ケッチやジスペケ、ペケジェーと聞いてピンと来る人は昔からのバイク好きでしょう。それぞれ「KH」「GSX」「XJ」を意味します。すべてバイクの車名。今の若い人たちがこんな呼び方をしているのかはわかりませんが、アルファベットと数字の組み合わせが多いバイクの車名をこんな略称(?)で呼ぶことが流行った時代がありました。中には地域差なのか同じ車種でも異なる呼び名があるものも。メーカーごとにそれぞれ振り返ってみましょう。
■ケッチやゼッツーなど種類が豊富なカワサキ
冒頭で紹介したケッチこと「KH」は、1976年に登場した2ストの3気筒エンジンを搭載したシリーズ。「KH400」と「KH250」が主なラインナップです。特徴的な3気筒エンジンは、「マッハ」シリーズから受け継いだもので、“ジャジャ馬”というイメージがありますが、「KH」になってだいぶ低回転の扱いやすさが増していたようです。ちなみに「マッハ」シリーズには「500SSマッハⅢ」、「750SSマッハⅣ」「350SSマッハⅡ」「250SSマッハⅠ」というラインナップがありますが、500SSは「H1(エイチワン)」、750SSは「H2(エイチツー)」というように型式で呼ぶのがバイク乗りの間では一般的でした。現行モデルの「Ninja H2」の車名もここに由来します。
ゼッツー=「Z2」といえば、カワサキの歴史に残る名車。1973年に発売された際の正式名称は「750RS」、1975年モデルからは「Z750Four」となります。「Z2」は型式名称で、それが愛称になったかたちですね。呼び方には地域差があったようで、ゼッツーというのは関東でのもの。関西では車名の末尾を取ってアールエスと呼ばれていたようです。
カワサキの歴史を刻んできたモデルとしては「W」シリーズも忘れることはできません。1966年に登場した「650-W1」はダブワン、その後継モデルである「650RS-W3」はダブスリー(あるいはダブサン)の愛称で親しまれました。シリンダーが直立した並列2気筒(バーチカル・ツイン)エンジンが特徴で、1999年にはこのエンジン型式を現代の技術で復刻した「W650」が発売されます。このモデルはダブロクと呼ばれ、その後継モデルで排気量アップした「W800」はダブハチと呼ばれるのが一般的です。
「W800」は2016年に排出ガス規制のために生産が終了しますが、2019年には新型となって復活。現在も新車で購入することができます。
そのほか、カワサキ車の愛称というと、1981年にエディ・ローソンがAMAスーパーバイクシリーズのチャンピオンとなったことで翌年に発売された「Z1000R」がローレプ(ローソン・レプリカの略)と呼ばれていたことも思い起こされます。また、1100ccから250ccまで揃っていた「ZZR」シリーズはゼットゼットアールが正式な読み方ですが、地域や世代によってダブルゼットアール、ズィーズィーアール、ダブルズィーアールなど多くの呼び方が存在しました。
■ジスペケのインパクトが大きいスズキ
冒頭で紹介したようにジスペケとは「GSX」の意味。「X」をペケと呼ぶのがなぜか流行ったんですよね。その流れで「GSX-R」はジスペケアールです。このシリーズは1100、750、400、250と排気量のラインナップが豊富でしたが、印象に残っているのは排気量の数字がなかった400の初期型でしょうか。シリーズ自体は現在も販売されていますが、この呼び方をされることは少なくなっているような気がします。
ちなみに海外ではジクサーと呼ばれていて、これは現在「ジクサー250/150/SF250」の正式なモデル名になっています。
サンパチと聞いて、すぐに「あの2スト3気筒の」と思い浮かぶのは旧車好きな人でしょう。正式名称は「GT380」。1972年に発売されたモデルで、先行する2気筒の「GT250」のエンジンに1気筒分付け足すという今では考えられないような生まれ方をした車種です。3気筒なのに、なぜか4本出しのマフラーというのもこの車種くらいでしょう。
