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現場で使える建設施工SaaS「ANDPAD」CFOに元ミクシィ荻野氏就任

写真左からアンドパッド代表取締役社長の稲田武夫氏、取締役CFOの荻野泰弘氏

建設プロジェクトSaaS「ANDPAD(アンドパッド)」を提供するアンドパッドは、ミクシィでCFOを務めた荻野泰弘氏を取締役CFOに迎えたことを5月19日に発表した。同社は5月13日、社名をオクトからアンドパッドに変更し、ロゴ、ブランドステートメントを刷新したことも明らかにしている。

ANDPADはクラウド型の建設・建築施工管理サービスだ。職人や監督など現場で働く人が使いやすいように、スマートフォンアプリも提供されており、写真や図面資料など現場で必要な情報を一覧可能。工程表の共有もできる。資料の確認だけでなく、関係者がやり取りを行うためのチャット機能、日報の共有も現場で対応可能だ。

2016年3月にリリースされたANDPADは、新築からリフォーム、商業建築など、さまざまな種類・規模の施工現場にわたって利用されており、現在の契約者数は2000社を突破、利用ユーザーも10万人を超えた。

アンドパッド代表取締役社長の稲田武夫氏は「この1年、創業者として業界やプロダクトと向き合う時間を重視したいと考え、経験ある経営チームを重視して構築してきた。執行メンバーが増えてきた今、さらに万全な体制で取り組むためには相応の経営力、財務能力が必要と考え、CFOの採用には1年こだわってきた」と荻野氏参画に至る背景について語った。

ANDPADに可能性感じ、もうやることはないと思っていたCFOに就任

荻野氏は、調査会社のマクロミル、モバイル系スタートアップのジェイマジックを経て、2009年12月にミクシィに入社。ずっと財務畑を歩んできた人物だ。

2012年6月、荻野氏がミクシィで取締役CFOに就任したのは、FacebookやTwitterの日本上陸、LINEの登場した頃。前任者で現メルカリ取締役会長の小泉文明氏からバトンを受け継いだが、「ミクシィは右肩下がりで一番厳しい状況にあった。社員500人を乗せた、両翼から煙が出ているジャンボジェットでコックピットに座ってくれと言われたような緊張感があった」と荻野氏は振り返る。

SNSやブラウザゲーム全盛期だった当時にビジネスモデルをフルチェンジし、ネイティブアプリの会社としてミクシィが生まれ変わったのは誰もが知るところだが、当時ネイティブアプリのエンジニアは1桁しかいなかったそうだ。1年で「モンスターストライク」というプロダクトが生まれ、荻野氏のCFO在任中には、営業利益で20億円規模から最大で950億円規模まで会社が成長した。

荻野氏は「ミクシィでのCFO在任中、海外の投資家と質の高い議論を繰り返す中で、海外の投資家が経営者に求めるものは結構シンプルだと気づいた」という。「彼らも株を売ったり買ったりしているだけではない。生涯自分たちが応援できるような会社を求めている。人類を救うような事業、生活を豊かにするような経営者、明日なくなったら困るとみんなに言われるようなサービスを生み出せる、それを大きくできる経営陣を投資家は求めている」(荻野氏)

「CFOはもう2度とやることはないと思っていた」と当時について話す荻野氏。だが「もしCFOとして再登板するなら、こうした世界の投資家から成長を支援してもらえるような企業と出会えたら、もう一度やってもいいと思っていた」と述べている。アンドパッドにその可能性を感じた荻野氏は、稲田氏に会い、CFOとしての参画を決めたそうだ。

稲田氏は「新型コロナウイルスの感染拡大など、外部環境の変化があったときに意思決定を柔軟に、スピーディーにしていくためには、(荻野氏のように)ベンチャー、上場企業での経験と実績のあるメンバーの参画は心強く、非常にいいタイミングだった」と話している。

