編集部注:本稿を執筆したBrandon Byrne(ブランドン・バーン)氏は、コンテンツクリエイター、チーム、スポンサーをプログラム上で結び、拡張するテクノロジープラットフォーム、Opera Event(オペライベント)のCEO兼共同設立者である。Team Liquid(チームリキッド)のCFOと、Curse(カース)の財務担当VPを歴任している。
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先日、ゲームウェブサイトPocket Gamer(ポケットゲーマー)で、eスポーツとオリンピックについて話し合うパネルディスカッションに出席した。新型コロナウイルス感染症の世界的大流行によって中止されているオリンピックを含む、スポーツイベントの穴をeスポーツが埋めることはできるかという点が議題に上った。
多くのeスポーツに関するパネルディスカッションと同様に、その議論は興味深い会話から始まった。いつもと異なっていたのは、会話のきっかけが典型的な「eスポーツは従来のスポーツにいつ追いつくのか」という質問ではなく、「eスポーツはオリンピック種目として選ばれるほど主流な競技になれるか」という質問であったことだ。質問の内容は少し異なるが、心情は同じだ。オリンピックはテレビ放映されるスポーツの看板イベントであり、eスポーツ企業もその輪に仲間入りすることを望んでいる。
実のところ、米国におけるオリンピックの視聴率は長期間にわたって比較的安定して下がり続けている。唯一、視聴率トップ5を記録したオリンピックは1992年のソルトレイクシティ冬季大会にまでさかのぼる。そして、高視聴率を得たのは米国で開催されたためであると推測される。近年は全体的に視聴者数が減少し続けており、オリンピックにはかつてのような威厳はもはやない。
また、広告主からすると、オリンピックのオーディエンスは徐々に価値が下がり続けている。視聴者の平均年齢が急速に上昇していることがその理由であり、この傾向は従来からあるスポーツほぼ全般に見られる。
従来からあるスポーツの大半はeスポーツよりも視聴者の平均年齢が高いと聞いても驚く人はいないだろう。しかし、実際のデータは驚異的だ。過去10年ほどの間で、視聴者の平均年齢が下がったプロスポーツは1種目(女子テニス)のみである。しかし、年齢が下がったとはいえ、女子テニスの大会を自宅から観戦する人の平均年齢は55歳なのだ。
eスポーツ視聴者の平均年齢は26歳前後である。これをマーケターの視点から考えてみて欲しい。従来のスポーツは、若い視聴者が圧倒的に少ないのだ。
それで、若者はどこへ?
若者がスポーツを観戦しない傾向が加速している原因は、単にミレニアル世代やZ世代の関心が薄れているからだけではない。アクセスのしやすさも問題になっている。
国際オリンピック委員会(IOC)は近年、ほとんどの若者がコンテンツを視聴する方法であるストリーミングでオリンピックを放送するよう決断した。だが、オンラインで30分以上視聴を続けるためには、ケーブルテレビ会社のアカウントからログインする必要があった。そして、多くのミレニアル世代はケーブルテレビを契約していないのだ。
それに加えて、IOCはイベントを報道するメディアに対しGIFの使用を「禁止」するというばかげた決断を下した。この決断は、これまでにあらゆる運営団体が取り組もうとしたことの中でも、最も愚かなことの1つだと言っていいだろう。まず、そんなものがうまくいくはずがない。そしてより端的に言えば、IOCが過去20年間にわたるメディアの進化について、いかに実態を把握できていないかを物語っている。
しかしバレーボールや棒高跳びの権利を所有する企業が存在しないオリンピックとは違い、eスポーツ企業はどの企業も、ゲーム自体に関連するIPを所有している。つまり、試合、プログラム、ライセンス権利などの代表権について意思決定を行う際、これまではIOCが自由裁量権を享受してきたが、eスポーツの場合にはそうはいかないということを意味する。
最後に、IOCが「暴力的な」ゲームをオリンピック種目に追加することに難色を示しているという点も注目に値する。IOCにとっては、今あるスポーツの仮想競技版が好ましいだろう。だが、eスポーツを少しでも知っている者ならば、eスポーツがそのように機能しないことは分かっている。良いゲームでなければeスポーツのロイヤルティには昇格できない。誰もプレイしないゲームを見たいと思う者はいないだろう。
次に、視聴体験はわかりやすいものでなければならない。World of Warcraft Arena(ワールド・オブ・ウォークラフト・アリーナ)は多くのプレーヤーを魅了するゲームだが、このゲームに詳しくない場合は、画面上のアクションを解説する神がかった実況者がいなければ、何が起きているのかを把握するのはほぼ不可能だ。陸上競技をeスポーツにしても、視聴者がそれを見たがることは期待できない。
IOCの解決策
IOCはこの数年の間、「若者」のスポーツを採用することによって若者の視聴者数が低下する傾向を食い止めようとしている。ここ数年でオリンピック種目に選ばれたのは次の5種目だ。
- スポーツクライミング
- サーフィン
- スケートボード
- 空手
- 野球/ソフトボール
野球/ソフトボールはさておき、スポーツクライミング競技がFortnite(フォートナイト)やLeague of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)に匹敵するほど若者からの関心を引き出せると考えているのであれば、世の中の動向を把握していないにも程があるのではないだろうか。率直に言って、「若者を呼び戻す」方法を見つけようとしている老人が考えそうなことに思える。
IOCの名誉のために言っておけば、eスポーツの専門家やゲームパブリッシャーとのパネルディスカッションや会議を設け始めている。だが、こうした話し合いから得られる契約はこれまでIOCが得ていたものとは大幅に異なるものになるだろう。私には、先はまだ長いように思える。
先に述べたパネルディスカッションで、私は、eスポーツがオリンピックを必要とするよりももっと、オリンピックはeスポーツを必要としていると主張した。メディア企業は、いつまでも従来のスポーツの放映権に過剰な金額を支払い続けるわけではない。ある時点で視聴者の中に広告のターゲット層に当てはまるグループがいないことに気付き、去っていくだろう。
eスポーツがオリンピックから唯一学べることは、オーディエンスをマネタイズする優れた方法だ。オリンピックはその点に長けているが、eスポーツは現状、不得手としている。Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)によるオーディエンスの規模とそのオーディエンスに基づくマネタイズを示すレポートでは、より世間に認知された同規模のスポーツリーグに比べて、eスポーツはマネタイズにおける指数が大幅に下回っていることを示している。eスポーツは、マネタイズの観点からは未熟であることは明らかだ。このチャートにはオリンピックが含まれていないが、オリンピックの指数はMLBのように、昨今の実態というよりも評判を売り物にして、eスポーツの指数をはるかに上回る結果になるだろう。
だが、IOCは行動を急ぐべきだ。eスポーツが優れたマネタイズ手法を理解するまでそう長い時間はかからない。そうなれば、メディアに強い影響力を持つeスポーツに、オリンピックが提供できるものはなくなる。
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カテゴリー:ゲーム / eSports
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(翻訳:Dragonfly)