Tim O’Reilly(ティム・オライリー)氏には、投資家が投資額の何倍ものリターンを期待して初期段階のスタートアップに賭けるような従来型のVCモデルにダメ出しをするビジネス上の動機がある。アーリーステージのスタートアップに特化したVCであるO’Reilly AlphaTech Ventures(オライリー・アルファテック・ベンチャーズ、OATV)で長年にわたりオライリー氏の投資パートナーとして活動しているBryce Roberts(ブライス・ロバーツ)氏が今、OATVの投資先を選ぶ際にいわゆるハイリスクの企業を避け、すでに収益を上げているが必ずしもブリッツスケール(極めて短期間での爆発的な規模拡大)を目指してはいない会社を米国全土から探し出して投資する方向に意識的に舵を切っているのだ。
しかし、TechCrunchが先週実施したインタビューの中でオライリー氏が語った、純粋に持続可能なビジネスを築こうとする創業者が増える中でベンチャーキャピタルが今のまま投資を続ける意義が薄れ始めている理由は、非常に説得力があるものだった。オライリー氏によると、今のベンチャー業界は、いつか世界を変える可能性を秘めた中小企業を発掘することよりも、富裕層が資産を運用して増やすための金融商品のような感覚で投資を行うことに力を注ぐようになっており、この変化が実際に悪影響を及ぼし始めているという。
今回のインタビューの中から、新規でVC資金調達あるいは追加調達を検討している読者や、VCから出資を断られて綱渡りをするような危機を経験したことがある読者にとって興味深いと思われる部分を以下に抜粋してみた。いずれにしても、42年前に自身もO’Reilly Media(オライリー・メディア)を立ち上げ、今や年間収益が数億ドル規模の企業になるまで成長させた実績を持つオライリー氏の言葉は大いに参考になると思う。
TechCrunch:今年は多くの企業がジューンティーンス(奴隷解放日)を祝いました。これは大きな出来事です。これまでベンチャー業界におけるインクルージョンの推進について多くの議論がなされてきました。実際には、ベンチャー業界のインクルージョンはどの程度まで進んでいる(あるいは進んでいない)のでしょうか。
ティム・オライリー氏:VC、さらにはテック業界全体について言えるのは、この構造的な人種差別の概念は本当に問題だということです。人は「自分は良い価値観を持っているし、悪いことをしたいとも思わない。慈善団体に寄付もしている」、だからそれで十分だと思っていて、問題の根源となっているシステムを修正しようとはしません。
VCが起業家たちを探し出してくるネットワークは今も昔もあまり変わっていません。さらに重要なのは、VCモデルの目標も変わっていないという点です。VC業界には目標があり、それはある特定の財務状態の形をとるのですが、これが本質的に排他的なのです。
なぜそう言えるのですか。
典型的なVCモデルでは、大きく成長する可能性とイグジットできる見込みのある企業を探します。IPOや買収から得られる巨額の財務リターンを求めているからです。すると、創業者は特定のタイプに限定されてしまうのです。私の投資パートナーのブライスは前々回のファンドから、キャッシュフローと収益を確保して持続可能なビジネスを構築しようとするライフスタイル系企業のような、過小評価されている企業を探すことにしたようです。そのような中小企業も、それを創業する起業家も米国から消えてしまいました。VC業界がベンチャー投資を富裕層向けの金融商品のように扱ってきたことがその一因です。
ブライスはある種の「SAFE(将来株式取得略式契約)」を考案しました。ベンチャー企業が十分に収益を上げられるようになったら、創業者は事前に同意された額でそのベンチャー企業をバイアウト(企業売却)できるというものです。ただし、同時に他のオプションも用意されています。一部の創業者はロケットのように電撃的な大成功を収めることがあるからです。しかしこれは、創業者がひたすら走り続けたあげくに使い捨てにされるという意味ではありません。
「持続可能な事業を行う企業を探す」と言って米国全土を探し回ったブライスは最終的に、半分以上が女性創業者、30%が有色人種創業者というポートフォリオを構築することができ、これが素晴らしい投資戦略となってきました。
それは、シリコンバレーの典型的な高度成長VCモデルに該当する企業を経営することはアフリカ系アメリカ人や女性には不可能だ、ということではないですよね。
もちろん、そんなことはありません。そうした人たちも高度成長VCモデルに該当する企業を経営することは可能です。ただ、シリコンバレーの外に目を向けると、本当に大きな人材プールが存在していることに気づきます。シリコンバレーにはある種のブロカルチャー(体育会系的男性優位主義)があり、その文化に馴染めないと(何かしら解決策が見つかる場合もあるとはいえ)、いろいろな障害にぶつかることになります。これが構造的な人種差別です。
