ブロックチェーンを活用した国際送金ソリューションを提供する米Ripple(リップル)は8月18日、オンラインによる事業戦略説明会を開催した。Rippleの国際事業部門シニアディレクター吉川絵美氏が登壇し、改めてメディア向けにRippleの概要を紹介。日本市場における戦略など今後の展開についてプレゼンテーションを行った。
「価値のインターネット」(Internet of Value)
米国サンフランシスコに本社を置き世界各地9都市に拠点を構えるRippleは、金融、テクノロジー、規制の3セクターからの人材を確保し、グローバルなソフトウェアペイメントに関する取り組みを行っている。現在、従業員は450人を超え、半数以上が技術者という。Rippleが提供する国際送金ソリューションは、世界の300以上の金融機関が採用している。
2012年創業のRippleは、2019年末にシリーズCラウンドの資金調達を行い、評価額100億ドル(約1兆円)の企業となった。両社はユニコーン企業から、未上場・創業10年以内・テック企業・評価額100億ドル以上という4条件を満たし、デカコーン企業となった。
Rippleは、「価値のインターネット」(Internet of Value)をビジョンに掲げ、ブロックチェーン技術を活用するB2Bソフトウェア開発企業。インターネットによって世の中は自由に情報やデータのやり取りが行えるようになったように、Rippleはブロックチェーンの活用によってお金や価値を自由にやり取りできる世界を目指す。
説明会冒頭に吉川氏は、世間で混同されているRippleとXRPの違いについ解説を行った。XRPは暗号資産で、よくRipple(XRP)と表記あるいは呼称されるが、正しくはXRPが暗号資産の正式名となっている。Rippleは暗号資産XRPおよび分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)を活用した国際送金ソリューションを開発する企業名およびシステムの呼称とした。
ちなみに、暗号資産XRPとその分散型台帳技術であるXRP Ledgerは、オープンソースソフトウェアプロジェクトであり、Rippleは開発者コミュニティの一員として参加している立場という。
国際送金の現状と問題
人の動きやビジネスのグローバル化が加速する現在、世界は移民人口の年間成長率が9%に及ぶという。また、先進国の1/3の中小企業が海外との取引を行っており、それによりレミッタンス、いわゆる小口送金が急増し、年間の国際送金の総金額が6000億円を超える規模に成長。個人や中小企業の国際送金は爆発的に増加しており、総金額は過去30年で13倍になったと、Rippleは説明する。
そんな市場規模でありながら、既存国際送金の現状は決済に数日かかりかつ遅延は日常で、送金に関わる金融機関が複雑な上に非効率な処理システムにより高コスト、また地域によっては信頼性が低く、高いエラー率と不確実性が潜んでいるという。ある統計では国際送金の約6%がエラーで返ってくるというデータもある。
これらは、海外から送られてくる仕送りなどに頼って生活をする途上国の移民の家族にとっては、非常に深刻な問題となる。たとえば、200ドルを国際送金で送ると平均14ドル程度の手数料(7%)が発生する。これらコストの総額は、年間300億円にもなる。
ちなみに、2015年の国連サミットでは、この国際送金のコストを2030年までに3%未満に引き下げるという目標が掲げられたものの、現状はまったく目標に及んでいない。日本は世界的に見て、特に国際送金コストが高い国のひとつとなる。現在、国際送金は銀行経由と送金専門事業者経由の2通りの方法があるが、銀行経由による国際送金コストは南アフリカに次いで世界で2番目に高い国という(14%~11%程度)。
その理由は明らかで、現在、国際送金に使われるシステムが古く、数十年前に作られた非効率な方法をいまだに利用していることが課題として挙っている。
簡単に説明すると、国際送金における既存の仕組みで海外の銀行に送金をする場合、送受金先の国に中継地点(コルレス銀行と呼ばれる中継銀行)を経由しなければならない。また、コルレス銀行に口座(ノストロ口座)を開設する必要がある。ノストロ口座には、送金先の法定通貨を入金する必要もある。
コルレス銀行に口座を開設せずに、取引先銀行に立て替えてもらう決済方法もあるものの、いずれも国際送金の実現にはさまざまな準備と資金を必要とする。送金先によっては銀行をいくつも中継させる必要もあり、都度、手数料の発生や為替の影響を受ける。
