著者紹介:Andrés Vior(アンドレ・ボワール)氏はintive(インティブ)のVP兼アルゼンチン担当マネジャー。コンピューターエンジニア、ブエノスアイレス大学(UBA)卒。アルゼンチン・ソフトウェア・コンピューターサービス企業会議所(CESSI)会員。
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今年6月、ドナルド・トランプ大統領はH-1B就労ビザの発給を一時停止する大統領令に署名した。このビザの対象者には、ソフトウェア開発に従事する専門職も含まれる。
シリコンバレーや、テック企業が集まるその他の拠点において、労働者の71%が外国人であることを考えると、この大統領令により、スタートアップは物流面とビジネス面の両方でいくつもの困難に直面することになる。
ニアショアリングは、パンデミック前から選択肢の1つとして存在していた。しかし、就労ビザの発給停止にリモート革命の進行が重なってその緊急性が増し、企業はニアショアリングをソリューションとして再考し始めた。その結果、今回のビザ発給停止は、企業はソフトウェア開発能力を海外から調達する好機となっている。
ニアショアリングとは、距離または時間帯が近い地域から人材やチームを採用することだ。ニアショアリングにより、米国企業は、優れた人材が見つかりやすく、就労環境や給与もより良好な近接地域からサービスを調達できる。これにより、企業はコストを最大80%削減できる可能性があり、同時に、柔軟で自由が利く、より良いキャリア開発オプションを従業員のために用意できる。
ニアショアリングはビザ発給停止への実際的な対応策であるだけでなく、企業にとって長期的な人材採用方法になる可能性がある。ニアショアリングの具体的な手順について、以下に説明してみようと思う。
リモートチームの基礎を築く
パンデミックの最中でも開発者の需要が下がることはなかった。多くの企業がサービスのオンライン化に向けてチームデジタルプラットフォームを構築、運用、最適化するチームを必要としているためだ。ビザの発給が停止されたということはつまり、米国外の企業が開発者ニーズを満たせること、特に、企業が問題を新たな方法で解決するのを助けるフレッシュで多様なスキルセットを持つ外国人のテック人材を調達する方法があることを意味している。
かつては、米国に移住してアメリカンドリームをつかむことが外国人プロフェッショナルたちの目標だった。しかし、その流れは変わった。パンデミック前から、米国は「外国人が住みやすいと思う国ランキング」で順位を46位から66位に落とし、移住先として人気を失いつつあった。コロナ後にはその人気低下が加速する恐れがある。
世界中がかつてなくオンラインでつながっている現在、企業も個人も、世界トップレベルのテクノロジースタック、話題の企業との付き合い、世界トップレベルの研究など、米国が提供するチャンスから移住せずして恩恵を受けられる。そういう意味では、ニアショアリングとは、外国人メンバーが、母国の快適さと世界的な大手企業とのつながりという、両方のいいとこ取りができる環境だと言える。
リモート勤務へのシフトが進んでいることは、メンバーが互いに離れた場所で働いていてもチームが十分に機能することを実証している。リモート勤務の方が生産性と幸福度が向上する、という研究結果もあるくらいだ。世界的にリモート勤務へのシフトが進む中で、ニアショアリングは現在、適切かつ有益な方法だとみなされるようになっている。ビザ発給停止をうけてニアショアリングを選択する企業は、この波をうまくとらえて活用し、リモートチームの働き方に関するベストプラクティスを確立する機会とすることができる。例えば、コミュニケーション、進捗状況の追跡、休暇、開発計画などに関する方針を、新たな状況と明確な経営理念に基づいて決めることができるだろう。そうすれば、開発者たちとのパートナー関係をスムーズに築くことができる。
ニアショアリングの別の利点は、柔軟なチームが、スタートアップのスケールアップモデルに役立つことだ。さまざまな国にいる開発パートナーと協力できるため、より広いネットワークを構築でき、それぞれの現地市場でより早く成長できる。ゼロから海外展開する場合とは異なり、ニアショアリングを行っていれば、どんなに小さくてもすでに現地に拠点があるため、それを足掛かりとして海外展開を進めていくことができる。
投資家の注目を集める
スケールアップモデルの場合と同じく、H-1Bビザの発給停止がきっかけで、ニアショアリングは海外の開発スタジオと戦略的なパートナー関係を築くための現実的な方法となっている。オフショアリングとは対照的に、ニアショアリングのパートナーは、時差がなく、より緊密かつ迅速に動けるため、オフショアリングの場合よりも重要な役割を任されることが多い。アジャイル開発のように、製品やサービスのテスト、反復、修正という一連の工程を短い期間にまとめて何度も繰り返すことが必要なスタートアップにとって、そのような敏しょう性は非常に重要だ。これがアウトソーシングのチームになるとアウトプットが限定的になるし、フリーランサーは複数社のプロジェクトを同時に抱えるため、企業のビジョンに深く共感して働くことはない。
ニアショアリングであれば、スタートアップは特定のビジネス分野やテクノロジーに関する専門性を備えたパートナーを見つけることによって、市場投入までの時間を短縮できる。システムをゼロから構築するのではなく、バージョン2.0を投入するところから始められる。なぜなら、より幅広い選択肢から専門家を選べるということは、業界の仕組みをすでに理解しているチームと提携できる可能性が高まることを意味するからだ。ニアショアリングのパートナーには、さまざまな産業分野に関して、企業が直接採用する人材では知り得ないレベルの膨大な知識がある。そのため、ニアショアリングのパートナーという心強い相手がいれば、企業は優秀なチームをゼロから集めるという難しい仕事にわざわざ取り組む必要はない。
資金調達の面でも、ニアショアリングが持つ同時性、敏しょう性、即応性はスタートアップにとって追い風となる。投資家は、ニアショアリングを行っている企業は、挑戦しようとしている潜在市場について現場からインサイトを得ており、リモートチームを活用して成功するビジネスモデルを持つ企業だと考える。世界全体が完全デジタル化へと向かう今、成長を促進するリモート開発をすでに導入しているスタートアップは間違いなく投資家を振り向かせることができる。
