国境を越える金融取引は個人・大企業を問わず大きな頭痛の種であり、他国の受取人に送金する際、往々にして長い待ち時間や高額の手数料に向き合わなければならない。国をまたぐ決済を迅速に行えるネットワークインフラを開発する香港のスタートアップであるEMQは7月28日、WI Harper Group(WIハーパーグループ)がリードするシリーズBで2000万ドル(約21億円)を調達したことを発表した。
EMQのテクノロジーは、オンライン銀行のデジタルウォレット、eコマースおよび加盟店向けの決済業者、認可を受けた金融機関などのクライアントの既存のネットワークに統合されるため、国境を越える送金を簡単に実行できる。
今回の資金調達にはAppWorks(アップワークス)、Abu Dhabi Capital(アブダビキャピタル)、DG Ventures(DGベンチャーズ)、Intudo Ventures(イントゥドベンチャーズ)、VS Partners(VSパートナーズ)、January Capital(ジャニュアリーキャピタル)、Hard Yaka(ハードヤカ)、Vectr Fintech Partners(ベクターフィンテックパートナーズ)、Quest Ventures(クエストベンチャーズ)、Sparklabs(スパークラボ)も参加した。資金はEMQの国際ビジネス拡大、製品開発、主要市場での免許取得のために使われる。2017年12月に発表した650万ドル(約7億円)のシリーズAと今回のラウンドを合わせたEMQの調達総額は2650万ドル(約28億円)となった。
EMQはすでに香港、シンガポール、インドネシアで免許を取得しており、カナダではマネーサービスビジネスとして登録されている。また、フィンテック企業によるイノベーションを促進する目的で台湾の金融監督委員会が立ち上げた規制サンドボックスにも採用された。
同社の共同創業者兼最高経営責任者であるMax Liu(マックス・リュー)氏はTechCrunchに対し、今後は特に中国、インド、日本で企業向け送金事業の拡大に注力すると語った。EMQのテクノロジーはすでに80カ国で企業の決済処理に利用されている。
最近まで、EMQが関わった取引の大部分は消費者間決済だった。その後5月に企業向け決済ソリューションを立ち上げた。リュー氏は「EMQにおける企業間取引は2021年には総取引量の半分を占めていると予想している」と語った。
Juniper Research(ジュニパーリサーチ)によれば、クロスボーダーのB2B取引は、主に新しいテクノロジーの採用により、2018年の150兆ドル(約1京6000兆円)から2022年までに218兆ドル(約2京3000兆円)を超えると見込まれている。クロスボーダー取引のテクノロジー(APIを含む)を提供するフィンテック企業には、Currencycloud(カレンシークラウド)、Payoneer(ペイオニア)、Transferwise(トランスファーワイズ)などもある。
リュー氏はEMQの主なセールスポイントとしてeコマース、小売業者の決済、調達、送金、給与計算など、さまざまな国での幅広い用途に対応できる柔軟なインフラの構築に重点を置いていることを挙げた。
また同氏は、EMQがわずか2つのAPI呼び出しを行うことでクライアントの既存のテクノロジーインフラに統合できることを付け加えた。EMQは模擬取引を使ってフルに機能するサンドボックス環境をクライアントに提供し、正式運用の前にテクノロジーを実験したり、EMQのカスタマーサポートチームと予行演習したりできる。リュー氏は、クライアントがEMQをビジネスオペレーションに完全に統合するには、企業の規模と要件によるが通常2週間から2カ月かかると述べている。
WI Harper Group(WIハーパーグループ)のパートナーであるEdward Liu(エドワード・リュー)氏は、投資に関する記者発表で次のように述べた。「デジタルトランスフォーメーションが世界的に盛り上がり、企業の活動はますます国際的になる中、クライアントがアジアやさらにその先にビジネスを広げるには、EMQのような高速で確実そして柔軟性と透明性を備えるネットワークインフラがに必要になる。EMQチームと提携して、クロスボーダーのビジネス決済市場をリードするポジションをグローバルに拡大できることをうれしく思う」。
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