カリフォルニア州選出の上院議員Kamala Harris(カマラ・ハリス)氏を、トランプ大統領の席を奪うクエストで副大統領候補として指名したJoe Biden(ジョー・バイデン)氏の決定は、次の副大統領が初めて、黒人でアジア系米国人女性の候補者から選ばれるかもしれないことを意味するだけではない。
もちろんそれだけでも歴史の大きな節目であることは確かだが、彼女がテクノロジー産業でキャリアを築いたカリフォルニア人でもあることも意味している。
オークランドで生まれたハリス氏はサンフランシスコの地区検察官、そのあとカリフォルニアの司法長官を務めてから、2016年に上院議員に選ばれた。新たに指名された副大統領候補としてテクノロジー業界に関する深い理解を選挙戦に持ち込むこともありえるが、もっと重要なのは強力な複数のテクノロジー企業が前例のないほどの厳しい批判を浴びているこの時期に、民主党政権はどのように振る舞うのか、それに対し彼女がどのような立ち位置で臨むのか、という問題だ。それに関しては、まだ何ひとつ明らかでない。
ハリス氏はシリコンバレーの経営者から、民主党の指名を争うレースで大きく支持され、大手テクノロジー企業の社員たちからの寄付(The New York Times記事)でも、早くから他の候補を抜いている。その支持はレースが進むにつれて変わり、テクノロジー業界の寄付者たちの多くは複数の候補を支持したが、業界はバイデン氏の選択に満足しているだろう。
注目すべきは、ハリス氏が2010年にカリフォルニア州の司法長官に選ばれて2期を務め、テクノロジー産業の最大の爆発的成長期の間に彼らを監督したことだ。テクノロジー業界の規制に向かう彼女のスタンスを予知するには、選挙戦の期間中に彼女が言うことよりも、州の司法長官時代の経験や見聞が重要だ。
でもそれは、シリコンバレーにとって間違いなく単純な時代であり、今のように、選挙の妨害とか誤報合戦、反トラストの執行のような問題をめぐって厳しい会話や論争が生じている時代の、ずっと前のことだ。
慎重な発言
予備選が進み、当時ライバルだったElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)氏が大手テクノロジー企業を批判する立場(未訳記事)を取り続けているとき、ハリス氏はテクノロジー業界の規制をめぐる難しい問題にはあまり言及しなかった。10月のディベートでハリス氏は、巨大テクノロジー企業が分割された場合に生ずる副次的影響に関する質問を避け、代わりにトランプのTwitterアカウントという、より安全な政治的話題に方向を変えた(The New York Times記事)。テクノロジー企業の説明責任という重い話題を避けたハリス氏は、ルールに違反している大統領のアカウントを停止するよう、Twitterに呼びかけた。そして、その問題は「安全とTwitterという企業の説明責任の事案だ」と述べた。
Kamala Harris:トランプのツイートは暴力を教唆し、目撃者を脅し、正義を妨害している。Facebookを強力に取り締まることはできなくても、Twitterに対し目を閉じているべきではない。大手テクノロジー企業は、そのプラットホームの悪用を彼に許していることに関して、説明責任を負うべきである。
今年の早い時期のインタビューで、FacebookやGoogle、Amazonのような企業は分割されるべきかという直接的な質問(The New York Times記事)に対してもハリスはやはりそれをかわしたが、「それらの企業のユーザーデータの扱い方は気になる」とは語っていた。
「テクノロジー企業は、米国の消費者が自分のプライバシーが侵されることはないと確信できるように規制されるべきと思う」とハリス氏は説明している。彼女は2018年のTwitterのスレッドでも、ユーザーのプライバシーに関する懸念を表明している。
そのスレッドで同氏は「Facebookがユーザーの位置やIPアドレス、いつどこのサイトを訪れたかなど、自分のさまざまなデータを集めていることを知らない人が圧倒的に多い。それは現実の世界では、あなたが今何をしているか、どこへ行ってるか、どこにどれだけ居たか、誰と一緒に居たかなどを監視されているのと同じだ。そんなことをされたら、プライバシーの侵害だと感じる人がほとんどだろう」と述べている。
Facebookへの関心
