サイトアイコン IT NEWS

スカイライン400Rに続け!日産「フーガ」復権のために伝説の“グラツー”登場に期待

2019年夏の大改良で、見事に名声復活を果たした日産自動車の「スカイライン」。その勢いに続けとばかりに、先頃、アッパークラスセダンの「フーガ」もマイナーチェンジを受けた。

現行フーガが登場したのは2009年のことだから、フルモデルチェンジからすでに10年以上が経過。果たして今回の改良で、その性能や実力はどこまでアップデートされたのだろうか?

■10年以上の時を経て名実ともに日産フーガに

先頃、2019年度の決算とともに、2023年度までの4カ年計画を発表した日産自動車。その中で目を惹いたのは、「今後18カ月の間に、世界市場に12台の新型車を投入する」というアナウンスだった。

我々にはうかがい知れない、さまざまな課題を抱えていたのだろう。日産自動車の商品戦略は、ここ数年、確かに勢いを欠いていた。「デイズ」と「ルークス」という軽自動車を除くと、日産車のフルモデルチェンジは、2017年の「リーフ」にまでさかのぼる。以降、日本市場においては、マイナーチェンジやグレード追加などで、各モデルの商品力を保つ努力が続いてきた。

とはいえ中には、そんな努力の甲斐あって、人気、販売面ともに復活を遂げたモデルも存在する。その一例が、2019年夏に大幅にブラッシュアップされたスカイラインだ。現行スカイラインがデビューしたのは2013年のことだから、そろそろフルモデルチェンジを迎えてもおかしくはない頃。しかし日産自動車は、このロングセラーに大規模な改良を施し、延命を図った。

ハイブリッドモデルには、一定条件下でのハンズオフドライブ(ステアリングから手を離しての運転)を可能とする先進技術“プロパイロット2.0”を搭載。そしてガソリンエンジン車には、405馬力という超高出力エンジンを積んでスポーツ性能を際立たせた新グレード「400R」を追加するなど、硬軟織り交ぜた大手術を敢行した。その結果、スカイラインという歴史あるブランドは、見事に復活を遂げたのだ。

同様に、2019年末にマイナーチェンジを受けたフーガも、名声復活が期待される日産車だ。現行モデルがデビューしたのは2009年のことだから、スカイラインをも超えるロングセラーである。日産の上級セダンにおけるポジショニングは、フラッグシップサルーンの「シーマ」よりはパーソナルカーとしての色合いが強く、スポーティさを強調するスカイラインと比べると、より落ち着いた雰囲気を備える。

フーガの前身は、往年の名ブランド「セドリック」と「グロリア」であり、トヨタ「クラウン」やホンダ「レジェンド」といった各社を代表するアッパーサルーンがライバル。ドイツ車でいえば、メルセデス・ベンツの「Eクラス」やBMW「5シリーズ」などと同じ“Eセグメント”に属すモデルである。

先のマイナーチェンジにおけるメインテーマは、先進安全装備の充実だ。最新のフーガは、前方に位置する車両や障害物、歩行者を検知して、回避支援や衝突被害軽減を図る“インテリジェントエマージェンシーブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)”や、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによって障害物へ衝突するのを防ぐ“踏み間違い衝突防止アシスト”などを全グレードに標準装備。さらに、前方を走るクルマだけでなく、その前方、つまり自車から2台前を走るクルマの動きを検知して、ブレーキが必要な場合は瞬時にドライバーへと注意を喚起する“インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)”といった、ライバルより先進的な機能をも組み込んでいる。

しかし、クルマ好きにとって今回のマイナーチェンジで最も興味深い変更は、ブランドバッジの刷新だろう。

現行フーガはデビュー以来、“NISSAN”ではなく“INFINITY(インフィニティ)”のバッジを掲げていた。インフィニティとは、日産自動車が海外市場で展開するプレミアムブランドの名称で、トヨタでいうところのレクサスに相当する。日本市場ではインフィニティブランドを展開していないにもかかわらず、なぜかフーガのブランドバッジは、これまでINFINITYだったのだ。それが晴れて刷新され、最新モデルでは名実ともに日産フーガとなったのだ。

■エンジンもフットワークも依然として味わい深い

最新のフーガは、全グレードにV型6気筒エンジンが積まれている。ベーシックグレードの「250」系には、2.5リッターの自然吸気(225馬力/26.3kgf-m)を、上級グレードの「370」系には、3.7リッターの自然吸気(333馬力/37.0kgf-m)を搭載。そのほかに、3.5リッター自然吸気エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド仕様も用意される。

