DNX Venturesは8月9日、新たに3億1500万ドル(約330億円)のファンドをクローズしたと発表した。同社はは2011年に設立され、カリフォルニア州サンマテオと日本の東京を拠点に、これまでに100社以上のスタートアップ企業に投資してきた。
同社はDraper Venture Networkのメンバーでもあり、クラウド、エンタープライズソフトウェア、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティング、セールス&マーケティングオートメーション、金融、リテールなどの分野に注力している。DNX Venturesが投資する企業は通常、シードプラスまたはシリーズAの資金調達を行っており、「DNXの典型的な投資サイズは、スタートアップのステージに応じて100万ドル(約1億600万円)から500万ドル(約5億3000万円)の範囲である」とマネージングディレクターのQ Motiwala(Q・モティワラ)氏はTechCrunchに語る。
モティワラ氏によると第3のファンドのリミテッド・パートナーは、金融機関、銀行、大手コングロマリットを含む30以上のLPが含まれているという(記事後半にリストを掲載)。同社は昨年、新型コロナウイルスの感染蔓延を始まる前からファンドの開発に着手していた。
同氏は「2008年の世界金融危機や2001年のドットコムバブル崩壊など過去のマクロ経済危機では、起業家が緊急に必要とされるソリューションを構築しながら、ビジネスをより効率的にする方法を模索・革新を続けてきたことを踏まえ、B2Bのスタートアップ企業の見通しを楽観視している」とコメントしている。
例えば同社は、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティング、ロボティクスなどの分野に注力しているが、新型コロナウイルスの大流行により、これらの技術はより重要性を増している。さらに、リモートワークの大規模な増加は企業が技術インフラを適応させる必要があることを意味し、同社のポートフォリオ企業である Diligent Robotics(ディリゲントロボティクス)社が開発したロボットは、病院の看護師不足に対応するのに役立つ。
「私たちの全体的なテーマは、建設、輸送、ヘルスケアなどの伝統的な産業のデジタル化であり、セールスやマーケティングの自動化など、顧客へのリーチをより良くする方法に常に関心を持ってきました」とモティワラ氏は説明する。「そして最後の部分は、どのようにして自動化を通じて社会やビジネスをより良く機能させるかということであり、それらはロボット工学やほかのテクノロジーのようなものが必要になるかもしれません」と続ける。
米国と日本のB2Bスタートアップの違いと類似点
モティワラ氏はDNX Venturesが9年前に設立された理由の1つとして「日本は企業への投資が非常に強い」ことを挙げた。同社は米国と日本にオフィスを構え、B2Bにフォーカスしながらファンドの規模を拡大してきた。同社のデビューファンドは4000万ドル(約42億円)、2016年に発表された2回目のファンドは1億7000万ドル(約180億円)を超えた。同氏は「3回目のファンドで調達した3億1500万ドルは同社の予想を上回るものだった」と述べている。
「これまで米国のB2Bスタートアップは、日本のスタートアップよりも早い段階でグローバル展開を考える傾向があった。しかし、いまではそれは変わり始めており、日本のB2B企業の多くもさまざまな国への進出を視野に入れて起業している」とモティワラ氏。また、日本のB2B企業の多くは、米国やヨーロッパではなく、インドネシアやマレーシア、シンガポールなどの東南アジア諸国や台湾に進出する傾向があるという。
もう1つの違いは、米国のスタートアップ企業は技術やIPへの初期投資が大きいのに対し、日本では収益を上げて早期に収益を上げることに重点を置いていることだ。これは、日本のベンチャーキャピタルのエコシステムが米国に比べて小さいことが影響しているかもしれないが「この傾向も変わりつつある」とモティワラ氏は言う。
DNX Venturesの投資先企業が海外進出に成功した例としては、機械学習や予測数学のモデリングを利用してマルウェアからデバイスを守るウイルス対策ソフトを開発している米国のCylance(サイランス)が挙げられる。DNX Venturesは、Cylancの欧州と日本での事業立ち上げを支援した。日本側では、DNXの第1ファンドから投資したソフトウェアテスト会社のSHIFT(シフト)が東南アジアで「驚異的に好調」であると同氏。
「投資先企業をブッシュするわけではありませんが、グローバル化という点では米国のスタートアップが日本に進出したい場合やその逆の場合に、はタイミングが合えば支援しています。我々は両地域にチームがあるというメリットを生かしたいと考えています。我々がこれまで目にしてきたのは、米国企業が日本での販売のためにチャネル・パートナーシップを結ぶことが多くなってきていることです」と同氏を説明する。
「日本の企業に同じことを示すのは難しいですが同時に私たちが気付いたのは、日本の企業は米国への進出よりも、フィリピンやシンガポールに進出して事業を成功させているということです」と締めくくった。
【Japan編集部追記】
DNX Venturesの3号ファンドに以下の日本企業が出資している。
- IHI
- ENEOS
- 京セラコミュニケーションシステム
- 小松製作所
- Sansan
- ジェーシービー
- CCCマーケティング
- セコム
- セブン&アイ・ホールディングス
- 大和証券グループ
- 高千穂交易
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構
- 東京海上日動火災保険
- 東芝テック
- 日鉄興和不動産
- 浜松いわた信用金庫
- 東日本旅客鉄道
- 日立製作所
- 日立ソリューションズ
- ファーストブラザーズ
- ポーラ・オルビスホールディングス
- みずほ銀行
- 三井不動産
- その他機関投資家
また3号ファンドではすでに以下に日米の会社への投資を実行済みだ。
日本ファンド
- アダコテック(異常をほぼ100%検出する検査・検品AIを開発・提供)
- アルプ(サブスクリプション契約管理・請求管理・決済基盤SaaS「Scaleabse」を開発)
- イエソド(人事組織情報の管理を含むSaaS統制プラットフォーム「YESOD」を開発)
- スタディスト(ビジュアルSOPマネジメントプラットフォームを提供)
- スペースリー(VRコンテンツの制作編集、 用管理を簡単にするVRクラウドソフトを開発)
- チュートリアル(クラウド型RPA「Robotic Crowd」を提供)
- テックタッチ(PC画面上に操作案内を表示させ企業のシステム利活用/DXを推進)
- TableCheck(飲食店向け予約・顧客管理SaaSとユーザー向け飲食店検索・予約ポータルサイトを提供)
- Resily(組織改善クラウド・OKRコーチサービスを提供)
米国ファンド
- Creadits(広告クリエイティブに特化したグローバルプラットフォームを提供)
- Zūm(子供向け自動車配車サービスを提供)
- Diligent Robotics(看護師補助ロボットを開発)
- Banzai(イベント集客サポートプラットフォームを提供)
- Paystand(B2B企業向け決済処理のサービスを提供)
画像クレジット:MR.Cole_Photographer / Getty Images
[原文へ]
(翻訳:TechCrunch Japan)