各メーカーが毎年のようにモデルチェンジを繰り返し、そのたびに性能がアップしたマシンが続々と登場していた1980〜90年台のレーサーレプリカブーム。その辺の高校生までもが過激なレプリカマシンを乗り回し、いつかはサーキットを走りたいと憧れるという今考えても熱すぎた時代でした。そんな“あの頃”を振り返るシリーズ企画。今回はレプリカでも独自の路線を歩んだカワサキを取り上げます。
■レプリカでも個性あふれるマシンをリリース
カワサキのレーサーレプリカといえば、4ストの「ZXR」シリーズを思い浮かべる人が多く、2ストマシンのイメージはあまり強くないかもしれません。たしかに、これまでの記事で取り上げたNSRやTZR、ガンマといったライバルに比べると印象は薄いかもしれませんが、実はカワサキも個性的な2ストレプリカをリリースしていました。
その代表が、1984年に登場した「KR250」です。NSR(1986年)やTZR(1985年)よりも早かったんですね。このマシンは、世界GPの250ccクラスで活躍していたワークスレーサー「KR250」と同じ車名でリリースされた、純然たるレプリカマシンでした。その証拠にエンジンはタンデムツインという単気筒を2つ縦に並べたようなワークスレーサーと全く同じ形式。キャブレターはエンジンの右サイドに2つ並んで装着されており、レース用のロータリーディスクバルブとリードバルブを組み合わせた「R.R.I.S.(ロータリー&リードバルブインテークシステム)」という特殊な吸気構造を採用していました。
ただ、このエンジン、ものすごく低速トルクがなかったようで、慣れていないと発進にも苦労するほど。そのため、1985年には後期型へと進化し、「KVSS(カワサキ・バルブ・シンクロナイゼーション・システム)」と呼ばれる排気デバイスが採用されました。しかし、カウルは装備しているものの、レーサーレプリカっぽくないデザインだったこともあって販売面では苦戦。今では非常にレアなマシンになっています。個人的には「GPZ900R(ニンジャ)」に似たデザインで好きだったのですが…。
独自路線を歩んでいたカワサキも、レプリカブームの熱を無視できなくなり、1988年にリリースしたのが「KR-1」です。個性が強すぎた「KR250」の反省からか、アルミのツインチューブフレームに、並列2気筒の2ストエンジンを搭載した非常にオーソドックスな構成のマシンでした。エンジンにはバランサーを内蔵し、フレームに沿うほど前傾させてラバーマウントするという方式で、振動が少ないことが特徴でした。
そして、当時の進化の速さを反映するように翌年にはモデルチェンジ。ストリート向けの「KR-1S」とSPレース向けの「KR-1R」へと進化します。ホイールが5本スポークデザインとなり、エンジン特性やフレーム剛性が見直されたこのマシン、過激化の進んでいたレプリカの中では非常に乗りやすいという定評がありました。
ただ、この頃カワサキはレースから撤退していたので、正確にはレーサーレプリカではなかったんですね。逆に、このモデルの販促のためもあって「X-09」というマシンで全日本250ccクラスのレースに復帰。公道モデルのためにレーサーが生まれたという珍しいマシンでした。しかし、レプリカブームが沈静化したことから1993年に再びレースから撤退。「KR-1S/R」も生産が終了します。
■2万回転近く回るモンスター「ZXR」
2ストでは独特の路線を貫いたカワサキでしたが、4ストではレプリカブームの王道を行く本気マシンをリリースします。それが1989年に登場した「ZXR250」。完全新設計の4気筒エンジンは、レッドゾーンが始まる回転数が1万9000rpmという超高回転型で、クラス唯一のラムエアシステム(走行風を取り入れて吸気に圧力をかけるシステム)を搭載していました。カウル前面からタンクにつながるダクトがデザイン上の特徴でしたが、これはラムエア用ではなくヘッドを冷却するためのもの。大口径キャブを装備したSPレース仕様の「ZXR250R」も用意されていました。
1991年にはマイナーチェンジし、ライトが丸目2灯から角目1灯に。「R」にはFCRキャブレターが採用されました。1993年には自主規制値の変更によって、最高出力が45psから40psにダウン。レプリカブームの終焉によって1995年に生産が終了しますが、このエンジンはネイキッドモデルの「BALIUS(バリオス)」に受け継がれ、2007年まで製造されていました。
そして、時は流れて2019年の東京モーターショー。「ZX25R」というマシンがカワサキブースに出展されます。250ccクラスとしては久々となる4気筒エンジンを搭載したマシンで、「ZXR250」を思い出した人も多いはず。詳細なスペックは発表されていませんが、2万回転近く回るエンジンを期待せずにはいられません。レース仕様では50psを発揮するなんて噂もありますが、正式発表が待たれるところです。
「ZXR」シリーズは250と400、750が同じ1989年に登場しました。250は完全新設計でしたが、400にはベースとなったモデルがありました。それが1988年発売の「ZX-4」。サイドカムチェーン方式のコンパクトな4気筒エンジンをアルミツインチューブのフレームに搭載し、最高出力は自主規制値上限の59ps、乾燥重量は152kgでクラス最軽量を誇りました。同年の鈴鹿4時間耐久レースで優勝し、その動力性能の高さを証明しますが、レーサーレプリカっぽくないデザインのせいか販売は苦戦し、わずか1年で生産終了となってしまいます。
そして、翌年に登場したのが「ZXR400」です。レプリカブームの中では最後発となりますが、その分装備は豪華で、クラス初となる倒立フォークを250とともに装備し、逆に速さとは関係ない装備は燃料計すらも省くといった潔さでした。しかも、年次改良でエンジン、スイングアーム、サスペンション、バックトルクリミッター(スリッパークラッチ)などをブラッシュアップ。SPレース向けの「ZXR400R」はFCRキャブレターも装備し、そのままレースで勝てるスペックとなっていました。
さらに、1991年にはフルモデルチェンジし、外観が角目1灯になっただけでなく、フレームも新設計に。エンジンもカムやクランクシャフトに至るまで一新し、一層戦闘力がアップしました。サスペンションやホイール、ブレーキも変更され、SPレースでは「ZXR400」でなければ勝てないとまでいわれたほど。サーキットはライムグリーンのマシンで埋め尽くされました。
1993年には自主規制値の変更により、最高出力が53psにダウン。翌年にも年次改良が施されますが、この頃には完全にレプリカブームが下火になっており、このモデルを最後に生産が終了します。レプリカブームを終わらせたのが、「ZXR400」と同じ年に発売された「ZEPHYR(ゼファー)」だったのが皮肉なところです。
最後に、シリーズのフラッグシップモデルである「ZXR750」にも触れておきます。ワークスマシン「ZXR-7」のレプリカとして1989年に発売されました。FCRキャブレターやシングルシート、倒立フォークを装備した「ZXR750R」も同時にリリースされます。発売時点で十分なスペックを持っていましたが、2年後にはフルモデルチェンジでエンジンも新設計に。このマシンをベースとしたレーサーで、カワサキは1993年に世界耐久選手権と全日本選手権、鈴鹿8耐でチャンピオンを獲得します。2019年の8耐で優勝を果たすまで、カワサキにとってはこれが唯一の8耐勝利でした。その後、排気量が拡大され「ZX-9R」や「ZX-10R」に発展していくことになります。
文/増谷茂樹
- Original:https://www.goodspress.jp/features/301586/
- Source:&GP
- Author:&GP