●What’s ビザールウォッチ?
<今月の時計>
Vol.18
ROGER DUBUIS
エクスカリバー ディアボルス イン マッキナ
不協和音を奏でるミニッツリピーター
ビザールウォッチの面白いところは、技術と才能の無駄使いにある。天才時計師たちが開発した卓越した技術をそのまま素直に発揮すれば、だれもが驚く知的で複雑な時計ができるし、デザイナーの美的センスをそのまま表現すれば、誰の心にも響く美しい時計ができるだろう。しかしなぜか横道にそれ、ビザールウォッチへと向かってしまうブランドが後を絶たない。ビザールな悪魔の囁きに心を揺さぶられ、道を誤ってしまうのだ。
2020年の新作としてロジェ・デュブイが発表した「エクスカリバー ディアボルス イン マッキナ」も、そんな時計だ。この時計に採用されているのは、時計機構の中で最も格上とされる「ミニッツリピーター」。これは街灯がなかった懐中時計の時代に考案されたもので、ケースサイドの操作すると、時分針が示している現在時刻を音で教えてくれるというもの。時計内にはゼンマイ仕掛けで動くハンマーと音を奏でるゴングが収められており、ハンマーがゴングを叩いて発する音を、ケースや反響板で大きく増幅させて響かせる。
ミニッツリピーターのゴングとハンマーの組み合わせは二対が基本。まずはアワー(時)が低音で鳴り、そのあとが15分刻みのクオーターが低音と高音を組み合わせて鳴り、最後に15分に満たないミニッツ(分)が高音で鳴る。現在時刻が3時17分の場合は、コンコンコン(3時)、コンキン(15分)、キンキン(+2分)ということである。どのメーカーも美しい音を響かせるために、ケースの構造や素材、ゴングの長さや形などを研究し、社内に録音スタジオを作ってまで理想の音を追求する。それはもはや、人の手と耳で作り上げる機械仕掛けの楽器のようなものである。
ところが「エクスカリバー ディアボルス イン マッキナ」は、これまでのミニッツリピーターの常識を覆してしまった。ゴングやハンマーを使うという機構自体は変わらず、伝統に沿って丁寧に美しく作られている。問題なのは、奏でるその“音”。モデル名である「Diabolus in Machina(機械に潜む悪魔)」が示すように、ゴングの音階に“悪魔の音”と称される三全音(トライトーン)を使用。人をどこか不安にさせる不協和音によって、神秘的かつ悪魔的に時間を告げるというビザールウォッチなのだ。
しかしながら、美しい音を探求してきたミニッツリピーターの常識を根底から覆してしまったロジェ・デュブイとはいかなるブランドなのか?
創業は1995年なので、スイス時計業界的には新興勢力。しかし卓越した技術を武器に、いくつもの複雑機構を開発してきた技巧派である。しかしモダンな星形スケルトンムーブメントやダブルフライングトゥールビヨンなど、その技術の表現方法はいつだって独創的。技巧派でありながら、老舗ブランドのような正統派の時計をあえて作らないという、ビザール精神にあふれるブランド。ゆえに懐中時計の時代から続く伝統的な機構であるミニッツリピーターであっても、「もっと風変わりなことをやろうぜ」という悪魔の囁きに抗うことはできなかったのだ。
なお、この「エクスカリバー ディアボルス イン マッキナ」は、1本のみ製作されるユニークピース。悪魔のいけにえとなる幸運な時計愛好家は、果たして誰になるのだろうか?
ROGER DUBUIS
エクスカリバー ディアボルス イン マッキナ
自動巻き、Micro-Melt BioDur CCMTMケース、ケース径45㎜。世界限定1本。61,700,000円(予価)
問ロジェ・デュブイ ☎03-4461-8040
https://www.rogerdubuis.com/ja
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★★★5
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★4
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000125975/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生