●What’s ビザールウォッチ?
<今月の時計>
Vol.17
PIAGET
アルティプラノ アルティメート コンセプト
極限を目指す戦い、ついに最終章へ
ビザールウォッチの多くは、技術自慢から始まる。コレもアレもやりたいという技術への探求心によって、いつしか時計という枠を超えてしまうのだ。今回紹介するのは、薄さを極め過ぎた時計である。
PIAGET
アルティプラノ アルティメート コンセプト
目指したのは時計技術の限界点
ビザールウォッチは、人に見せびらかし、驚かれてこそ価値がある。いうなれば不要不急であるほどビザール度が高いのだ。この「見せびらかすためだけに時計に大枚をはたく」という行為は、現代だけの話ではない。暴君として知られた英国王ヘンリー八世(1491-1547)は、自身の肖像画を描かせる際に、当時のトップモードであるドラム型の携帯時計をペンダントにして身に着けた。時計は権威の象徴で、センスや知的レベル、そして財力を示すモノとして考えていたのだ。結局のところ、今も昔も高価な時計は、見せびらかしてこそ意味がある。ゆえに殆どのビザールウォッチは、人目を惹くほど大きくて厚いのだ。
だから逆に時計業界には、「薄いほど“上品”である」という不文律がある。薄い時計はドレスシャツの中にすっと隠れてしまうので、他人から気付かれることとは少ない。しかし限られたスペースにたくさんのパーツを組み込むためには、設計、パーツ製造、組み立ての全てで高いレベルが求められるため、時計はかなり高価。つまり薄型ウォッチは、見せびらかしのためではない、上品で奥ゆかしい時計なのだ。
この極薄ウォッチの世界を探求しているのが「ピアジェ」である。1874年に創業した老舗時計会社であり、「薄いムーブメントなら、装飾に凝ってもエレガントさは保たれる」という一念から、1957年に厚み2mmという手巻き式ムーブメントを開発。この極薄ムーブメントを搭載する時計は、全体の厚みが6㎜程度に抑えられるため、フランスの名優アラン・ドロンたちがが、タキシードをエレガントに着こなすために好んで着用したという。
そんなピアジェが最新作「アルティプラノ アルティメート コンセプト」で実現させたのが、時計“全体”の厚みが、2㎜という時計。“Ultimate=究極”という名がふさわしい、世界で最も薄い機械式時計である。
しかし1957年に完成させた厚さ2㎜のムーブメントでも、十分に時計史に残る偉業なのに、どうして2020年には時計全体の厚さを2㎜に抑えることができたのだろうか? それは数百年も積み上げてきた時計の構造の歴史を進化させたからである。
ヘンリー八世の時代から携帯用の時計は、針を動かすムーブメントを、埃や水から守る強固なケースに収めていた。しかしピアジェはケースの裏蓋に直接パーツを組み込んだのだ。つまりこの時計は、“時計自体がムーブメント”、あるいは“ムーブメントにケースがついている”という特殊な時計なのだ。さらにはパーツの厚みも極限まで薄型化し、風防のサファイアクリスタルの厚みはなんと0.2㎜しかない(通常の時計は1㎜厚)。そして極限まで薄くしても強度を保てるように、ケース素材には耐久性に優れたコバルト合金を使用している。そういった積み重ねによって、2㎜という究極の極薄ウォッチが実現したのだ。
「アルティプラノ アルティメート コンセプト」は、デザインこそ歯車が見える大胆なさがあるが、直径は平均的な41㎜にまとめている。つまり価格は4000万円オーバーなのに、遠目で見ると薄型を極めた上品ウォッチでしかない。サイズで有無を言わさぬ圧倒感は演出できず、見せびらかし効果は薄いだろう。だからこそこういう時計を選ぶという行為自体が、とっても上品でお洒落なのである。
PIAGET
アルティプラノ アルティメート コンセプト
手巻き、コバルト合金ケース、ケース径41㎜。42,800,000円。
問 ピアジェ コンタクトセンター ☎0120-73-1874
https://www.piaget.jp/
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★★★5
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★4
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000124520/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生