【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。
自己紹介
こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、TikTokの話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!
はじめに
先日ツイートした急成長中アプリの「Step Chickens」がさまざまメディアに取り上げられ始めたので、こちらでももう少し詳しく説明したいと思い、今回記事を書かせていただきました。
この現象の始まり、そしてこの「カルト」文化の影響や今後のインパクトについても説明したいと思います。よくわからないことが起きているように見えて、実はTikTok上、そして今のコロナ状況だからこそ自然に生まれる流れであると思っています。さらに、これはStep Chickensだけで止まらなく、今後もTikTok上でのカルト・グループ・コミュニティがどんどん結成される。いまのTikTokトレンド、いわゆるZ世代に今後何かを売り込みたい方は、このトレンド、インフルエンサーの進化はぜひ読んでください!
Step Chickensとは
先週からApple(アップル)のアプリランキングのソーシャル部門であるアプリが出てきた。Instagram、Facebook、TikTokなどの後にStep Chickensと言うアプリが出てきた。
ロゴはこんな感じです。
この画像はTikTokではすでに有名になっていた。このアプリの顔、そしてStep ChickensのクリエイターはMelissa Ong(メリッサ・オング)さん。TikTok上では何万人も自分のプロフィールをメリッサさんに敬意を示すために変えたw
彼女が「mother hen」(母鶏)であり、TikTok上で最も勢力があるカルトグループのStep Chickensのリーダーだ。
TikTok上のカルトはよく聞く宗教的なカルトとは大きく違う。だいたい1人のクリエイターに対してのファン層が「カルト」と呼ばれている。TikTokカルトリーダーはSNS上でのファン作りをしているクリエイター。TikTokカルトに所属しているファンはリーダーのグッズ、曲、コメントなどをする。人によってはカルト用のニュースアカウントまで作る。
メリッサさんはコロナのタイミングを上手く使って熱狂的なファン層を作れた。半分冗談で宗教家カルトを作ろうと発言した動画を投稿してから全てが始まった。
TikTokのカルト文化
TikTokユーザーはここ数カ月にも、ほかのカルト・グループに参加していた。過去だとDum Dum GangというカルトがMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やBarack Obama(バラク・オバマ)前大統領の投稿のコメント欄にモアイ像の絵文字を投稿し続けて有名になった。
レゴ スターウォーズ軍
1月には数千人の10代の子供たちがTikTok上でレゴ スターウォーズ軍を作った。
これは当時HypeHouseと言うTikTokコラボハウスが立ち上がったときに、批判した声がそろってHype Houseをスターウォーズ上での銀河帝国と名付け、それに対してユーザーが対抗してスターウォーズキャラのアバターに変更した。
それがどんどん広がり、YouTuberのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)、そしてワシントン・ポスト紙などの企業までそれに乗っかった。
Hype Houseについて知りたい方は以下スレッドを参照してほしい。
GTAでのエイリアンギャング戦争
そして4月にはTikTokユーザーは2つに分かれて紫と緑のエイリアンになり、ギャング戦争を始めた。
Grand Theft Auto(GTA、グランド・セフト・オート)ではFortnite(フォートナイト)と似たオンラインモードがあり、そこでは服装を変えて友達とプレーできるところ。そこで何人かが緑のエイリアンっぽい服装を着て自分たちが「グリーンエイリアンギャング」と主張。それを見て別のグループが「パープルギャング」を作って対抗し始めた。
1つの世界に入ってバトルし合って、それをTikTokに投稿し始めた。
さらに専用のTikTokページも作り始めて、何万人とフォロワーがつくページも多くなっている。各プロフィールページはDiscordサーバーへのURLが含まれている。
さらに3つ目のグループができた。防護服を着たプレーヤーはエイリアンを捕まえたいらしい。
しかもグリーンギャングとパープルギャングのボスたちがMTGして戦争を終わらせようとしたらしいが、結局ダメだったらしい。
最近だとトレンドに乗りたいTikTokerも入り始めている。
今はグリーンギャングが1400万人以上メンバーが揃って勝っているっぽい。
その次の流行が5月8日に生まれたStep Chickensである。
Step Chickensの始まり
コンセプトはセルフィーから始まった
Step Chickensの本当の始まりは、TikTokでStep Chickensカルトを始める前から実は動き始めていた。Step Chickensのコンセプトは2018年5月18日に実は始まった。今では有名になったStep Chickensアイコンであるメリッサさんのセルフィー画像を彼女は友達に送ったとき、その友達がその写真を使ってマグカップにしてメリッサさんを冗談半分でからかった。
Chickens(鶏)はどこから来たのか?
