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魅力は燃費以外にあり!トヨタ「RAV4 PHV」の加速はハイブリッド車の常識を超えてる

コンセントなどを通じて、外部から車載バッテリーに電気を充電できるPHEV(プラグイン・ハイブリッドカー)は、エコカーの最適解だという声もある。

それもあって、PHEVは省燃費や航続距離の長さが魅力と思いがちだが、最新のPHEVであるトヨタ「RAV4 PHV」の美点は、スポーツカーに匹敵する力強い加速だった!

■ポルシェのSUVよりも加速データは優秀

PHEVは、通常のハイブリッドカーと比べて大容量のバッテリーを搭載していて、そこにあらかじめ充電しておくと、エンジンを掛けなくても長い距離を走れるという特徴を持つ。バッテリーとモーターだけで走る間はEV(電気自動車)と同じため、走行中の車両からは地球温暖化の原因とされる二酸化炭素が排出されない。そのため燃費が良く、地球にも優しいのはいうまでもない。

「それならEVに乗ればいいのでは?」と考える人もいるだろうが、EVは航続距離や充電インフラなどの課題があり、エンジン車やハイブリッドカーに比べると利便性に劣るのは否めない。その点PHEVなら、近距離移動ではエンジンを止めて燃料を使わずに走れる上、ロングドライブ時もガソリンスタンドでガソリンを給油すれば、ハイブリッドカーと同様、いくらでも走り続けられる。一部で「PHEVこそ現実的なエコカーの最適解」といわれているのも十分納得できる。

先頃トヨタが発表したRAV4 PHVは、そうしたPHEVの最新モデルだ。だがこのクルマの最大の魅力は、省燃費を始めとするエコ性能ではない。なんと鋭い加速性能なのだ。

パワフルさに満ちあふれたエネルギッシュな加速で、停止状態から100km/hまでわずか6.0秒で到達。これはトヨタ車で“「GRスープラ」の次に速い”データであり、他社のSUVと比べると、スポーツカーブランドのポルシェが展開する「マカン」や「カイエン」の通常モデル(それぞれ6.7秒と6.2秒)より俊足だ。

RAV4 PHVが誇る速さの秘密は、搭載されるモーターにある。“5NM”型と呼ばれる新開発のフロントモーターは、通常の「RAV4ハイブリッド」のそれ(120馬力)よりひと周り大きく、182馬力という約1.5倍もの最高出力を記録する。このモーターにより、通常のRAV4ハイブリッドとは比べものにならない強力なダッシュを生み出すのだ。

ちなみにエンジンは、通常のRAV4ハイブリッドと同じ2.5リッターの自然吸気式で、制御こそ若干異なるものの、基本的には共通。一方、ハイブリッドシステムが一度に発生できるシステム最高出力は、通常のRAV4ハイブリッド車が222馬力(4WD)であるのに対し、RAV4 PHVは強力なモーターのおかげで、なんと306馬力にまで引き上げられている。バッテリーの大型化などで車両重量が増しているとはいえ、この出力の違いが大きな加速性能の差につながっている。

■大容量バッテリーを高出力化にも利用

このようにRAV4 PHVは、加速性能抜きには魅力を語れないクルマといっていい。そこで気になるのは、トヨタはなぜ、RAV4のPHEVをこのような加速自慢のキャラクターに仕立てたのか? という点だ。

実は、RAV4 PHVには伏線となるモデルがあったのだ。それこそが、トヨタを代表するPHEVで、「プリウス」をベースに仕立てられた「プリウスPHV」だ。プリウスはRAV4とは異なり、PHEV仕様でも通常のハイブリッド車とシステム最高出力が同じ(122馬力)で、動力性能は同等となっている。

それ自体、なんの問題もない話だが、トヨタが直面したのは、プリウスPHVが思ったほど売れないという事実。その理由についてトヨタは「PHEV仕様は通常のハイブリッド車に対し、実感できる魅力が不足していて、あえて高価なPHEV仕様を選ぶ必要性を感じてもらえていない」と分析したのだ。

では、どうすれば魅力的なPHEVになり得るのか? それに対してトヨタが出した答えは“加速性能”というクルマ本来の価値で勝負することだった。RAV4 PHVは通常のRAV4ハイブリッドに比べて駆動用バッテリーが大きく、モーターへと供給できる電力にも余裕があることから、高出力モーターの搭載が可能となった。この“大容量バッテリーを航続距離の拡大だけでなく高出力化にも使う”という発想が、一種のターニングポイントとなったのだ。