さらに、これら銀行間のやり取りはSWIFT(国際銀行間通信協会)という送金メッセージングシステムで指示をしている。SWIFTは一方向のバケツリレーによる伝言ゲームのようなもので、相互運用に難がある。どこかでリレーが止まった場合は、その都度伝言リレーをたどり調べることになる。また、各地で経由する金融機関の営業時間にも左右されることから、送金には時間が掛かり遅延も発生しやすい。この仕組みからは、送金元は、いつ着金したのかもわからないという不透明さも抱えている。
これらが、既存の国際送金の手数料が高額であり時間が掛かる理由になっている。
このような問題をブロックチェーンの仕組みを活用して解決するのが、Rippleの国際送金ネットワークソリューションRippleNetになる。
RippleNetでは、送受金する銀行間をダイレクトにつなぐため、コルレス銀行等中継地点を不要にし、シングルステップかつリアルタイム取引が可能になる。これまで数日かかっていた国際送金が数秒で完了する。また、双方向メッセージング機能により一方向のバケツリレーの問題を解決。これにより、国際送金のスピード・決済リスクの最小化・透明性を確保し、銀行間の相互運用を実現する。
RippleNetによる国際送金取引
Rippleは2015年に、異なる台帳または送金ネットワーク間で通貨など価値の移動を行うためのプロトコル「インターレジャー・プロトコル(Interledger Protocol。ILP)を提唱した。その後ILPは、オープンソースソフトウェアとして公開されており、現在W3C(World Wide Web Consortium)によって国際標準化が進められている。
IPLをベースとするRippleNetは、共通APIを提供することで銀行間を統合できる。RippleNetに接続された銀行は、標準化された送金ネットワークにより統合された送金経験が得られ、国際送金向けに合理化されたリアルタイムでの低コスト送金の実現が可能になる。
RippleNetによる国際送金取引では、銀行は双方向メッセージング機能により、送金情報について直接やり取りが可能になる。いうなれば既存のSWIFTによるメッセージングは手紙の郵送だとすると、RippleNetはLINEのようなものだと吉川氏は語る。
この双方向メッセージング機能により、送金に関する個人情報や取引情報がリアルタイムでやり取りが行われ、互いに確認が取れた段階で、サブレジャー間で一元的な即時決済が実行され、わずか数秒で送金が完了する。RippleNetでは、この即時決済の部分にIPLを使っているという。
オンデマンド流動性(ODL)と暗号資産XRPの役割
さらにRippleは、送金の最適化のために暗号資産XRPを使ったオンデマンド流動性(ODL。On-Demand Liquidity、旧xRapid)という仕組みも提供している。
ODLによる国際送金では、中間で媒介通貨(ブリッジ通貨)として暗号資産XRPを使用する。ODLでは送金する国側でいったん法定通貨が暗号資産取引所でXRPに交換され、また受け取り側の取引所でXRPを現地の法定通貨に交換されるという手段をとる。それにより、各金融機関が現地の法定通貨を事前に調達する必要がなく手数料を最小限に抑えることができ、取引の承認も数秒で完了することから迅速かつ効率的に決済できる。送金は瞬時に行われるため、暗号資産のボラティリティの影響を受けることも少ないという。
ちなみにODLによる国際送金は、すでに欧米からフィリピンやメキシコなどへの送金経路に導入されており、今後、順次ODLを拡大していく計画であると吉川氏は説明する。
また、吉川氏はXRPが送金に適した暗号資産であることをビットコイン(BTC)と比較する。XRPは、決済にかかる時間がわすが3秒程度、取引手数料も圧倒的に低く、1秒間に1500件の取引が処理できる圧倒的なスケーラビリティの優位性を説いた。それが、国際送金にXRPを利用する理由という。
Rippleの事業戦略と、日本市場で急増する移民送金ニーズへの対応
国際送金の市場にはさまざまなタイプの送金があるが、Rippleは事業戦略としてその中でも低額・高頻度の送金にフォーカスを当てていくという。従来の国際送金は大企業の高額送金がメインプレイヤーだったが、Rippleは個人や中小企業の海外送金、国境を越えたEコマースやマーケットプレイスに注目している。この分野は摩擦も多く課題も大きいが、最も成長拡大している。Rippleの国際送金ソリューションがこれらの課題解決に貢献できると見ている。
また、Rippleはこれまでの送金プロバイダーに取って代わり事業を行うのではなく、あくまでも送金をより効率良くするために国際送金ソリューションを提供し、インフラパートナーとして金融機関を支援していくという。そのために、RippleはODLの普及に注力していくことを明らかにしている。
日本市場においてRippleは、急増する移民送金ニーズに対応していく。
