで公道へと歩みを進めます。その走行フィールは、想像をいい意味で裏切られた、というのが偽らざる感想です。

いわゆる、スーパースポーツのどう猛さとは異なるものの、軽いアルミボディに250馬力を発生するターボエンジンを搭載していますから、ちょっとした荒々しさを感じることがあるかも、と思っていましたが、少々ラフに扱っても身のこなしが乱れることはありませんし、大きめの段差や荒れた路面を通過しても、不快と感じるような振動や雑音はしっかり遮断されています。また、高速道路はもちろん、街中でもギクシャクするような動きや、ドライバーに我慢を強いるような立ち振る舞いは見られませんでした。

しかし、A110の白眉は、やはりワインディングでのドライビングの楽しさにあるのは間違いありません。この点については、豪華な仕立てとなるリネージでも同様です。

まず注目すべきは、昨今のスポーツカーとしては比較的柔らかく、懐の深い足回り。これは、いわゆる“腕に自慢”のドライバーでなくともクルマの動きが分かりやすく、積極的に操ってやろう、という気にさせてくれるうれしいポイント。ハンドリングも、刃物のように鋭い切れ味と、いうよりも、路面の感触をじわりとドライバーに感じさせつつ、ハンドルを切れば切った分だけ、地球をひねるかのごとくグイグイとクルマが向きを変えていく印象です。

こうしたセッティングもあって、ドライバーの操作に合わせてクルマの姿勢も明確に動きますが、重心が低いことから、不安を感じることがないのもA110の美点。また、スポーツモードを選べば、背後から聞こえる硬質なエンジンサウンドに少々ラフな排気音が加わるという演出もあり、思わず「もっと走りたい!」と感じるほど中毒性のあるクルマ、といえるでしょう。

見た目も走りもキャラ濃い目、似た者がほかに見当たらないA110。気になる方はぜひ! とお勧めしたいところですが、むしろ、手に入れるに当たって最大の障害となりそうなのは、この個性にさらなる磨きをかけた高性能版のA110Sや、今後、リリースが予定されている限定車かもしれません。

アルピーヌ・ジャポンからは、リネージをベースに内外装をエレガントに仕立てた「リネージGT」や、A110Sをベースに特別色(ジョン トゥルヌソル/ひまわりの黄色)を採用した「カラーエディション2020」、そして、ボディカラーやホイールなどのパーソナライゼーションプログラムの導入が発表済み。いやはやA110は、なんとも悩ましいクルマですね。

<SPECIFICATIONS>
☆リネージ
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1130kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:252馬力/6000回転
最大トルク32.6kgf-m/2000回転
価格:844万4000円

文&写真/村田尚之

村田尚之|自動車専門誌やメーカー広報誌などを手掛ける編集プロダクションを経て、2002年にフリーランスライター・フォトグラファーとして独立。クルマや飛行機、鉄道など、乗り物関連の記事を中心に執筆・撮影。そのほか、カメラやホビーアイテムの取材・執筆も得意とする。

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