●What’s ビザールウォッチ?
<今月の時計>
Vol.20
CORUM
ゴールデンブリッジ
時計も見た目が9割
時刻を知るための道具として生まれた時計だが、今は何よりも“見た目”が重視される時代になっている。時計を超えた存在であるビザールウォッチの中でも、とことん“見た目”にこだわったモデルが存在する。
この1~2年で、ルッキズム=外見主義という言葉を見聞きするようになった。身体的特徴に対して過度な価値を持つということで、“SNS映え”や“盛る”という言葉も、ルッキズムの延長線上にある。何かに対して美しいと感じる感覚が文化を育ててきたのは事実であるが、逆に外見主義をこじらせて深く傷つき、思い悩んでしまうとなれば問題だろう。
時計業界でも、深刻(?)なルッキズムに陥っている。とある調査によると、時計購入時に最も気にするのは「デザイン」なのだそう。確かに常に身に着ける時計は、自分が気に入ったルックスであるべきだ。どれだけ精度が高くても、どれだけブランドの歴史があっても、それだけでは選ばれない。“時計も見た目が9割”なのだ。
しかしこれは時計関係者、特に高い性能を追求するムーブメント設計者にとっては、あまり嬉しくない状況である。時計を超えた存在であるビザールウォッチも、見た目はユニークなものが多いが、その実、時計機構自体も極めてハイレベルである。奇妙なルックスと卓越した技術というアンビバレンツなバランスこそが妙味なのに、ルックスばかりに注目が集まると、本当の魅力に辿り着かなくなってしまうのだ。
そんな悩みを40年以上も前に抱えていたのが、時計師ヴィンセント・カラブレーゼ。彼は凄腕の時計師でありつつ、高級時計店でセールスの仕事も兼務していた。そこで「顧客はデザインのみで時計を決める」という残酷な事実を知る。時計師としてはムーブメントの価値も理解して欲しいのに、ダイヤルやケースバックに隠れてしまい、その魅力を伝えられない。それならムーブメントが主役となり、購買意欲をかきたてる時計を作るしかない! 彼は奮起し、ユニークな時計機構を作り上げた。それこそが、一本橋の上に時計機構を組み込むというムーブメント「ゴールデンブリッジ」だった。
通常であれば丸い地板にセットする歯車や香箱(動力ゼンマイ)、脱進機などのパーツたちを、極小の面積しかない一本橋の上に全てを組み込むためには、パーツの加工精度を高め、全てを小型化するしかない。これだけの高度なムーブメントを、一人の時計師だけで作るのは不可能である。そこでヴィンセント・カラブレーゼは、コインをスライスしてケースにしたり、鳥の羽をダイヤルに使ったりと、独創的な時計作りを得意とする時計メーカーの「コルム」に協力を依頼する。そして1980年に「ゴールデンブリッジ」の機構が完成。市販がスタートする。
それから40年たった今でも、ゴールデンブリッジは作られ続けている。技術進化によって、パーツがいくつか刷新されたが、長さ30㎜の3層のブリッジで構成されるムーブメントの設計思想は変わらない。ムーブメントを主役とする時計なので、ケースは両面だけでなく左右もシースルー構造になっている。時計のどこからでも独創的な時計技術を堪能できる時計は、ヴィンセント・カラブレーゼが作りたいと願った、“ムーブメントの価値が目に見える時計”なのだ。
この時計が40年以上も作り続けてられているのは、言葉を尽くさなくてもメカニズムの凄さが目に見え、しかもその魅力をデザインが邪魔していないから。ビザールウォッチ界随一の古典は、ルッキズムの壁を打ち壊す稀有な存在であるのだ。
CORUM
ゴールデンブリッジ
手巻き、18KRGケース、ケース幅34㎜。4,500,000円。
問GMインターナショナル ☎03-5828-9080
篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★★★5
コンセプト★★★★★5
プライス★★★3
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000129284/
- Source:デジモノステーション
- Author:篠田哲生