日本における国際送金ニーズは、少子高齢化による労働不足から外国人労働者が増加しており、労働者が母国へ送金する件数が急増している。また、海外への業務アウトソーシングも増加し、コロナ禍によりその増加は加速しているという。Rippleは、これらに対応するために、現在、日本市場へのODLローンチに取り組んでいる。日本からベトナムやフィリピンなど、主要送金国への接続にフォーカスを当てているという。
RippleはSBIグループとの合弁会社SBI Ripple Asiaを設立し、日本およびアジアにおける「価値のインターネット」の実現を目指しているが、吉川氏はSBIグループのSBIレミットがすでに国際送金サービスにRippleNetを活用している導入事例を紹介した。SBIレミットは、タイのサイアム商業銀行およびベトナムのTPBankと協業で、RippleNetを活用したタイおよびベトナムへの国際送金サービスを提供しているという。
日本の国内送金・決済インフラ
吉川氏は、さらに日本の国内送金・決済インフラの問題についても言及する。日本は、公正取引委員会が「全銀システム」や「CAFIS」など金融インフラシステムにおける非競争的慣行を問題視していることを挙げた。従来の高コストかつ低い利便性、中央集権型の仕組の金融インフラが、フィンテックのイノベーション等を阻んでいる現状があることから、これらを見直さなければならい時期が来ているという。
Rippleは日本市場に対する戦略として、RippleNetの技術を活用した送金の仕組みにより、国内送金においても飛躍的かつ効率化・低コスト化を図る。また同様のインフラによって国内外の送金の一元化を目指すという。国内外においてもRippleNetが有効であることを強調した。
国内外の送金の一元化については、内外為替一元化送金プラットフォーム「Money Tap」を紹介。Money Tapは、SBIホールディングスの子会社であるマネータップ(およびSBI Ripple Asia)が開発するスマートフォン向けチャージ不要の銀行送金アプリ。24時間365日のリアルタイム送金を実現している。Money Tapを金融インフラとして連携することで、全銀ネットワークなど既存インフラと比べて安い手数料を実現し、金融機関の接続負担を軽減できるという。Money Tapには、住信SBIネット銀行、スルガ銀行、三井住友銀行ほか、30社を超える銀行・金融機関が出資している。
また、PayPay、LINE Payとも業務提携を行っている。両社は、スマホ決済サービスのチャージにおいて、Money Tapを金融インフラとして連携する。(対応する)銀行口座からチャージをする際にMoney Tapを経由することで、リアルタイムチャージが可能になり、ここでも既存インフラと比べ安い手数料を実現する。
オープンソースのユニバーサルな送金ID「PayID」
2020年6月に発表されたRippleの新しい取り組み「PayID」についても説明があった。
PayIDは、単一の規格で従来の金融関連サービスと新しいフィンテックを融合させ、あらゆる業界の企業を支援する、オープンソースのユニバーサルな送金ID。GoPay、Blockchain.com、BitPay、Brave、Flutterwave、Mercy Corpsなどの業界のリーダー企業らとグローバルアライアンス「Open Payments Coalition」を結成し、協業によるPayID開発を行っていく。米FinCEN(金融犯罪捜査網)の要件とFATF(金融活動作業部会)勧告の両方を満たすため、包括的なトラベルルールに準拠するソリューションも提供するという。
またPayIDは、銀行口座、銀行支店コード、クレジットカード番号などよりも認識しやすいIDを使用し、あらゆる送金ネットワークでの送受金を可能にするという。PayIDにより、利用するプロバイダーを問わず、メールアドレスで家族や友人にメールを送るのと同じように、「user$domain.com」といった形式のPayIDにより、簡単に送金が可能になる。
Rippleはこれらの技術を活用し、ビジョンに掲げている「価値のインターネット」の実現に向けて、着実に前進していることがわかった。日本においても、いよいよ低価格かつ迅速な送金サービスの実現が見えてきたのではないだろうか。
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- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/08/23/ripple/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Pyonta Takahashi