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時計ライター竹石祐三の偏愛的逸品 -Watch-

デジモノステーションに関わる識者やスタッフ陣はモノへのこだわりは人一倍強い。なぜ彼らは数多あるものからそれらの逸品を選んで使っているのだろうか? そこには目利きとして、どうしても譲れない想いや選ぶに至ったストーリーがそれぞれある。表面的な価格などに左右されず、選ぶべき人に選ばれた逸品。真に「安くていいもの」とは、彼らのように永きに渡り、これしかないと愛し、使い続けられるからこそ生み出されるのだ。ここに登場する逸品たちのように、ぜひ読者諸兄にも自分だけの偏愛的逸品を見つけてほしい。

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独立記念に手にした、最新にして最高のお気に入り

本格的に腕時計の記事に携わるようになったのは10年ほど前のこと。当時「時計の記事を作るのに時計を1本も持っていないって、さすがにマズイんじゃね!?」と考えて人生初の機械式時計購入に踏みきったわけですが、いざ購入するときには(大げさに言えば)「決意」みたいな感情が湧いたのも事実です。というのも、機械式時計なんてけっして安い買い物ではなく、しかも当時はたいして貯金がなかったので、支払いは必然的に「分割」に。でも結果として「支払いが終わるまでの数年間は馬車馬のように働くぜ」みたいな意識が芽生えたのだから、時計の購入を言い訳にして自分を追い込んだのはあながち間違いではなかったのかもしれません(と思いたい)。もっとも、それから1年もしないうちにうっかりもう1本購入してしまい、しばらくの間ダブルローンを背負うことになってしまったのは大きな誤算だったわけですが。

以来、自分にとってのターニングポイントに時計を購入しているのですが、そのなかのひとつが「サントス ドゥ カルティエ ウォッチ」。長年勤めた出版社を辞め、フリーランスとして生きていくことの記念……というか決意のような思いを込めて買ったわけです。

「サントス ドゥ カルティエ ウォッチ」が発表されたのは2018年ですが、このモデルの原型となった腕時計「サントス」が誕生したのは1904年のこと。当時、ブラジル人飛行士のアルベルト・サントス-デュモンは「飛行中に時刻を確認するのに、ポケットから時計(当時は懐中時計)を取り出していると操縦がおぼつかなくなるんだよね」と、知人のルイ・カルティエに相談。これを受けて彼のために製作したのが「サントス」で、これが世界初の紳士用腕時計になったのだとか。

これは「サントス」誕生の有名なエピソードで、もちろんいいお話しではあるのですが、そこに感銘を受けて時計を購入した……なんてことはなく、心惹かれた最大の理由はその佇まい。デザイン自体は誕生した頃からほとんど変わっていませんが、ビスの意匠がアクセントになったインダストリアルな雰囲気にすっかり心を奪われてしまったのです。特に、購入した「サントス ドゥ カルティエ ウォッチ MM」はケース幅35.1㎜という小ぶりなサイズも気に入ったし、なによりブレスレットの時計は汎用性が高いので、Tシャツにも合わせられるのも魅力でしたから。

そして購入時の決定打になったのが、クイックスイッチと呼ばれるストラップの交換システム。「サントス ドゥ カルティエ ウォッチ」にはブレスレットに加え、カーフストラップも付属しているのですが、これを家人へのプレゼン材料に「この時計ならサイズも小さいし、ストラップを付け替えればキミとシェアして使えるぜ」ってなことを言ったことで無事に購入許可が下りたわけです。まぁ、その後、シェアしたことは一度もないですが。

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