先ほどおっしゃった、ネットワークが閉鎖的であるという点についてですが、有名な黒人ベンチャー投資家のCharles Hudson(チャールズ・ハドソン)氏が、従来型VCの多くは日常生活やビジネスライフの中で黒人と付き合いがなく、そのことが投資先の企業を発掘する際に障害となっていると指摘しています。ブライス氏はそうした付き合いに必要な人脈をどのようにして築いたのでしょうか。従来型のVCも今、ブライス氏のように人脈を広げる方法を探っているようですね。
シリコンバレーの地理的な孤立主義を壊すことです。「この特定のプロフィールに一致する企業だけが投資に値する」というシリコンバレービジネスモデルの孤立主義を壊すのです。ブライスはシリコンバレーを出て「有色人種の起業家を探しているんだが」などと言ったわけではありません。そうではなく「米国内のさまざまな場所でさまざまな種類の投資がしたい」と言ったのです。そうしたら、米国が持つ多様性を反映する起業家たちが自然に見つかりました。
われわれが考えなければならないのはその点です。「この壊れたシリコンバレーのビジネスモデルの中に黒人やブラウン人種の創業者を入り込ませるにはどうすればよいのか」ではなく、「彼らのコミュニティでビジネスを成長させるにはどのような機会を提供することが有益なのか、どうすればそれを把握できるのか」ということを考える必要があるのです。
リミテッドパートナー(LP)はこのようなモデルに興味を示していますか。このモデルにはLPの出資に見合う成長を遂げる可能性があるのでしょうか。
この新しいモデルに注力した4号ファンドでは少し苦戦しました。3号ファンドの3分の1の資金しか調達できませんでした。しかし5号ファンドでは、資金調達は大成功すると思います。このモデルの価値が証明されたので投資希望者が殺到しています。
実名は挙げませんが、このポートフォリオには同業種の企業が2社あります。1社は3号ファンドで出資した企業で、従来のシリコンバレー型投資でした。もう1社はシリコンバレーからはるか遠く離れたアイダホ州の会社です。最初の企業には、従来のシードラウンドを経て最終的に25%の持ち分で250万ドル(約2億6900万円)を出資しました。アイダホ州の企業には25%の持ち分で50万ドル(約5386万円)を出資しました。この企業は現在、先ほどのシリコンバレー型投資の企業に比べて2倍の規模まで拡大しており、非常に速いスピードで成長しています。
つまり現状では、従来のシリコンバレー型ベンチャー企業よりもうまくいっているということですね。
先ほども言いましたが、私はシリコンバレー型の投資に長い間幻滅していました。2008年のリーマンショックに向けて暴走していたウォール街を思い出すんです。彼らは「この債務担保証券(CDO)が売れさえすれば、それでよい」と考えます。誰も「これは良い製品なのか」などとは考えていない。
VCが創り出したものの大半は、CDOのような金融商品、つまり資産を増やすための道具です。「この企業は顧客からの収益で生き残っていけるのだろうか」とは考えません。投資案件の要はイグジットが達成できるかどうか、それだけです。そのために利用できる創業者が見つかればそれでよいと考えているのです。例えば、多くの買収が失敗に終わっていますが、VCは満足している。なぜだと思いますか。イグジットは達成できたからです。
しかし、今は非常に短期間で資金が調達されるため、VCはより大きなトラクション(牽引力)を示す必要があります。それでブリッツスケールなどの手法が登場していますね。
ほら、その質問の仕方です。何かがおかしいのですが、気づきませんか。すべてVCのため、なんですよね、VCがトラクションを示す必要がある、と言っている。起業家ではなくてね。
でも、LPはそのトラクションに夢中になっていませんか。LPは即効性のある財務的トラクションを求めていますよね。
そうですね。ですが、VCのリターンはもう40年間も公開市場に追いついていない。宝くじみたいなものです。唯一の確実な勝者はVCです。VCはファンドの資金を回収できなくても、運用報酬を毎年受け取れますからね。
巨額のVC資金が回収されずに終わっています。誰もが一獲千金を狙っているのです。確かに、それができればすばらしいでしょう。でも、めったに起こらないその大勝利のためにあまりにも巨額の投資が行われ、その他の投資に回す資金がなくなってしまっている。社会への利益還元のためではなく、財務リターンを最大化するためにビジネスが組み立てられており、それが社会の構造的不平等につながっています。
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カテゴリー:VC / エンジェル
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(翻訳:Dragonfly)