テクノロジーに関するそのほかの批判では、ハリスはFacebookに言及することが多い。そんなときとくに強く非難するのは、2016年の大統領選でロシアからの偽情報の拡散に果たした同社の役割だ。同氏は同社が集めたデータをどのように取り扱っているのかを気にしている。
Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏に直接会った際にハリス氏は、Cambridge Analyticaによるユーザーデータの悪用をFacebookがどう取り扱ったかに焦点を当てた(未訳記事)。さらに最近では、コロラド州選出上院議員Michael Bennett(マイケル・ベネット)氏との共同書簡(ハリス氏のサイトのプレスリリース)で聴聞の結果が概してよくなかったFacebookのCEOに対し、今度の選挙ではもっとしっかりするよう圧力をかけている。
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二人の上院議員は、その書簡で「最近の新型コロナウイルスに関する偽情報に対しては、同社は抑止の意思を示しているが、2016年の選挙に関しては今だに、事件から学び、有権者に対する抑圧と対決する決意を示していない。われわれは、Facebookが自分が自由に利用できるツールとリソースを使って積極的に有権者に対する抑圧と戦い、市民の権利を保護することに失敗しているという、聴聞者たちの懸念を共有するものである」と書いている。
同社に当てた別の書簡でハリス氏は、The New York Times紙の記事を引用しながら、気候関連の誤報に対するFacebookの事実確認のポリシーを批判(ハリス氏のサイトのプレスリリース)している。
厳しい言葉づかいにもかかわらず同氏は、FacebookのCOOであるSheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)氏とは仲がいい。サンドバーグ氏は米国時間8月11日にハリス氏の副大統領候補指名を祝った。2013年にハリス氏は、サンドバーグ氏の書籍「Lean In」のマーケティングに協力(HuffPost US記事)して自分自身の話を共有したようだ。ハリス氏はまた、2015年にメンロパークのFacebook本社で行われたサイバーいじめ対策の集会でもスピーチを述べ、会場で二人の写真を撮られた(HuffPost US記事)。
反トラストは後回しか?
ハリス氏のテクノロジー観は、公表されている声明がわずかにあるだけで、未知の部分が多い。予備選における他の候補との差別化努力の中には、副大統領になってからの施策の優先順などは出てこないと思うが、しかしそれまでに分かることも少なからずあるだろう。
目下、次の政権のためのテーブルの上に極めて多くの危機がある。大手テクノロジー企業の規制は、2020年のパンデミック以前の政治情勢の中では選挙戦の大きなテーマだったが、今では警官の暴力をめぐる会話と、コロナウイルスの封じ込めにおける米国人の壊滅的な失敗が前面にある。反トラストの規制や、テクノロジーの力に対する介入が後回しの問題になるのか、それもまだ分からない中で、その間に消さなければならない特A級の大火が全国いたるところにある。
ハリス氏がこの国の次の副大統領になったからといって、テクノロジー産業のための政策形成や反トラスト努力の推進が最優先課題になるとは限らない。しかし同氏がテクノロジー産業の地理的なハブ(シリコンバレー)と深いつながりがあったことが、バイデン氏の大統領府とその優先施策に、何らかの結果をもたらすことは確実だろう。
ハリス氏の政策アプローチには疑問符がいくつか付くとはいえ、テクノロジー業界にとって既知数だ。シリコンバレーを理解している人物であり、また、過去の例から見ても、話は厳しくても業界の最大手に対して過激な施策を取ることはない。バイデン・ハリスコンビの選挙戦からどんなテクノロジー政策が登場しても、この生きのいい副大統領候補には、他の候補と比べてずっと意味のあるテクノロジーとの関わりがある。そのことだけでも、注目の価値があるだろう。
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画像クレジット: Daniel Acker/Bloomberg via Getty Images/Getty Images
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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa)