AI技術を応用したMRI検査が、従来の方法と同等以上の結果をもたらすことが放射線治療専門家による盲検法によってわかった。そのシステムは、通常の半分から1/4の時間で画質を損なうことなく良好なMRIスキャン結果を出すことが可能であり、待ち時間とそれにともなうコストを減らすことが期待できる。
FastMRIは2015年にNYU(ニューヨーク大学)で開始したプロジェクトで、今からちょうど2年前にFacebook AI Research(FAIR、フェイスブックAI研究所)との共同研究になった(未訳記事)。NYUの医療および画像処理の専門知識がFAIRのAI専門技術と合わさった結果、共同研究は大きな成果をあげた。
背景にある考え方は、実は単純だ。MRIの撮像には必要なデータ量や撮影する角度に応じて15分から1時間くらいかかる。これは患者にとって非常につらい時間であり、巨大でうるさい機械の中で身動きせずにいなければならない。もちろんこれは、1台の機械が1日にスキャンできる人数が限られ、コストも待ち時間も多いことを意味している。
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FastMRIのチームは測定データの一部が本質的に冗長であり、よく訓練された機械学習システムならもっと少ないデータから情報を補完できるという理論を立てた。この場合の膝のMRIスキャンは非常に秩序正しく、多くの場合に予測が可能であり、かつAIが学習するためのデータが膨大に存在しているために実現できる。
過去2年間、チームは臨床放射線医師が従来のMRI画像と、AIがはるかに(約75%)少ないデータから生成した画像を比較することで研究を行った。どちらがどちらの画像かはもちろん知らされず、1カ月以上間隔があけれらた。
結果は極めて有望なものだった。
研究の結果、放射線医師の評価に有意な差は見られなかった。MRI画像が従来方式によるものかAI生成であるかによらず、医師は同じ異常や病変を見つけた。参加者全員が、AI利用のMRIの方が従来方式より全体的品質が高いと評価した。6人中5人の放射線医師が、どちらの画像がAIを使って生成されたものか正しく判別できなかった。
AI生成画像が全体的に通常画像よりも高く評価されたのは興味深いが、ただ1人の医師だけはどちらがどちらであるか、偶然以上の確率で指摘した。
「AI生成と従来型MRIとの間で『ノイズ』の量とタイプがわずかに異なることを、1人の放射線医師が認識した可能性がある」と論文の共著者の1人であるFAIRのLarry Zitnick(ラリー・ジトニック)氏が語った。私はAIがどうやって「より良い」画像を作るのか興味を持ったところ、ジトニック氏が詳しく説明してくれた。
「AIは以前の膝MRI、すなわち典型的な膝がどう見えるかを学習しているため、ノイズやその他の人工生成物を除去することによってMRIの画質を向上させることができる」とLarry Zitnick氏は語った。「例えば、ホワイトノイズはAIにとってランダムパターンに見えるので再現する方法を学習するのが難しい。しかし、人間の膝はどの患者も似ているので学習で再現するのが容易だ。その結果AIが膝を再現するとき、ノイズ(学習が困難)を減らし、構造(学習済み)が強調される」。
この研究にはいくつか但し書きがつく。例えば、現時点では膝についてのみ有効であることを示している。しかし、次は脳のスキャンで実験する予定であり、脳やほかの部分でうまく「いかない」と考える理由はない。
またこの研究で使用したデータは、実際に現場で使われているものと厳密には同じではなく、スキャン量の少ないデータというのは、従来方式のスキャン結果からデータを削除したもの(AIバージョンをオリジナルと比較しやすくなるため)であり、初めから少ないデータをスキャンしたものではない。しかし、MRIの性質上、情報を削除することと初めからデータを収集しないことはほとんど同じなので、実際には問題にならないかもしれない。それでも病院としてフルスキャンしないためには、一定の確証が必要だ。なぜなら、その時がMRIを撮る唯一のチャンスかもしれないからだ。
この研究は、実際に急を要する患者がいる医療現場で、この方法を実際に使えるようにするための重要一歩だ。もしこれが可能になれば、患者が機械の中で過ごす時間を著しく短縮できるだけでなく、放射線医師は診断の回転率が高くなり、多くの患者を救えるようになる。
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