そしてそれから約1年半後の2019年10月。当時はメリッサさんはGoogleで働いていて、彼女が所属していたグループのハロウィーンパーティーでコスチュームコンテストを開催した。そこでメリッサさんは鶏のコスチュームをAmazonで買った。コンテスト自体は勝てなかった。
メリッサさんは2019年11月からTikTokを作り始めていた。TikTok上だとその鶏のコスチュームが最も相性がいいと思い、そこでいろいろな動画を出した。ただ、数カ月経ってもほとんどの動画はバズらなかった。
めげずに鶏のコスチュームでTikTok動画を作り続けたメリッサさんはある日、自分の宗教をフォロワーと一緒に作りたいと動画で発言。そしてある日、彼女のフォロワーからのコメントに「Step chicken, what are you doing?」という書き込みがあった。メリッサさんはそれをきっかけに、TikTokで鶏のコスチュームを着てエロ動画のパロディーをやったからついている。TikTok上では「CornHub」と呼んでいて、腹違いの兄と妹の話(英語で腹違いはStepと言うのでStep Chickens)。この動画のパンチラインが「Step chicken, what are you doing?」だった。ちなみにこの動画だけで110万再生回数もあるw
初期成長
フォロワーがつき始めてからメリッサさんは彼らに指示を出し始めた。最初はメリッサさんが投稿した動画に「E」の字だけでコメントしてくれと。
24時間以内で3万人がその指示に従った。
いろいろなことをフォロワーがやってくれると感じたメリッサさんは、別の知らない人をヤギの動画にタグ付けしようと指令を出した。もちろん選ばれた人とヤギの動画の持ち主はかなり混乱する。TikTokで動画が公開されたが、その前には7000人がコメントしてくれたらしい。これが成功したときにメリッサさんがフォロワーのことをカルトと呼び始めた。
そして次にいたずらしたのが友達のChris(クリス)さん。彼の直近の動画のコメント欄に「シュレック動画を出して!」と記載するように指示した。
そのいたずらの結果、2万人以上がコメントして、クリスさんが4つのシュレック動画を作ってくれた。さらにクリスさんは自分のプロフィール画像をシュレックに変えた。
このタイミングで全員これはただの遊びだけではないと感じた。正式なカルトになった瞬間だった。そこでカルトの名前が必要だった。名前を募集していると動画で発表し、その中から一番好きだった5つの名前を選び、それをファン投票で決めた。
結果としてはStep Chickensが圧倒的多数で選ばれた。Step Chickensとしての最初の指令は、プロフィール画像を変えることだった。そこで選んだのが2年前に撮ったセルフィーだった。
それ以外にFlex Tapeと呼ばれる、よくMeme(ミーム)化されていた水漏れをx一瞬で解決できる、テープのクリエイターであるフィル・スイフトさんのコメント欄を荒らす指示を出した。
フィル・スイフト紙の動画に数百人のStepchickenファンがコメントし始めた。コメントし始めてから48時間以内にフィルさんも自分のアバターをメリッサさんの顔へ変更。
メリッサさんのリアクションw
始めてから2週間以内で100万人以上のフォロワーが増えた。その中でもスポーツチームのHouston Rockets(ヒューストン・ロケッツ)、Tampa Bay Rays(タンパ・ベイ・レイズ)、Kansas City Chiefs(カンサス・シティ・シェフ)、そしてメディア企業のワシントン・ポスト紙、Adweekなどもプロフィール写真をメリッサさんの顔写真へ変更。
そしてStep Chickensは「Famous Birthdays」に追加された。ここに入ることは、どのインフルエンサーもマイルストーンとしてして念頭に置いているほどだ。
Step Chickensの拡大フェーズ
ここ数週間ではメリッサさんはStep Chickensを拡大している。まずStep Chickensの曲を作ったw。
そして次にグッズショップを作った。Tシャツ、スマホケース、マスク、ヨガパンツなど売り始めている。
日本語がおかしいところは気付いているのだろうか?w
次はYouTubeを乗っ取ることがメインプロジェクト、サイドプロジェクトとしてはInstagramを乗っ取ることらしい。
アプリ化
メリッサさんがコンテンツクリエイターになる前にはGoogleとYahooで勤務していた。YahooでSam Mueller(サム・ミューラー)さんと会った。サムさんはYahoo退職後にBlinkと言うSNSアプリを作った。彼によると「TikTokとDiscordを描き合わせたもの」とのこと。
Step Chickensファンはメリッサさんにお互い会える専用スペースが欲しいとお願いしてた。元々はDiscordサーバーを立ち上げるアイデアが出てたが、SamさんがBlinkをStep Chickensへリブランドすることを提案した。TikTokカルト用のアプリは過去にはなかったので、メリッサさんはかなり乗り気になった。
