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日本人の特性に合わせた、経営管理クラウドサービス「Loglass」のこだわり

Techableでは先日、経営管理クラウドサービス「Loglass」を手がける株式会社ログラスが、総額8,000万円の資金調達を実施したというニュースを取り上げた。

このサービスでは、企業が表計算ソフトを用いて行う経営管理業務に着目。経営に必要な数値の一元管理をクラウド上で実現し、業務の効率化をサポートする。

DXが進み、企業におけるさまざまな業務の効率化が進む中で、経営管理の領域には依然として古い部分が残ってしまっているようだ。一体どのような課題があるのか、そしてログラスのサービスがどのような変革をもたらすのかーー。代表の布川友也氏に話を聞いた。

日本における経営管理の問題点と課題

ーーまずは経営管理において重要な意味を持つ「管理会計」に関して、「財務会計」との違いについて教えていただけますか。

布川:財務会計は株主や銀行に報告を行うためのフォーマットなので、明確に制度が存在します。それを通じてインサイトを得ることが目的ではなく、あくまで報告用という形ですね。

一方で管理会計は、会社を成長させるための数字を管理・分析するもの。財務会計と違って明確に制度化されていないため、ある程度自由に行える点が特徴です。それゆえ、作業に明確な終わりがないというところもポイントだと思います。

ーー実際の経営管理は、どのような業務フローになっているのでしょうか。

布川:経営管理の業務フローは、全部で4段階に分けられると思っています。

第1段階が、将来予測をして予算のロジックをつくる「予算策定」。第2段階が、そのロジックによって決定した売上などの数値を、全国の拠点から集めてひとつにまとめる「予算収集」です。続いて第3段階が、財務会計の実績と経営管理の予算を比較する「予実管理」。最後に、予実管理で差異が出た内容や足元の経営環境、KPIの状況などに基づいて、将来予測をアップデートする「見込管理」が第4段階です。

ーーその業務フローにおける現状の課題として、具体的にどのようなものが挙げられるのでしょうか。

布川:手作業によるエラーの頻発や、各拠点とのやり取りによるリードタイムの発生です。

第2段階の「予算収集」では、各拠点ごとに策定された売上や営業利益を全社予算として統合します。現在は、その数値の集計方法として、各拠点からメールで送られてきたExcelなどのファイルを手作業で集計しているんですよね。拠点によってフォーマットが少し違うだけで、SUM関数による集計すらできないようなことが発生しています。また、手作業ゆえにヒューマンエラーが起きやすい。

さらに、全国に拠点がある場合は、ファイルを集める時間だけでリードタイムが発生するので、その先の経営分析に行き着くまでに時間を要してしまいます。

第3段階の「予実管理」や第4段階の「見込管理」でも似たようなことが起きているので、こういった課題は恒常的なものになってしまっています。

ーー少し大きな話になりますが、そのような現状は日本全体の生産性を落としてしまっているのでしょうか。

布川:おっしゃる通り、生産性はかなり落ちていると思います。

経営管理の領域にIT投資している会社は一定数あるものの、体感では全体の5%から10%くらい。たとえば営業だとSalesforce、経理だと勘定奉行のような業務効率化サービスが広く利用されていますが、その先の経営管理という領域に関していえば、Excelで手間をかけて取り組む会社がまだまだ多いんです。

足元のコロナ環境によって、企業の経営環境は目まぐるしく変化しており、経営分析に至るまでの非効率な仕事は日本中の経営の生産性を著しく落としていると思います。

さらにいえば、効率性が低いだけならまだ看過できるかもしれませんが、こうしたExcelワークはデータ分析の柔軟性を大きく毀損していることが多くなっています。

こうした問題に対して、データの収集や分析にかなりの工数をかけていることが課題になっているので、それを解決できたら社会的なインパクトは大きいのではないかと思います。

日本人の特性に合わせたプロダクトを

ーーログラスのようなサービスを手がける企業は、海外には既に存在しているのですか?