この中で注目したいのは、ハイブリッド仕様のキャラクターだ。306馬力/35.7kgf-mのガソリンエンジンに、68馬力/29.6kgf-mのモーターを組み合わせた高出力型であり、省燃費よりもパワフルさを重視した仕立て。その乗り味はまさに、退屈しないハイブリッドカーといった印象だ。

そんなハイブリッド仕様に負けず劣らず、今回試乗した3.7リッター車もパワフルな走りが自慢だ。何を隠そう、現時点で大排気量の自然吸気V6ガソリンエンジンをピュアに楽しめるセダンは、日本ではフーガだけ。そういう意味においてフーガの3.7リッター車は、今や貴重な存在といえる。

久しぶりにドライブした“VQ37VHR”型エンジンは、以前と変わることなく、心をときめかせてくれる存在だった。パワフルなのはもちろんだが、何しろフィーリングが素晴らしい。最高出力の発生回転数は7000回転と、イマドキのエンジンには珍しい高回転志向で、アクセルペダルを踏み込むと「シューン」と軽々しく回転が上がっていく。その上、回転数が上がるに従って、まるでよどみなく湧き出すかのようにパワーが盛り上がり、それと共鳴するかのようにエンジン音も高まるから、実にドラマチック。まるでエンジンが「もっとアクセルを踏め!」と訴えかけてくるようだ。

一方、高回転域まで回さずとも、ジワリとわずかにアクセルペダルを踏み増した時に伝わってくる、エンジンの鼓動が心地いい。この脈を打つような鼓動こそ、VQ37VHR型のドライバビリティにおける真骨頂だろう。決して最新鋭のユニットではないが、世界的に見ても、爽快感においては指折りのV6エンジンだと断言できる。

昨今は、低回転域でのトルクが厚く、扱いやすいエンジンが増えているが、それらは回す喜びに欠ける“真面目で実用的なもの”ばかり。その点、VQ37VHR型は、ドライバーがエンジンと心を通わせながら、走りをエンジョイできるのだ。

そしてそれは、しっかりと走りを楽しめるチューニングが施された、フットワークによるところも大きい。日産自動車のFR車はどれも例外なく、正確でスポーティなハンドリングが魅力であり、その仕立ての良さには毎回感心させられる。新しいフーガもそれを裏切らず、ハンドルを切り始めた時の素直な反応に始まり、しっかりと狙った進路をトレースできる正確性、そして、コーナリングの収束時までビシッと筋が通りスムーズにつながるところなど、数々のシーンで好印象を与えてくれる。スカイラインと比べると挙動のシャープさこそ控えめだが、この程度がちょうどいいと感じられるオトナなら、きっと満足できるに違いない。

■本格復権を目指すなら伝説のグレード復活に期待

新しいフーガは、エクステリアデザインは相変わらず個性的で、ドライブフィールは味わい深く、安全装備も最新のものにアップデートされている。基本設計こそ古いものの、個人的には「これもアリかな」と感じた。

しかし、フーガが本格的に復権を狙うには、もう1歩踏み込んだアクションが欲しいところ。そのためには、スカイラインにスポーティネスを極めた400Rが追加され、クルマ好きの間で大きな話題となったのと同様、例えばフーガに400Rと同じエンジンを搭載し、エクステリアもインテリアも思いっきりスポーティに仕立て、イメージリーダー「グランツーリスモ」を復活させてみてはどうだろう?

グランツーリスモは、1987年にセドリックとグロリアに初めて設定されたスポーツグレードで、当時、高級セダンにスポーツグレードを設定するプランは、常識外れのことだった。しかし、時代に受け入れられ、発売と同時に大ヒット。まさに日産自動車のアッパークラスセダンにとっては、伝説のグレードといっていい。

今、フーガのような高級セダンを買う層は、当時の熱い時代を知るクルマ好きが中心。ならば、グランツーリスモの復活は、きっと多くの人々の心に響くはずだ。

<SPECIFICATIONS>
☆370GT Type S
ボディサイズ:L4980×W1845×H1500mm
車重:1770kg
駆動方式:FR
エンジン:3696cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:7速AT
最高出力:333馬力/7000回転
最大トルク37.0kgf-m/5200回転
価格:595万5400円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

モバイルバージョンを終了