TVを買うときはメーカーを指名して買うことが多いだろう。ソニーやシャープなど日系メーカーは世界でもメジャーだし、サムスンやLGなどの韓国系は海外ではさらに人気がある。ハイセンスやTCLなど中国メーカーのTVも品質は十分だ。だがインドでTVを選ぶときは様相が異なってくる。自分のスマホと同じメーカーのTVが売られているからだ。
インド人もネットショッピング
スマホも今やあのメーカーが1位
インドでもオンラインショッピングは大人気だ。カウンターポイントの調査によると、インドのスマホユーザー数は3億4700万人(2019年)。日本の人口を超えるスマホが毎日使われているのである。通勤途中や授業の合間、あるいは夕飯の前の空き時間など、スマホ片手にインド人たちはネットで買い物をしているのだ。都市部では時間の節約ができ、農村部では遠地のお店まででかけなくてよい。アマゾンが2012年に参入して以降、「スマホで買い物」はインドでも当たり前になったのだ。
オンラインで買えるものは食料品から家電までなんでもある。たとえばスマホは日本円で1万円台の格安モデルが多数販売されており、「新製品が出たらスマホで購入」も当たり前だ。手軽に買い替えできることからオンライン販売を強化したメーカーが年々力をつけており、日本でもスマホを販売しているシャオミは気が付けば2018年にサムスンを抜き去ってインドでのスマホ販売数が1位となった。シャオミがインドでスマホを売り始めたのは2014年のことで、わずか4年で圧倒的な強さを誇るサムスンを抜き去ったのだ。
シャオミのスマホはコスパに優れている。日本で2万4800円で売っている「Redmi Note 9S」は6.67インチの大画面に4800万画素を含むクワッドカメラを搭載している。インドでもこのRedmi Noteシリーズはバカ売れしており、新製品が出ると一瞬で売り切れてしまうほどなのだ。
シャオミはスマホ以外に炊飯器やスーツケースなど家電から生活用品まで様々な製品を販売している。その中でもスマホの次に人気なのがTVだ。スマホメーカーがTVを作るとは畑違いと思われるかもしれない。だが日本以外の海外ではTVといえばほとんどがスマートTVになっている。日本もようやくNetflixなどネット放送が当たり前のものになっているが、海外ではすでに多くの人たちがストリーミング放送を視聴している。
それに対応するようにTVはアプリをインストールできネット接続が標準なスマートTVばかりになっているのだ。スマートTVはAndroid OSで動くものも多く、いわば特大画面のスマホでもある。スマホメーカーがスマートTVを手がけるのは自然のことなのだ。
TVを買うのは一昔前は面倒だった。箱が大きいから持ち運ぶのは難しく、お店でお金を払いながら別途配送を手配しなければならないこともあった。しかし今ではネットで買えば自宅まで届けてくれる。そうなるとTVの買い替えもわざわざお店には出向かず、インド人はスマホの画面で好きなものを選んで買うようになった。配送の手間から解放されたおかげで、TVのような大型家電がネットでじゃんじゃん売れるようになったのである。
モトローラ、ノキア、ファーウェイ
続々登場するスマホメーカーのTV
インドでもソニーやサムスンのスマートTVは人気だ。しかし大手メーカーの製品だけに価格は高い。ところがシャオミのTVは半額以下で買える。32インチのスマートTVは14999インドルピー、約2万円だ。この低価格を武器にシャオミはインドのTV市場でトップに立っている。シャオミのスマホをスマートTVをセットで買う人もいるほどだ。
シャオミの成功はインドのTV市場が今でも成長を続けているからである。2021年にはインドのTV市場規模は90億ドルに達するという予測データもある。インドの人口は約13億人。シャオミのように格安なスマートTVを投入し、それを大量に販売すれば十分すぎる利益が得られるのだ。このシャオミの成功を見て、次々と新規メーカーがスマートTV市場に参入している。しかもその顔ぶれの中にはモトローラやノキアといった、老舗のスマホメーカーもあるのだ。