布川:アメリカでは、この領域で既に上場しているAnaplanという企業があります。ヨーロッパにも、経営管理ソフトウェアの大手は存在します。

ーーそういった中で、Loglassの強みはどこにあるのでしょうか。

布川:日本の文化に合わせたプロダクトを展開し、カスタマーサクセスを実現できることだと思います。

アメリカの場合、予算の作り方などは基本的にトップダウンです。要するに、上層部から下りてきた目標を現場がどのように達成するかという形ですね。日本と比較して上層部からの圧力がより強く、達成するために何ができるのか、ということを検討するような文化があると思います。

それに対して、日本ではどちらかというとボトムアップ型の会社が多いように思います。ですから、上層部が売り上げや営業利益の目標を決定した後、それに対して現場サイドが難色を示したときに「擦り合わせ」のプロセスが頻繁に発生します。

米製品は、CFOやFP&Aの部隊が中央で管理できることを基軸に製品開発されていることが多いですが、Loglassの場合は事業部のトップにも数値をしっかりと意識してもらえるような工夫を凝らした製品になっています。

私たちは、事業部を強く経営に巻き込むという独自概念の「スクラム経営」を意識して製品開発を行っています。これは、京セラの名誉会長である稲盛和夫氏が提唱していた「アメーバ経営」に近いものです。

ーー予算の作り方ひとつとっても、国によってスタイルが異なるのは面白いですね。

布川:そうですね。和を以て貴しとなす、日本の特性が非常に良く出ているポイントだと思います。それと、もうひとつ。米製品の場合は、オンライン上で予算の作成が完結するような設計になっています。つまり、オンライン上でExcelのような作業を行えるというプロダクトです。

一方で私たちのサービスは、オンラインでExcelのような作業をするわけではなく、ExcelやGoogleスプレッドシートで作ったものを集約できるという設計になっています。これは、多くの日本人がシステムの学習コストを嫌い、操作性が劣るオンライン上のExcelのようなものに嫌悪感を示すという、独自の調査から導きだした最適解です。

この部分も国民性が大きく出るところだと思っていて、日本人の場合は、手元で自由な発想で計算を行いたいという要望が強いんです。アメリカやドイツの「システムに合わせて楽したい」というニーズではなく、「手作りのものをシステムに入れたい」というニーズがあります。

ーーわかりました。日本人の特性に合わせたプロダクトの開発や提供を通じて、どういった世界を実現したいと考えているのでしょうか。

布川:社員一人ひとりの「自責思考」をサポートすることで、会社全体の成長を後押しできればと思っています。

ーー「自責思考」とは、具体的にどのようなものですか。

布川:「会社の業績を向上させるために、他人任せではなく自分たちが頑張らないといけない」という意識のことで、会社の経営活動を円滑にする上で欠かせないものだと思っています。先ほど申し上げた「スクラム経営」がまさにこの意識を示しています。

設定された数字の達成に向けて漫然と努力するのではなく、自分たちが設定した目標と捉えて取り組むことが大切です。目標に向かって自発的に取り組めば効果が2倍にも3倍にもなるのは、たとえば筋トレでも同じですよね。

あとは、会社全体の状況を可視化することも重要です。

ーー可視化によって、考えられるメリットとはどのようなものでしょうか。

布川:仮に、業績が好調な部署Aとそうではない部署Bがあったとします。部署Bの落ち込みを部署Aの頑張りでカバーできるかもしれないけれど、それぞれ会社全体の状況がわかっていない場合、部署Aは目標を達成した段階で取り組みをスローダウンさせてしまう可能性がある。ですが、状況を全社で共有できていれば、部署Aがカバーできるかもしれない。

ーー御社のサービスによって、部署間の連携も支援するわけですね。

布川:はい、そうです。これは今の日本企業に足りない部分だと思っているので、会社全体の状況と自部署の状況を同じプラットフォームで確認できる仕組みをつくっていきたいですね。

布川友也(ふかわ・ともや)
慶應義塾大学 経済学部卒。 新卒で投資銀行に勤務。M&A、IPOアドバイザリー業務に従事。 その後、上場直後のITベンチャー企業に経営戦略担当として参画し、IR・投資・経営管理等を中心に業務を行い、入社初年度で全社表彰を獲得。東証一部への市場変更を経験。 株式会社ログラスを創業、代表取締役に就任。

(取材:早川あさひ)

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