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軽量ホイールが効く!新兵器の導入でマツダ「ロードスター」の乗り味がより濃密に

デビュー以来、改良の手を緩めることなく、毎年進化を繰り返しているマツダ「ロードスター」。先の商品改良では、エンジンなどのスペックアップを伴うプログラムこそなかったが、実際に乗れば違いを体験できる乗り味向上のための奥深い改良メニューが用意されていた。

それが、オプションパーツとして用意された16インチの鍛造ホイール。果たして新兵器を装備したロードスターの走りは、どのように変化するのだろうか?

■レーシングカー用のホイールを市販車向けにアレンジ

先の商品改良で、マツダのロードスターに新たな魅力が加わった。ソフトトップ仕様において、レイズ(RAYS)と共同開発した16インチの鍛造アルミホイールを選択できるようになったのだ。

1本当たり約800g軽く、1台分で約3.2kgの軽量化につながるというこのホイールは、「Sスペシャルパッケージ」、「Sレザーパッケージ」の各MT車と、「S」、「RS」にメーカーオプションとして設定。中でも、SレザーパッケージのMT車とRSでは、優れたコントロール性に定評のあるブレンボ製フロントブレーキとのセットオプションとなる。

今回試乗したのは、スノーフレイクホワイトパールマイカをまとったRSで、レイズのホイールとブレンボのフロントブレーキがセットオプションとして装着された仕様だった(レイズ製ホイールとブレンボ製フロントブレーキのセットオプション価格は33万円/1台)。

新たに採用されたレイズのホイールは、機能優先であることがひと目で分かるシンプルな10本スポーク形状を採用していて、いかにもサーキットが似合いそうなデザインだ。それもそのはず、この鍛造1ピースホイールは、ロードスターを使ったワンメイクレース「グローバルMX-5カップ」のために開発された競技車両が履くホイール(17インチ)が起源。

MX-5カップカー

また、2019年にロードスターのアニバーサリーを記念した「誕生30周年記念車」が発売されたが、その足下にも10本スポークのレイズ製鍛造アルミホイール(ソフトトップは16インチ、「ロードスターRF」は17インチ)が装着されていた。30周年記念車のホイールは「RAYS ZE40 RS30」という名称だったが、今回のホイールは「RAYS ZE40 RS」の名が与えられていることからも、その関係性は明白だ。

ロードスター/ロードスターRF 30周年記念車

ちなみに、ZE40とはレイズが手掛ける市販ホイールであり、市販バージョンは元々、新世代のスポーツホイールを目指して開発された。ロードスター30周年記念車のそれや新しいオプション用は、そんなZE40をベースにマツダとレイズが共同開発を行ったものだ。

レイズといえば、「TE37」という名作スポーツホイールで有名なブランドだ。骨太な6本スポーク形状が特徴のTE37が走りを意識したユーザーの御用達になって久しい。TE37を履くクルマを見ただけで「あ、このオーナーは走り指向の人なんだ」と即座に分かってしまうほど、確固としたイメージが定着している。今回オプション設定されたZE40は、そんなTE37のスピリットを受け継ぐホイールなのだ。

■ル・マン優勝車の足下も支えたレイズのホイール

787B

市販車の場合、ホイールはファッションアイテムとしての側面が大きいが、当然のことながら、走行性能の面においても重要な役割を担っている。特に、パフォーマンスを突き詰めれば突き詰めるほど、その重要性は増してくる。速さが何より優先されるモータースポーツの世界ではなおさらだ。特に、車両運動性能の観点で重要となるのは軽さ。バネにぶら下げた重りは軽ければ軽いほど機敏に動くが、それと同じ道理だ。

軽さと同様に重要なのが、ホイールの剛性だ。サーキットでコーナリングする際は、街中の交差点を曲がるのとは比べものにならないほど、旋回するクルマの外側のタイヤに大きな荷重が掛かる。荷重を受けてゴムでできたタイヤが変形するのは容易に想像できるが、実はこの時、タイヤと一体になったホイールにも大きな荷重が加わり、ねじれるように変形しようとしている。そのため一流のレーシングドライバーたちは、ホイールの仕様を変えただけで車両の挙動からその違いを感じ取り、オーケーの評価を出したり、ダメ出しをしたりする。それくらい走りにとってホイールの剛性は重要なのだ。

