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オーディオテクニカ意欲作、初の「完全ワイヤレス+ノイズキャンセル」イヤホン「ATH-ANC300TW」

オーディオテクニカも「TWS+NC」(完全ワイヤレス+ノイズキャンセル)へ参入

現在ワイヤレスイヤホン、Bluetoothイヤホンといえば、左右のハウジングをつなぐケーブルすらない「完全ワイヤレス」(TWS、True Wireless Stereo)タイプがトレンド。そしてイヤホン界隈の次なるトレンドと目されている機能が、環境雑音を低減させる「ノイズキャンセル」(NC、Noise Cancel)。TWSにNCが加われば鬼に金棒、トレンドの最先端といっていい。

しかし、「TWS+NC」の実現には技術的な困難が伴う。一般的なワイヤードイヤホンは、音に関する機構(ドライバー/振動板)とアコースティックな処理を行うための空間がハウジング内部の大半を占めているが、TWSイヤホンはそこにBluetooth SoCを中心とした基板/レシーバー、リチウムイオンバッテリーなどの電源、さらにはタッチセンサーやボタン用の空間が必要になる。そのうえNCとなると、環境雑音を拾うためのマイク、その逆位相の音を生成するための高性能プロセッサも搭載しなければならない。

今回取り上げる「ATH-ANC300TW」は、オーディオテクニカが初めて手がけたTWS+NCイヤホン。数多の制約がある中で、NC性能のみならず音質面でも高い水準に到達した意欲作だ。同社商品企画担当の京谷氏に話を訊きつつ、「オーテクならでは」のTWS+NCイヤホンの実像に迫ってみよう。

オーディオテクニカ初のTWS+NCイヤホン「ATH-ANC300TW」。

「ヒアスルー」が耳にしっくりする理由

ATH-ANC300TWは、オーディオテクニカのノイズキャンセル機能を搭載したヘッドホン / イヤホンシリーズ「QUIET POINT」に属す製品。シリーズ初となる完全ワイヤレスタイプにして同社NC技術の粋を集めた意欲作だ。

NCには、「フィードフォワード」と「フィードバック」を併用するハイブリッド方式を採用。フィードフォワードとは、ハウジングの表側に設置したマイクで雑音を拾い、鼓膜に到達したときどのような音になるかを演算により予測、ノイズが最小になるよう逆位相の音を作り出す方式。フィードバックとは、鼓膜に近いハウジングの内側にマイクを設置し、鼓膜に届く直前のノイズを集音して逆位相の音を作る方式だ。それぞれ一長一短あるため、両者を組み合わせるハイブリッド方式はNC性能を引き出すための上策といえる。

しかし、マイクをハウジングの表と内に設置して一丁上がり、というほど甘くはない世界。どのようなマイクを採用するかはもちろん、特にフィードバック側のマイクはハウジングのどこに、どの角度で取り付けるかなどの細かい配慮によってNCの効きは変わってくる。ATH-ANC300TWの場合、マイクは音声通話と「ヒアスルー」機能 ― 外音取り込み機能、再度ボタンをクリックするまで一時的にヒアスルー状態にする「クイックヒアスルー」もある ― にも利用されるため、その使いこなしが製品全体の完成度を左右するというわけだ。

この点についてオーディオテクニカの京谷氏に話を訊くと、「MEMSマイクと呼ばれる小型マイクの中でも、オムニマイク(無指向性マイク)という種類を採用している」とのこと。特定方向からの集音に長けたマイク(ビームフォーミングマイク)も検討したが、そのためには2基以上のマイクを配置する必要があり、イヤホンサイズが大きくなってしまうのだそう。「スペックや周波数特性などを吟味し、高性能小型MEMSオムニマイクを採用することで、小型化と通話性能、ヒアスルー効果の両立を狙った」(京谷氏)というから、まさに計算づくだ。

作り込みの事例として興味深かったのは、そのヒアスルー機能。「目指したのはイヤホンを装着していない感覚。耳内の反響音などの影響もあり、集音した音を通常の出力にただミックスするだけでは聞こえ方が不自然になる」(京谷氏)とのことで、聴感上のテストを繰り返したことが耳にしっくりする聞こえ方につながっているという。しかも、外音を自然な印象で聞かせつつ人の話し声や車内アナウンスが聞き取りやすくなるよう、独自チューニングしたフィルター(音声データに一定の処理を行うソフトウェア)を使っているという。

細かい気配りがオーテク流

ATH-ANC300TWに用意されたNCのモードは、「Airplane」と「On The Go」、「Office/Study」の3種類。NC効果の強弱ではなくパラメーターの違いであり、個人的にはエアコンの風の音すら聞こえなくなる「On The Go」を執筆時に重宝したが、自分の好みと使用シーンに応じて選択すればいいだろう。

それにしても、NCの効果もさることながら自然な聞こえ方がいい。装着してNC機能をオンにすると、すっとノイズが減るが、ガクッと減るのではなくフェードアウトするように減るのだ。ヒアスルー機能もまた然り、周囲の音が一気に入ってきて驚くことがない。

NCモードの切り替えは専用アプリで行う。ヒアスルーはLow/Medium/Highの3レベル。

肝心の音質だが、DLC(Diamond Like Carbon)コーティングが施された5.8mm径ダイナミックドライバーの効果だろう、すっきりとしつつも緻密な印象。NC効果で低域がノイズに埋もれることがないから、透明感ある中高域と本来あるがままのバランスで楽しめる。試聴は主にaptXで接続したAndroidとの組み合わせで行ったが、アコースティックギターは倍音成分が豊富に感じられ、アルペジオのきめ細やかさも好印象だ。

DLCコーティングが施された5.8mm径ダイナミックドライバーを採用。

ところで、ノイズキャンセリングには集音した波形に対し逆位相の音を重ねるアクティブ方式と、イヤホン自体の形状でノイズを遮音するパッシブ方式があり、多くの製品がそのふたつの異なる技術を組み合わせることでNC効果を獲得している。今回取材した京谷氏も、「ノイズキャンセルの効果はパッシブの遮音性ありき。利用するときは装着位置と向き、刺さり具合に注意してほしい」とのこと。イヤホンの試聴会は開催困難な世の中だが、しっかり装着したうえで聴けば、このイヤホンの自然なテイストに気付くはずだ。

対応コーデックはSBC、AACとaptX(画面はAndroid版)。アプリにはキーアサインをカスタマイズする機能も。

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カテゴリー:ハードウェア

タグ:オーディオテクニカ レビュー ノイズキャンセリング

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