モトローラもノキアの老舗のスマホメーカーだ。インドでは今でも両者の人気が高い。そこでこの2社の販売代理店がインドのオンラインコマース大手と協業して、OEM(相手先ブランド製造メーカー)に頼んでモトローラやノキアのロゴを付けたスマートTVを販売しているのだ。モトローラのスマホを使っている人なら自室に置くTVもモトローラにしたいという人もいるだろうし、ノキアのロゴのついたTVを見れば信頼を感じられるだろう。老舗ブランドは新興メーカーよりも認知度の時点で買っており、後から参入しても競争力を十分もっているのだ。
スマートTVにはファーウェイも参入している。ファーウェイはシャオミのように「ポスト・スマホ」としてスマートTVの販売を2019年に開始した。すでに中国では多数の製品を展開中だ。インドにはファーウェイのサブブランド「Honor」(オナー)の名前でスマートTVを投入した。ファーウェイのスマホは「Huaweiブランドが高級品、Honorブランドはコスパ品」と区別しており、スマートTVも同様に格安モデルはHonorブランドで販売している。
ところでファーウェイのスマートTVは通信業界からちょっとした注目を集めているのだ。アメリカとの貿易問題でファーウェイはやり玉に挙げられており、スマホにはグーグルのサービスを搭載できない状況が続いている。そのためかファーウェイは自社でスマホ向けの独自OSを開発中ともいわれている。そのファーウェイのスマートTVは自社開発したHongmeng OSを搭載しているのだ。Hongmeng OSは現時点ではスマートTVにしか搭載されていないが、いずれファーウェイのスマホもAndroidからHongmengへ移行するのではないかともみられている。ファーウェイはスマホ向けの新しいOSをまずはスマートTVで試しているのかもしれない。
コダックやコンパックも!
インドのTVが面白い
インドには他のスマホメーカーのTVも次々と上陸している。シャオミやファーウェイのようにグローバルで自社製品ラインナップの1つとしてスマートTVを展開しているメーカーだけではなく、モトローラやノキアのようにインド市場限定でブランド名だけを貼り付けた製品を投入しているところもある。だが格安TVを買う消費者にとってその差を気にすることはないだろう
2020年に入るとOnePlus、Realmeの2社がインドのスマートTV市場に参入を始めた。どちらもOPPOと関係の深いスマホメーカーだ。OPPOは日本でもスマホを販売しているが、OnePlusはさらにハイスペックなモデルを海外で展開している。一方Realmeは逆にコスパに優れたスマホを新興国を中心に展開しているのだ。
このように次々とスマホブランドのTVがインドで発売になっている。日本でもこれらのTVが欲しいと思う人もいるだろう。数年内にインドの家電量販店のTV売り場は、まるでスマホの販売コーナーのようにスマホメーカーのTVばかりが並ぶようになっているかもしれない。
さてインドでTVを販売しているメーカーの中にはちょっと面白い名前もみられる。たとえばコダックだ。コダックといえばカメラやフィルムで老舗のメーカーだが、いまではデジタル製品を多数出している。そのコダックがインドでスマートTVを販売しているのである。もちろんコダックという圧倒的な認知度を誇るブランドを盾に販売数を伸ばそうとしているのだろう。コダックのTV、日本でも出したら意外と売れるかもしれない。
数十年前までパソコンブランドとして有名だったコンパックの名前を憶えている人はいるだろうか。コンパックはHPに買収されて今は消滅してしまったが、そのブランドの権利だけは今も生き続けている。インドではコンパックの名前を付けたスマートTVが年内に登場予定といわれている。インドでは今でも老舗のIT製品メーカーのブランド力が強いということなのだろう。もう何十年も見ることのできなかったコンパックのロゴのついたスマートTV、発売されたらちょっと見てみたいものだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000128523/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