スマホの外観デザインは一昔前に比べるとよりカラフルに美しくなった。多層フィルムによるグラデーション仕上げや、レザーを貼り付けた高級感あふれるモデルもある。しかし暑い夏にぴったりな外観のスマホがあるのをご存じだろうか? 背面を透明にしたスケルトンスマホだ。
スマホの内部がしっかり見える
回転ファンが回るギミックも
Nubia(ヌビア)というメーカーは日本ではまだあまり知られていないが、ゲーム利用に特化したハイスペックなスマホ「Red Magic 5」をつい先日発売したばかりだ。Red Magic 5は144Hzという高速駆動ディスプレイを搭載、ゲームやビデオ、そしてSNSのタイムラインのスクロール時などに残像がほとんど見られないほど美しい表現をしてくれる。本体の側面にはゲーム利用時に使える左右ボタンも搭載。そして5Gの高速通信も利用できる超ハイスペックなスマホなのだ。
このRed Magic 5は鮮やかな赤にスピード感を漂わせる「Hot Rod Red」と、宇宙空間に迷い込みエイリアンと戦うかのようなイメージを感じさせる「Eclipse Black」の2色のカラバリが用意されている。
だが海外には特別モデルとして背面を透明にした透明バージョンが限定販売されている。中国語では「重水素透明版」という物々しい名前がついているが、近未来から来たようなデザインはたしかにそんなイメージかもしれない。表側はノーマルモデルと変わらない普通のスマホだが、裏返すと内部が透けて見えるのだ。ケースなどつけずにこのまま使い、カフェのテーブルの上ではこの裏面を見せびらかしたくなる。透明にする技術的な意味はないだろうが、「見せびらかす」ことを考えるとこれ以上に優れたデザインはないかもしれない。
透けて見える背面をよくみると、何か目立つものがあることに気が付かないだろうか?上部左側に丸いパーツがあることがわかる。これは内部で回転する「ターボファン」と呼ばれる冷却ファンなのだ。ターボファンは最大16000rpm、1秒間に250回転以上もするまさしく「ターボ」な超ミニサイズの扇風機である。その上には漢字で書かれた「気」のような文字が見えるが、中国語で「重水素」の意味なのだ。実際に重水素は使われていないが、ターボファンのイメージをこの文字に込めているのだろう。中国語圏の人は「重水素パワーだなんて、空冷が半端ねぇぞ!」と思うだろうし、西洋人なら「ワォ!クール!」(二重の意味で)と飛び上がって喜ぶに違いない。
最近のスマホはゲームやビデオの連続撮影を行うと内部がかなり発熱してしまう。発熱が続けばスマホの動作に影響が出てしまうし、スマホを持つ手も不快感が残る。そこで各社のハイエンドスマホは内部に冷却用のプレートを入れたり、液体を入れた細いチューブを内蔵した液冷システムを採用したモデルが多い。
Red Magic 5の内部にはターボファンに加えて液冷システム「L型リキッドクーリングパイプ」が内蔵されている。この2つの冷却機能でRed Magic 5のCPUは常に18度程度に冷やされるという。ちなみに普通のスマホの内部温度は25度から30度程度。だがゲームを長時間プレイすると40度以上になることもある。手で持って「熱い!」と感じるほど過熱するスマホもあるのだ。しかしRed Magic 5ならそんな過熱の心配は一切不要だ。
Red Magic 5には本体側面にゲーム専用モード「Game Space」に切り替えるスイッチが搭載されている。このスイッチを入れるとスマホの画面が切り替わり、インストールされているゲームアプリが一覧表示される。また側面の左右ボタンやディスプレイの速度、5Gの切り替えといったゲームプレイに必要な操作もここから行うことができるのだ。
このターボファンを回転させると、わずかだが回転音を聞くことができる。その回転している様を外から見ることができるRed Magic 5透明版は見ているだけで「スマホが冷えているな」という安心感を与えてくれるだろう。一方この回転音は小さいながらもマイクが拾ってしまうため、ビデオ撮影時にはクーリングファンをオフにしなくてはならないのが残念だ。とはいえファンを回転させながら撮った動画を人に見せて、「この音はなに?」と聞かれたらしめたもの。ポケットからRed Magic 5を取り出して透明ボディーを披露できるわけだ。
スマホに「ケース」はカッコ悪い
透明スマホですべてを見せろ