中には「PHEVはエコカーなのだから、高出力化なんて矛盾している」と考える人もいるだろう。しかしそうした考えは、固定概念に縛られ過ぎではないだろうか? 例えば、エコカーのイメージが強いEVの人気モデルを見ればよく分かる。世界的に人気となっているテスラの各モデルを始め、ジャガーの「Iペイス」やポルシェの渾身作である「タイカン」など、環境性能よりむしろ、強烈な加速性能を魅力としてアピールしているモデルに人気が集まっている。それはメーカーが、ユーザーがEVに対して求めていることを理解しているから。モーター走行が中心のクルマであっても、高額車がユーザーに受け入れられるためには、クルマ本来の古典的な魅力が必須。環境性能だけでは決して売れないのである。

■フル充電+満タンなら1300km以上走れる足の長さ

これまでトヨタの一般的なハイブリッドカーでは、100m/hを超える辺りで加速の勢いが弱まるのを感じたが、RAV4 PHVはその領域を超えても、驚くほどの加速力を見せてくれる。その力強さは、エコカーであることを一切感じさせないどころか、高性能車そのものといっても過言ではない。

ちなみに開発者に対し「高出力モーターを積むとEVモードで走れる航続距離や燃費性能が落ちるのでは?」と尋ねたところ、「アクセルペダルを必要以上に踏まず、大人しく運転している限り、(高出力モーターを積まなかった場合と比較して)大きな差はない」という。つまりエコ性能もきちんと磨き込まれているのだ。

気になるのはバッテリーの充電にかかる所要時間だが、AC200Vを使った場合、満充電まで約5.5時間とのこと(ちなみにRAV4 PHVは急速充電には対応していない)。その状態だと、エンジンを掛けずに95kmの距離(カタログ記載の“WLTCモード”)を走ることができ、その場合の燃費データは22.2km/Lに達する。また、満充電状態でスタートし、EV走行モード終了後にエンジンを使ってハイブリッドカーとして走らせた場合の航続距離は、なんと1316kmにも達する。

驚きの加速&燃費性能を誇るRAV4 PHVは、内外装の仕立ても通常のRAV4とは差別化している。ボディの下部やタイヤ周りの樹脂パーツは、通常が無塗装の樹脂仕上げなのに対し、グロスブラックの塗装仕上げとしているし、上級グレードには19インチの専用デザインホイール&タイヤを設定する。

またインテリアも、ルーフの内張りをブラックとした上で、ディスプレイオーディオの画面を通常モデルより1インチ大きい9インチとし(通常のRAV4も先のマイナーチェンジで一部グレードに9インチを装着)、上級グレードにはヘッドアップディズプレイを搭載。一方、全グレードのシートに赤いステッチが入るなど、スポーティな見た目にもこだわっている。

そのほか、遮音材の追加などで静粛性もアップ。PHEV分の価格アップに見合うプレミアムな仕立てとしている。

随所に魅力あふれるRAV4 PHVだが、いざ発売してみると、トヨタも予想外の課題に直面してしまった。発売するや即、市場から大きな反響を受けたRAV4 PHVは、予定していた2020年度内の販売台数をあっという間に売り切ってしまったのだ。そのため現時点では受注が停止されていて、この先の再開については公式のWebサイト上でアナウンスするという状態になっている。計画される販売台数が300台/月と多くない原因は、トヨタの努力だけでは解決できないバッテリー供給量の問題というから、この先しばらくは、そう簡単に増産できないのではないだろうか。

とにもかくにも、発売前に話を聞いた開発者は「楽しいクルマなのは間違いないが、果たして世の中に受け入れられるかどうか不安。どうアピールすれば積極的に選んでもらえるのか悩んでいる」と打ち明けていたが、蓋を開けてみるとオーダーが殺到したRAV4 PHV。すでに注文した人は、オーダー時に実車を試乗していなかったはずだが、それでもスペックなどからこのクルマの魅力に気づいたのだろう。力強い加速というのはクルマ好きにとって、やはりロマンなのである。

<SPECIFICATIONS>
☆G“Z”
ボディサイズ:L4600×W1855×H1690mm
車重:1900kg
駆動方式:E-Four(電気式4WDシステム)
エンジン:2487cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:177馬力/6000回転
エンジン最大トルク:22.3kgf-m/3600回転
フロントモーター最高出力:182馬力
フロントモーター最大トルク:27.5kgf-m
リアモーター最高出力:54馬力
リアモーター最大トルク:12.3kgf-m
価格:499万円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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