ガンマといえば、レーサーレプリカの「RG250Γ」あるいはV型エンジンになった「RGV250Γ」のことですが、このシリーズにはワークスマシンと同じスクエアフォー(4気筒が真四角に並んだ形状)エンジンの「RG400Γ」と「RG500Γ」というマシンも存在しました。呼び名はそれぞれヨンガンとゴガン。2ストの4気筒で400ccと500ccですから文字通りのモンスターです。「RG500Γ」の最高出力は日本仕様で64ps、輸出仕様は95psにも達していました。
■サンマがわかる人はヤマハマニア
ペケジェー(あるいはペケジェイ)は「X」をペケと呼ぶ流れから「XJ400」のこと。ヤマハ初の400ccDOHC4気筒エンジンを搭載し、1980年に発売されました。その後、1984年にはエンジンが水冷化された「XJ400Z」に進化しますが、1993年には再び空冷エンジンを搭載した「XJR400」が登場するという不思議な来歴を持っています。ちなみに「XJR400」はペケジェーアールとも呼ばれましたが、ペケジェーと呼び続ける人のほうが多かった印象があります。
2ストを得意とするヤマハの歴史的名車といえば「RZ250」。このモデルには排気量が350ccの兄貴分「RZ350」も存在しました。“ナナハンキラー”とも呼ばれるほどの速さを誇ったこのモデル、250と区別するためサンパンと呼ばれていました。排気量を表しただけの呼び名ですが、サンパンといえばRZを意味してしまうのは、このマシンのインパクトの大きさゆえでしょう。
サンマと言われてモデル名がわかる人はかなりのマニア。これ、ユニークな“後方排気”レイアウトを採用した1989〜1990年式「TZR250」のことなんです。由来は同モデルの3MAという型式名称。毎年のようにモデルチェンジされることもあって、モデル名より型式で呼ぶことが流行ったレプリカブームがあったからこその愛称といえます。
■ホンダの愛称といえばやっぱりヨンフォア
ホンダで真っ先に思い浮かぶのはヨンフォアこと「CB400FOUR」(正式名称はDREAM CB400FOUR)でしょう。400ccで4気筒であることを表すわかりやすい呼称。1974年に408ccの排気量で発売されますが、1975年から排気量400cc以下の中型免許制度が始まったため、その後398ccモデルが追加されたのは有名な話です。ちなみに先代モデルである「CB350FOUR」にヨンフォアの外装を付けたカスタムはバケヨンなんて呼ばれ方をすることもありました。
スーフォアと呼ばれたのは「CB400 SUPER FOUR」。1992年に初代モデルが発売され、1999年にはHYPER VTEC(低回転では2バルブ、高回転では4バルブとなる機構)を搭載したエンジンに進化。現在もラインナップされているロングセラーモデルです。教習車にも採用されているので、乗ったことがある人も多いはず。
ホンダのレーサーレプリカの中で、羨望の意味も込められた略称で呼ばれたのはCBRシリーズの中でも「RR」が付くモデル。「CBR250RR」はニダボ、「CBR400RR」はヨンダボ、「CBR1000RR」はセンダボと呼ばれました。ただ、この呼称はレプリカブームの真っ最中ではなく、もう少し後になってから一般的になったような印象があります。レプリカブームの頃はMC22など、型式で呼ぶことのほうが多かったのと、「CBR1000RR」が発売されたのは2004年になってからだからです。ちなみにCBRシリーズの最新モデルは発売されたばかりの「CBR1000RR-R」。「R」がさらに1つ増えていますが、このマシンは何と呼ばれるようになるのでしょうか?
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バイクの略称は、同じ車種でも地域や時代によってさまざまです。今回取り上げたものは、名車を中心に有名だった略称の一部になります。自分の住んでいた地域ではこんな呼び方をしていた、仲間内ではこう呼んでいた、みたいなものが誰しもあるのではないでしょうか。車名にアルファベットと数字の組み合わせが多いバイクだからこその文化なのかもしれませんね。
文/増谷茂樹
- Original:https://www.goodspress.jp/features/302467/
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