「(初めは)バックボーンをあまり知らずに話したが、(荻野氏の)視点や着眼点、経験、行動など興味深く聞いた。アンドパッドには僕自身をはじめ、結果を出すことにこだわるメンバーが多いので、その点もフィットすると考えた」(稲田氏)

稲田氏は「彼が入り、僕が口で言っているビジョンを具体的にロードマップに落とし込むとどうなるか、何年かけて実現していくかという議論を、今は多く行っている。特にIPOスケジュールなどを意識しているわけではない」という。

荻野氏も「IPO自体はひとつのマイルストーンというか資本政策上のひとつのイベントでしかない。必要なタイミングで行えばいい。それよりは、この事業をどれだけ大きくできるのかをゴールとして、そこから逆算して何に今取り組むかが一番大事だと思っている」と話している。

建築・建設業界に寄り添う覚悟の表れとして社名を変更

新型コロナウイルス感染拡大の事業への影響について「多少はある」と稲田氏は述べている。「業界には中小企業も非常に多く、資金繰りに困っているという顧客企業も少なからずある。建築業界特有の話では、中国生産の建材が届かず、3月の引き渡し現場で施工が遅延したというようなことも結構聞いている」(稲田氏)

解約率が増えるなどといったことはないそうだが、稲田氏は「事業の業界における価値を見つめ直す時期になっていると強く感じている」と語る。実際、問い合わせは増えているそうだ。

「ゼネコンや屋内施工は中止になっているところが多いが、屋外の現場は、特に地方では、まだまだ稼働しているところが少なくない。ANDPADを使えば、直行直帰で現場を管理できることが評価されているほか、フリーの職人さんの不安を建築会社としてきちんとケアしたい、との思いを持つ企業もあって、施工管理における通年ニーズは上がっている。また(営業などで)外に出なくなったことで、建築業界の経営者が基幹システムの見直しに取り組みたいと検討していて、連絡も多い」(稲田氏)

こうした中、アンドパッドではオンラインで顧客と勉強会を実施しているという。「建築業界は働き方が新しくない。はんこ出社の議論があるが、この業界ではまだ、FAXを受け取ったり、送ったりするために会社に行かなければ、といった段階にある。これをどうIT化していくのかなど、知識の共有で貢献の幅を広げている」(稲田氏)

企業としては「ブランドステートメントは刷新したが、言っていることはずっと変わっていない」と稲田氏。「この業界の『働く』こと、働く人々をいかに幸せにできるかということをビジョンに、ロードマップも変えていない」という。

「専門性のある工事への要望も挙がってきている中、引き続き、粛々とプロダクトを磨き、サービスを向上し、サポートするということをやり続けようと考えている。SaaS事業では『お客さまにプロダクトを作ってもらっている』という感覚が非常に強い。オクトという社名でやっている間は『ほかの事業もやるのでは?』と言われることもあったが、ずっとこの業界に寄り添うという意味を込めて、覚悟の表れとして社名はアンドパッドに変えた」(稲田氏)

また荻野氏は「アンドパッドは建築業界でのカテゴリーリーダーになることを投資家から期待されている」と話す。「衣・食・住のベーシックニーズを支える領域のひとつが建築業だ。その中でオンリーワンとなる、リーダーシップをとる企業がまだないのであれば、自ら作ればよいと考えている」(荻野氏)

荻野氏はエンジニア界のプラットフォームとして、ノウハウやスキル、職歴、行動履歴の管理やソフトウェアのバージョン管理ができるGitHubになぞらえて、ANDPADが建築・建設業界のプラットフォームとして機能する世界観を目指すと語る。

「GitHubと同じように、職人の職歴や施工の履歴、物件のバージョン管理までできるようなデータベースを持つ、大きなプラットフォームを業界の中に築いていきたい。さまざまな業種・業界とも連携し、蓄積した情報を活用することで、業界の人がよりスムーズに仕事が進むようになればよいと考えている。潜在市場が総額1兆円を超える大きなニーズがあるマーケットに対し、この領域で圧倒的なカテゴリーリーダーになることが、我々の最初の目標だ」(荻野氏)

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