そしてメリッサさんはアプリについてTikTokでアナウンスして爆発的に伸び始めた。すぐに数十万ダウンロードされ、Blinkの4人チームとしてはサーバーを安定することとユーザー登録の受付が大変だった。アプリランキングはSNS部門で9位、全体アプリランキングで99位(Quibiを超えたw)にまで登った。
しかもその影響でメリッサさんのTikTokフォロワーが74.5万人から170万人と、2倍以上になった(今では180万人になっている)。
競合カルトの登場
最近だとStep Chickenを倒そうとするカルトグループも出てきている。150万人のフォロワーがいるAdrian Ortizさんは「Weenies」と言うカルトを作り、YouTube上で戦うことになった。
それ以外には、「Muder Hornets」「Griswolds」「Babbages」「Duck Sanctuary」「Flamingos」「Cardi Army」「Beardians」「Gary Vee’s Fam」「Jeff」などが最近立ち上がっている。
「Jeff」はいくつかのカルトが一緒になってより大きいカルトを作ったものらしい。
そしてその「Jeff」軍が早速Step Chickenとアライアンスを組んだw。
今だと50人ぐらいのTikTokkerがカルトを作っているとメリッサさんが語る。そして全員Step Chickenに認められて、カルト戦争に参加していることを発表してもらいたいらしい。それによって本当のカルトとしてTikTok上で認められるから。
今後のStep Chickens
メリッサさんは最近ではタレントマネージメント会社と提携、そして彼女のファンに向けて色んなプラットフォームでコンテンツを作りたいと言っている。彼女の夢は自分のコメディ番組をHBOもしくはNetflixで出すこと。
新しいインフルエンサー文化:ファン→カルト
Step Chickenファンの多くはこのようなカルトグループに入ることによって孤立感をなくしているらしい。このコロナの中だからこそ盛り上がる現象かもしれない。特に今までのTikTokスターのCharli D’Amelioなどがダンス動画で人気になったのと比較すると、だいぶ違うかたちでTikTokが使われているのがわかる。
今の若手層はSNSでインスタ映えや完璧なダンスをこなすTikTokkerを見ていて、かなり落ち込む人も多い。自分はそうなれないと思っている。実際にTikTokのダンスを学ぶのは大変。Step Chickensはその逆の発想で、TikTokにかなり合うものでもある。Meme文化から生まれているので、より個性や自分の変な部分をさらけ出せるプラットフォーム。過去の次世代SNSの記事でも説明したが、それがまさにTikTokのユーザー層のZ世代が求めているもの。
メリッサさんのファンは彼女の完璧じゃないけど前に出てくるところを尊敬して、自分たちのことを本当にStep Chickenと思っている。
結論
このStep Chickensの話はバカげたように見えるが、実は重要なことを表している。昔のセレブのファン層と比べて、今のインフルエンサーとフォロワーの間の親近感は完全に進化している。今ではインフルエンサーが一緒に戦争しようと言ったらファンがすぐについてくる。特にTikTokのようなマイクロエンタメアプリだと早いフィードバックループを活用してファンにいつでも新しいコンテンツを提供できるようになる。
実際にStep ChickensについてのNew York TimesやForbesの記事が出た数時間後にメリッサさんはTikTok上でフィードバックを流していた。
このように自分の話やジョークを軽くスマホで撮るだけでフォロワーと繋がれる状況となっている。このカルト文化は今後も続くと考えてもおかしくない。そしてメリッサさんは最も今の世代の理想のクリエイターと言えるかもしれない。
そして何よりも、この現象はTikTokで象徴的な今の流行の文化が拡散される。逆に言うと、これに乗らないブランドはこの時にはTikTok上での動画再生回数は落ちる可能性がある。TikTokで必要なのは、この流行を瞬時に理解し、自分のブランドと合えばそれに乗っかって上手く参加すること。そしてこのMeme文化を理解するのはZ世代世代に近づくことでもある。99%の今のZ世代カルトリーダーたちはMemeのエキスパート。StepchickensクリエイターのMelissa Ongさんは10年間MemeをRedditとInstagramなどで研究していた。これだけ強いコミュニティ作りを出来るのはインフルエンサーだけではなく、ブランドもできるはず。
Z世代世代はコミュニティにみんな入りたがっていて、その中でも積極的に参加してくれる。このチャンスを今活かせるブランドやインフルエンサーがこれから成長していくだろう。
今後のコミュニティ作り、マーケティングトレンド、Z世代の理解、そしてミーム文化を理解するためにも、カルト戦争を皆さんも追ってみてはいかがだろう?