また、ブレーキの冷却や空力特性の面でも、ホイールは重要な役割を担っている。ディスク面の形状いかんでブレーキの冷却性能が良くなったり悪くなったりと変化するし、空力性能も向上したり悪化したりする。

つまりホイールは、モータースポーツなど走りのパフォーマンスに対する要求レベルが高くなればなるほど、これら複数の要素を高次元でバランスさせる必要がある。軽量化を重視したために剛性が低下した、なんて言い訳は許されないのである。

その点レイズは、長年に渡るモータースポーツへの関与を通じ、そうした厳しい環境を熟知するホイールメーカーだ。伝統のル・マン24時間耐久レースにおいて、2018年、2019年と連覇を果たしたトヨタのマシン「TS050ハイブリッド」の足元を支えたのはレイズのホイールだったし、時代をさかのぼれば、そもそも1991年に日本車で初めて同レースを制したマツダ「787B」が履いていたのも、まさにレイズのホイールだった。そうした点を踏まえれば、今回、ロードスターの乗り味向上のために、マツダがレイズのホイールを選択したのは、まさに“正統”な手段だったのだ。

ロードスターに新設定されたホイールについては、軽量化に的を絞った情報しか聞こえてこないが、モータースポーツの世界で百戦錬磨のレイズ製だけに、背反要素である剛性に関しても執拗なまでに検討・検証が重ねられたものであろうことは疑いの余地がない。モータースポーツの厳しさを知れば知るほど、手を抜くことはできないからだ。

■その乗り味はベスト・オブ・ロードスターと呼べる出来栄え

そうしたバックボーンを持つRAYS ZE40 RSとロードスターとの組み合わせは、お見事のひと言に尽きる。

あまりにアグレッシブなデザインだとホイールだけが頑張っているように見えてしまうが、細身のスポークを採用しているため、ボディのボリュームが小さいロードスターに装着しても、主張が強すぎない。それでいて、オーナーにも周囲にも走りを意識させるだけの存在感を放っている。また、ダークガンメタリックに塗られたRAYS ZE40 RSのスポークからのぞく、赤いブレンボ製ブレーキキャリパーとのコントラストも目に鮮やかだ。

試乗車はビルシュタイン製ダンパーを装着したRSグレードだったこともあり「正直、乗り心地は硬いんだろうな」と覚悟していた。フラットなサーキット路面に合わせたセッティングで、「ラフな一般道ではヒョコヒョコ跳ね、胃に響くようなショックがあるかもしれない」と。

ところが、レイズのホイールとブレンボ製フロントブレーキを装着したロードスターRSは、予想に反してしなやかな乗り味だった。個人的には“ベスト・オブ・ロードスター”の組み合わせである。レイズ製ホイールの採用で軽くなったバネ下(タイヤ&ホイール)が路面の形状変化にしっかり反応して追従し、「もう止めた」と諦めず、粘るようにして走っていく印象。間違っても、ヒョコヒョコ、バタバタと落ち着きなく跳ねるような動きは見せない。

こうした粘りのあるしなやかな動きは、いたずらにホイールを大径化することなく、純正ホイールと同等のタイヤハイトをキープできる16インチというサイズにこだわった開発陣の慧眼による賜物でもある。レイズのホイールやブレンボ製フロントブレーキがフォーカスしているステージは、決してサーキットだけではないのだ。

今回試乗したロードスターは、オーディオに例えるなら特定の音域に絞ってチューニングしたのではなく、ダイナミックレンジを広げる方向でチューニングしたものといえる。そのダイナミックレンジ拡大をサポートするのが新しいレイズ製ホイールであり、同時にこのアイテムは、性能を視覚的に訴える役割も担っている。どちらにおいてもその効果は絶大だ。

<SPECIFICATIONS>
☆RS
ボディサイズ:L3915×W1735×H1235mm
車重:1020kg
駆動方式:FR
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:132馬力/7000回転
最大トルク:15.5kgf-m/4500回転
価格:333万4100円
※価格にオプションは含まない

文/世良耕太

世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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