サイトアイコン IT NEWS

東大発スタートアップ「ノイカ」が世界初のサンゴの人工産卵実証実験を再始動

東大発スタートアップ企業のイノカは7月26日、IoT技術による水温調整により、沖縄の久米島付近の海面水温と同期させた完全閉鎖環境内の実験で、サンゴの人工抱卵を実現したと発表した。また、サンゴの人工産卵のための実証実験を2020年8月から再始動すること、2021年3月に世界初の産卵時期をコントロールした人工産卵の成功を目指すことを明らかにした。

イノカは、「自然の価値を、人々に届ける」をミッションに2019年に創業した、東京大学発のスタートアップ企業。国内最高峰の「生態系エンジニア」とAI・IoTエンジニアとを中心に、生態系の理解と再現(=「人工生態系」技術)の研究開発および社会実装を推進する。

地球上の全海洋面積のうち、サンゴ礁が占める面積の割合は世界の0.2%程度にすぎない一方、約9万3000種(海洋生物種の25%程度)の生物種が生息し、1km2のサンゴ礁が年間15トンの食料を生産しているという。

サンゴの生態系は大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を海洋に固定するブルーカーボン生態系としても注目されている。温室効果ガスの抑制効果も期待されていることから、世界的に減少を続けているサンゴを保護し、残していくことでSDGsに貢献できると考え、2019年10月より実験を開始した。

今回イノカが成功した実験は、独自で研究開発を進める「環境移送技術」を用い、虎ノ門・オフィスビル内の会議フロア一角にて実施した。IoT技術を活用し、四季の変化をサンゴの採種元である沖縄・久米島付近の海と同期させ、水槽内の水温調整、また水流を作ることで沖縄の海のような波を人工的に発生させた。

環境移送技術とは、水質(30種以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係といったパラメーターのバランスを取りながら、自社開発のIoTデバイスを用いて実際の自然環境と同期させ、特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するイノカ独自の技術。

同実験では沖縄産の成熟したサンゴを利用し、アクアリウム用サンゴライトで紫外線を照射。ライトについては、昼は太陽を浴びるような明るさ、夜間は月明かりに照らされる程度の明るさとすることで、水槽内の環境を沖縄の海に可能な限り近づけたという。

産卵実験時のシステムは24時間ライブ配信し、産卵の予兆を常時監視。5月中旬にサンゴを折って確認したところ、体内での抱卵を確認したものの、産卵タイミングである6月中旬に再度サンゴを折って確認した際にはサンゴの体調の悪化に伴い卵が確認できず、産卵に至らなかったという。

同社は、サンゴが産卵しなかった原因を「体調不良によってサンゴ本体に卵が吸収されたのではないか」と考えており、体調悪化を食い止めるため卵を自分自身のエネルギーに変えた可能性を挙げている。

同社は、今回の結果をもとに、2020年8月より再び実証実験を開始する予定。生体へのストレスを可能なかぎり低減できるよう、水槽内の各パラメーターをさらに精緻に調整し、サンゴの健康状態の判別のために画像解析技術も応用。世界初の産卵時期をコントロールした人工産卵の成功を目指す。

また暑い時期を経験させず、かつ次の産卵タイミングまで最短でたどり着くように季節を3ヵ月ずらす。11月の水温設定から実験をスタートさせ、約半年後の2021年3月に産卵を目指すとしている。

小型水槽内での人工産卵技術が確立すれば、ビルなどの一般的な都市空間のような場所でも人工産卵が可能になるため、サンゴ研究が飛躍的に促進されるという。

また本来、自然界におけるサンゴの産卵は年に1回と限定的だが、水槽内の各パラメーター調整により、理論上産卵時期をコントロール可能となる。何世代にもわたって研究調査を行うモデル生物としてサンゴを扱えるようになるため、サンゴの基礎研究が進み、サンゴ保全に大きく寄与すると同社は考えている。

イノカは今後も、国内初のサンゴの人工産卵の成功を目指しながら、地球温暖化や環境汚染などの危機に対し、生態系の価値を「のこす」ための取り組みを進めるとしている。

関連記事
京大発スタートアップ「バイオーム」が大阪府内の生物ビッグデータの構築・生物多様性の調査に協力
健康なサンゴ礁から出る音を死んだサンゴ礁で鳴らすと海域に活気が戻る

モバイルバージョンを終了