Appleは2015年末、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の開発に特化した「Technology Development Group(通称:TDG)」という新たなチームを形成し、2つのARヘッドセットの開発を行ってきましたが、2018年に当時Appleで最高デザイン責任者を務めていたジョナサン・アイブ氏が同チームの開発方針に異論を唱えたことで、ARグラスの形状が現在開発中の軽量型のタイプに定まっていったことが明らかになりました。
開発されていた2つのARヘッドセット
Appleの内部事情に詳しいBloombergのマーク・ガーマン氏は、AppleのARヘッドセットは当初2種類開発されていたものの、アイブ氏の提言によりAppleグラス/メガネと巷で呼ばれる軽量タイプのみの開発に切り替えられた、とApple社内の開発秘話を語っています。
2015年に作られたVR/ARに特化したAppleの開発チームTDGは、社外には存在が公にされていない秘密ユニットとして知られており、メディアに取り上げられることがほとんどない役員のマーク・ロックウェル氏により率いられています。
Dolby LaboratoriesやAvid Technologyで務めたロックウェル氏は、1,000人の選りすぐりのエンジニアを引き連れ、コードネーム「N301」と「N421」の元、2つのARヘッドセットの開発を行ってきました。
N301は、VRとARの両方に対応したゲーム向けのヘッドセットで、N421は軽量のARのみ使用可能のメガネ型のデバイスです。
N301は、非常にパワフルなシステムで、グラフィック機能と処理速度はウェアラブル製品としては異例の高さを誇っていたとされていますが、あまりに強力すぎたため、発熱の問題があり、ヘッドセットから切り離した小さいMacのようなハブデバイスから無線シグナルを送受信する必要がありました。しかしながら、出力を抑えたインデペンデントモードでは、ハブデバイスなしでの独立動作も可能でした。
アイブ氏がパワフルなヘッドセットに異論
N301のハブデバイスをベースにしたヘッドセットに異論を唱えたのは、当時Appleの最高デザイン責任者を務めていたアイブ氏です。同氏は、フルに機能を発揮するのにヘッドセットから切り離されたハブデバイスが必要というのでは話にならない、と軽量タイプのN421の開発を薦めましたが、ロックウェル氏は、ワイヤレスなハブと同期して動作するN301ヘッドセットは、市場に出ているどのデバイスよりもパフォーマンス面で上回るとして、アイブ氏の意見を跳ね除けました。
ロックウェル氏は、Apple社内でも非常に尊敬されており、ソフトウェア開発のクレイグ・フェデリギ氏や、チップ開発部門のジョニー・スルージ氏の支持を集めています。Appleは年間150億ドル(約1兆6,030億円)もの資金を研究開発に投じることで知られています。
両者の対立は数カ月間にわたって続きましたが、最終的にアイブ氏とロックウェル氏との間に入ったのはAppleの最高経営責任者(CEO)ティム・クック氏でした。クックCEOはアイブ氏の肩を持ったため、TDGは軽量タイプのARグラス/メガネの開発に集中することが決まりました。
しかしながら、パワフルなN301ヘッドセットの開発過程で得られたものもあります。Appleが世界開発者会議WWDC 2020で発表するとの噂の次期Macには、ARヘッドセットプロジェクトに端を発するARMベースの省電力かつパワフルなプロセッサが搭載されるといわれています。
Appleグラスは決してローテクではない
Appleが現在開発中のAppleグラスは、非常にパワフルなN301とは一線を画しますが、超高解像度スクリーンが採用される見通しで、バーチャルの物体と現実世界の物体の見分けがつかないようになるともいわれています。また、シネマティックなスピーカーシステムにより没入感の高い体験が可能になる、とプロトタイプを使用した人物は語っています。
Appleグラスは、早ければ今年にも発表され、来年発売されるとの見方もあります。Bloombergのガーマン氏は、デバイスのリリースは2022年で、実際に人々の手に届き始めるのは2023年、との推測です。
Source:Bloomberg
Photo:iConcept Phones – Hasan Kaymak/YouTube
(lexi)
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- Source:iPhone Mania
- Author:iPhone Mania