NASAの月への帰還計画はそれだけでも十分に意欲的だが、同機関はその過程で宇宙における国際協力をより現代的にしようと狙っている。NASAは米国時間5月15日に、自主的なガイドラインのセットである「Artemis Accords(アルテミス協定)」の概要を発表した。それは、NASAのパートナーである国や組織が協力して、宇宙の探究と宇宙産業の大きな目的をグローバルに前進させることを狙いとしている。
宇宙はいかなる国家主権の下にもなく、またそれ自身の主権もないため当然ながら無法状態にある。そのためこの協定案も、宇宙法というよりも共有されるべきプライオリティの集合をなるべく明確に書き表したものになっている。既にに多くの国がさまざまな協定や条約に参加しているが、宇宙探検の進歩と、すぐそのあとにやってくるであろう植民や資源採掘などの問題は、既存の体制ではとうてい扱えない。全面的な書き換えが喫緊の課題であり、そしてとりあえずNASAが最初にペンを握ることにしたのだ。
アルテミス協定は古いルールや協定の重要性を再確認しながらも、いくつかの新しいルールを持ち込んでいる。それらは現段階ではあくまでも一般的な記述であり、具体化のためには今後数カ月ないし数年にわたる協議が必要となる。
ルールとその理由を説明しているNASAの声明は短く、明らかに一般の人向けを想定している。ただしここでは、読みやすくわかりやすくするために箇条書きにまとめた。
最初は新しいと思われるルールだ。NASAとパートナー諸国は以下について合意する。
- 方針や計画を透明なやり方で記述し、公開する。
- 「安全区域」を作る位置とその運用の一般的な性質を公開し、抗争を避ける。
- 国際的なオープンスタンダードを用い、必要なら新しいスタンダードを開発し、実用的な範囲内で相互運用性をサポートする。
- 科学データを全面的かつタイムリーに一般公開する。
- 歴史的価値のある遺構や人工物を保護する。例えばアポロ計画の着地点はまだ法的に保護されていない。
- 軌道デブリの減少を計画的に行う。寿命を迎えた宇宙船は安全かつタイムリーに処分する。
ご想像どおり、これらのどれもが多くの新しい問題を提起する。例えば「透明」とはどういうことなのか? どのような運用をどんなタイミングで公開すべきか? 「歴史的価値」を誰が決めるのか?
今後いろいろなことが長期間にわたって議論されるだろうが、基本的な想定として「秘密主義はいけない」や「アポロ13号の着陸船を盗むなかれ」などのルールは、会話を始めるための良いきっかけになるかもしれない。
Jim Bridenstine(ジム・ブライデンスタイン): 宇宙の探究の新しい夜明けだ! 名誉なことに、本日、アルテミス協定を発表する。月への人間の帰還事業に参加する国際的パートナー全員が共有するビジョンを確立し、原則を設定する。私たち全員が一緒に進むのだ。
一方、この協定は、既存の条約やガイドラインへのNASAの賛意を再確認している。NASAとパートナーは以下を遵守する。
- Outer Space Treaty(宇宙条約)に準じ、すべての活動を平和的な目的のためにのみ行う。
- Agreement on the Rescue of Astronauts(宇宙救助返還協定)などの協定に基づき、遭難した宇宙飛行士を助けるためのすべてのリーズナブルなステップを行う。
- Registration Convention(宇宙物体登録条約)に基づき、宇宙に送られるオブジェクトを登録する。
- 宇宙の資源の取り出しと利用は、Outer Space Treaty(宇宙条約)の第II、VI、XI条に基づいて行う。
- パートナー国に「安全区域」について知らせ、Outer Space Treaty(宇宙条約)第IX条に従って調整する。
- 国連の宇宙の平和利用委員会のガイドラインに基づいてデブリを減らす。
アルテミス計画では2024年に次の米国人男性と初めての女性を月に送ることを目標としているが、そのスケジュールは日増しに不可能の様相を呈している。ミッションはコスト削減のために民間の打ち上げプロバイダーとそのほかの商業的パートナーに前例のないほど大きく依存し、それでいて必要なレベルの信頼性と安全性を維持しようとしている。
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画像クレジット:NASA