背面を透明にしたスマホはRed Magic 5が初めてではない。2018年にシャオミがリリースした「Mi 8 Explorer」は背面から内部の基盤が見えるという、スマホマニアが涙を流してしまうモデルだった。ベースモデルとなる「Mi 8」は当時最新かつハイスペックなチップセットであるクアルコムの「Snapdragon 845」を採用したモデル。クアルコムがそのSnapdragon 845の発表をハワイで行った際、シャオミCEOのレイ・ジュン氏も発表会に登壇し同チップセット採用モデルをいち早く投入すると表明。その意気込みの表れとして背面を透明にしたMi 8 Explorerを投入したのだ。
普段自分が使っているスマホの中身がどうなっているかなんて気にするのはマニアくらいだろう。自動車の世界ではエンスーなマニアたちが自分の車のボンネットを開けて見えるエンジン回りを美しく磨き上げている。スマホは精密機械だから中の基盤を直接見たり触れるような設計にはできないため、シャオミは透明パネルを背面に採用してチップセットやメモリ、配線などが見えるようにしてスマホマニアの物欲を沸かせる製品を作り上げたのだ。
背面から見える基盤にはクアルコムのロゴとSnapdragonの文字の入った四角いチップが中央に配置されてる。このチップセットがスマホの処理のほぼすべてを行うのだ。自動車でいえばエンジンであるチップセットが目の前に見えるだなんて、ちょっとわくわくしてしまう。ただし種明かしをすれば、この基盤はダミーだそうだ。まあもしもスマホを落としてしまい背面が割れてしまったら、すぐにチップセットにも傷がついてしまいスマホが動作しなくなってしまう。本当の基盤を守るように、「見せ基盤」を裏側の最上面に貼り付けているのである。
透明スマホの元祖はあのメーカー
復活のカギは透明モデルの再販だ
Mi 8 Explorer はコスパスマホで業界を騒がしていたシャオミが「うちはあっと驚くような製品も作れる」ということを大きくアピールすることに成功した。Mi 8 Explorerを世界初の透明スマホと取り上げたメディアもあったほどだ。ところが実は、シャオミよりさらに早く透明スマホを出していたメーカーがあったのだ。台湾のHTCだ。
HTCが2017年に発売した「HTC U11 plus」は透明な背面から円形のアンテナが見えるスマホだった。このアンテナはワイヤレス充電用のもので、対応充電台に置くだけで本体を充電できる。HTCとしてはこのワイヤレス充電を大きくアピールしたかったのだろう。しかし一般ユーザーにはこのアンテナの意味はわからないし、マニアは「透明だ!」と話題にしたものの、それ以上の感動を与えることはできなかった。HTCのスマホはここ数年大苦戦しており、話題を集めることで注目してもらおうと思ったのだろうが、その試みは成功したとは言えない。
その後も透明モデルを出すがHTCそのものへの注目度が下がっていく中で存在感は全く示せなかった。とはいえHTCが生き残るためには製品に関心を持ってもらわなくてはならない。2018年秋には世界をあっと言わせるスマホを出したが、これも空振りに終わってしまった。それが「Exodus 1」だ。
Exodus 1も背面はスケルトン仕上げ。内部の基盤が見えるあたりはMi 8 Explorerを彷彿させるクールなデザインだ。Exodus 1はこのデザインも特徴だったが、現金で買うことができないという点でも大きな話題を集めた。Exodus 1の購入はオンラインで仮想通貨のビットコインかイーサリアムだけが利用できた。価格はBTC0.15またはETH4.78、約7万円だった。
仮想通貨が大いに盛り上がっていたころにこの製品が出ていれば購入者も押し寄せただろう。だが2018年後半はすでに仮想通貨は下火の様相を見せていた。また基盤が見えるスケルトンデザインもシャオミのMi 8 ExplorerがこのExodus 1より先に出ていたのだ。Exodus 1は残念ながら時代のトレンドに乗り遅れただけのスマホになってしまった。
スマホの新製品というものは出すタイミングが悪ければ消費者の関心を集めることは難しいのだ。夏に向けてターボファン搭載の透明モデルを出したNubiaの戦略は理にかなっているといえるだろう。HTCもぜひ夏に向けて透明モデルの最新機種を出し、スマホ市場で復活を果たしてほしいものだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000128321/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