チームの多様化を促進する
ニアショアリング先を探す米国企業がまず目を向けるのは中南米だ。中南米は米国から近く、インターネットの普及率も向上しており、高度なスキルを持つ開発者が非常に多くいるため、ニアショアリング先として非常に魅力的な場所である。
ニアショアリングではダイバーシティ(多様性)が中核的な役割を担うことも注目すべき点だ。現在、テック業界ではヒスパニック系従業員の割合が突出して低く、全体のわずか16.7%にすぎない。物理的に離れているとはいえ、中南米にニアショアリングすれば、異なる社会的・経済的背景を持つ人材を社内に迎えることになり、業界全体における彼らの存在感が目に見える形で向上し、平等化への確かな基盤が据えられる。
一部の研究でも、多様性はチームの創造性に影響を与え、企業の利益増加にもつながることが証明されている。
さらに、ニアショアリングは、より自然な形で多様性を向上させる。外国人のチームメンバーはキャリアを築くために、自宅、友人、家族を後にする必要がない。海外で働いたことがない人にとって、米国に移住するというのは気が遠くなるような大仕事だろう。生活水準が変わり、新しい文化に慣れなければいけないのだから、当然だ。ニアショアリングであれば、慣れ親しんだ場所で働くことができるため、ビジネスプロセスのスピードに慣れるまでに必要な時間も少なくて済む。地元の人間関係から感情的なサポートを得ることもできる。これは今のような状況において、職場でもプライベートでも従業員の福祉を守るために重要なことだ。
適切なパートナーを見つける
適切なニアショア先を見つける鍵はリサーチだが、スタートアップには、候補地の場所や現地のエコシステムについて詳細な分析を行う時間もリソースもないことが多い。適切な人材をニアショアで見つけるには、ニアショアリングパートナーに、現地人開発者のスカウト、調査、彼らとのコミュニケーションを担当してもらうことが、最も実際的である。
適切なニアショアリングパートナーを見つけるには、該当する業界における実績があり、ニアショア元にあるスタートアップから良い評価を受けているかどうかを確認することが必要である。そのパートナーが拠点とする地域で高い知名度を持っているかどうかも重要なポイントだ。インターネットでそのパートナーのプレスリリースや、主催イベント、ウェブサイトの全体的な内容をチェックして、顧客からの依頼が途切れない、評判の良い企業かどうかを確認する。
適切なニアショアパートナーが見つかったら、希望する場所に置くチームが文化的な面で何を必要としているかを理解するために、彼らから情報を収集する。ニアショアパートナーはあなたの会社のいわば開発パートナーになるのだから、彼らを自社の研究開発部門として活用できる。彼らは、あなたの会社をテック面でサポートし、適切なタイミングで適切なチームを編成できるようアドバイスし、スタックや手法について指針を与え、チームが生産的に働ける環境を整えてくれる存在だ。対照的に、フリーランサーを使うことにはリスクがある。なぜなら、現地の具体的なニーズを把握することができるとは限らないからだ。文化面での理解が欠けると、パートナーを見つけることはできない。代わりに、あなたのスタートアップが真に目指すものではなく、表面的な部分だけに注目するベンダーが見つかってしまうので、注意が必要だ。
相性が良いニアショアパートナーが決まったら、詳細な契約と秘密保持契約をすべてのチームメンバーと締結することが必要だ。ニアショアリングの場合、ある程度は相互に信頼することが必要だが、スタートアップのライフサイクルの中で極めて初期段階にあるこの時点では、自社のプロセスやデータが競業他社に漏れないようにすることが重要である。ニアショアパートナーの財務状況が健全であり、長期的なモデルに耐えうる状態であることも確認しておく。それに応じて、職責や成果物を測る基準をサービスレベル契約で定義する。これらの手続きをすべて完了したら、いよいよ、有意義で長期的なパートナーシップの構築に専念できる。
新しいノーマルに順応する
新型コロナウイルス感染症により、人材採用はリモート優位の領域になった。従来型の採用方法は見直されており、生産的に働くために必ずしもオフィスに出勤する必要はないことに企業も気づき始めている。実のところ、外国人従業員のビザ費用や管理費が不要になることで、企業のコストは大幅に削減される。
リモート勤務に最適化された慣行を時間の経過とともに企業が確立していけば、ニアショアリングはさらに増えていくだろう。人々は、キャリア開発、福祉、倫理すべてが守られるチームで働きたいと願っており、ニアショアリングは、生活環境を変えずにそれらすべての条件を満たすことができる。
創業初期からニアショアリングを行うスタートアップは、採用制限に苦しむ大手テック企業と競合することになるかもしれない。パンデミックがいつ終息するかわからない今、ビザの発給再開の時期を予測することは難しいため、テック企業は別の方法で開発チームを構築しなければならない。スタートアップには、ワークフローを大幅に変えることなく製品のリモート開発アプローチを調整できるという強みがある。また、より幅広い人材を引きつけるフェアで革新的な職場を整えるという意味でも、スタートアップは大手企業の先を行っている。
開発者は仕事のチャンスをつかむために自分の文化から離れる必要がなく、企業は多様性から恩恵を受けられるニアショアリングは、双方にとって有益だ。結局のところ、H-1Bビザ発給停止は、テック業界おいて、世界中のリソースを活用して最善の成果を生み出すという真のグローバル化を促進したのかもしれない。
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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
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(翻訳:Dragonfly)