ドナルド・トランプ大統領は米国時間9月10日、「中国企業ByteDance(バイトダンス)がTikTok(ティクトック)を売却する2020年9月20日という期限は延長しない」と述べた。交渉に圧力をかける発言だが、買い手と合意に至らなければTikTokは米国で使用できなくなる。
「どういう結果になるか直にわかる。閉鎖するか、売却するかだ」とトランプ大統領はアンドルーズ空軍基地で大統領専用機に搭乗する前に語った(CNN記事)。売却が複雑であることを受けて、一部のアナリストは売却期限が延長されるのではないか、との見方を示していた(BARRON’S記事)。
トランプ大統領は2020年8月、ByteDanceが「米国の国家安全を脅かす動きをとるかもしれない」という「信頼できる証拠」があると主張して大統領令に署名した。ByteDanceはTikTok売却でMicrosoft(マイクロソフト)と交渉した。他のいくつかの米テック大企業も、人気ビデオ共有アプリを所有するByteDanceと交渉に入ったと報道された。しかし売却を妨げるかもしれない要素も浮上した。
Z世代で最も人気のあるソーシャルメディアアプリの1つとしてTikTokは大きなユーザーベースと価値を有しているにも関わらず、買い手にとってその魅力を損なうようないくつかの問題がある。
例えば、TikTokを含むByteDanceのアプリで使用されているソフトウェアコードは、北京にあるByteDanceの本社でエンジニアやデベロッパーによって開発されている。これにより、ByteDanceからTikTokの切り離しは技術面でかなり複雑なものになっている。もう1つの問題は、中国政府が2週間前に改定し、人工知能技術にも適用されるようになった輸出規制法だ。TikTokでは、AIベースのアルゴリズムによってユーザーの関心や閲覧履歴に基づいて新たなコンテンツを表示する。これがTikTokの価値ある部分であり、成功の秘訣だ。中国商務部が輸出規制法の改定を行った後、ByteDanceは新規制を「厳密に守る」と述べたが、これはTikTokのパーソナライズしたレコメンデーションとAIベースのテクノロジーを事業売却に含めることができなくなる可能性があることを意味し、そうなると買い手にとっては魅力が薄れる。
マイクロソフトに加えて、TikTokの買収にはTwitter(The Wall Street Journal記事)やGoogle(The Wall Street Journal)、Oracle(CNBC記事)といった大手企業が名乗りを上げている。Walmart(ウォルマート)すらもマイクロソフトとの提携という形での買い手候補だ。
TikTokのセキュリティも、いくつかの国で調査対象となっている。例えばTikTokは「国家安全・防衛上の懸念」があるとしてインドで禁止された一連の中国企業アプリの1つであり、フランスのデータセキュリティ監視当局CNILによる査察も行われている。
TikTokはそうした主張に対抗している。2020年8月に同社はトランプ政権を提訴し、8月24日付の声明で「TikTokが国家安全上の脅威だという政権の姿勢に強く反対する」と述べた。
声明の中でTikTokは、データを米国とシンガポールに保存し、またTikTokの米国ユーザーのデータとDouyinのようなその他のByteDanceのプロダクトのデータを分けることで「TikTokユーザーのデータのプライバシーと安全を守るための並々ならぬ対策をとってきた」と述べた。
ByteDanceのDouyinアプリの海外版であるTikTokは2017年以来、インターネットカルチャー、特にZ世代の間で確固たる地位を築いた。米国だけでユーザー1億人を抱え、1500人を雇用している。
Instagram(インスタグラム)を含むいくつかのアプリは似たようなショートビデオ共有機能でTikTokの代わりになろうとしているが、リードするようなサービスはまだ出てきていない。実際、分析会社Sensor Towerの新たなレポートは、TikTokが2020年8月に非ゲームアプリとして世界で最も多くダウンロードされ、6330万回以上インストールされたと指摘している。TikTokユーザーはかなりこのアプリにはまっており、VPNプロバイダーのExpressVPNでは、米政府が2020年7月にTikTok禁止を検討していることを明らかにしてからトラフィックが急増した。
一部のサイバーセキュリティ専門家は、TikTokのデータ収集プラクティスは広告収入に頼っている他のソーシャルメディアアプリと似ている、と話す。しかし、中国企業が所有しているがゆえに、中国政府のデータ要求に屈することを余儀なくされえるかもしれない、ということが大きな懸念となっている。中国のサイバーセキュリティ法はByteDanceのような中国企業に政府のユーザーデータ要求に従うことを求めている。ByteDanceは中国政府がTikTokユーザーデータにアクセスすることに抵抗する、と述べていた。
TikTokに関するセキュリティの懸念はまた、ウォールストリートジャーナル紙の8月の報道後に高まった。その内容は、MACアドレスと呼ばれる識別番号を含め、アプリがユーザーから収集できるデータの量を制限するためのAndroidオペレーティングシステム機能を回避しているというものだ。同紙によると、TikTokは11月に識別番号の収集をやめたが、調査によりTikTokのユーザープライバシー保護に関する疑念が出てきた。同紙へのコメントで、TikTokは「他の同種のアプリ同様、当社は絶えず出てくるセキュリティの問題に対応するために常にアプリをアップデートしている」と述べた。
反TikTokの姿勢をとっているのは共和党員だけではない。報じられたところによると、Joe Biden(ジョー・バイデン)氏の選挙陣営は2020年7月、スタッフに仕事用とプライベート用のデバイスからTikTokを削除するよう求めた。
米政府がTikTok調査に本腰を入れたのは、Charles Schumer(チャック・シューマー)上院議員(民主党、ニューヨーク州選出)と、Tom Cotton(トム・コットン)上院議員(共和党、アーカンソー州選出)が当時のJoseph Maguire(ジョセフ・マグワイア)米国家情報長官にTikTokが米国のユーザーのデータを中国当局に提出することを強制されるかどうかを調べるよう求めたことに端を発している。
TikTokの広報担当はTechCrunchに電子メールで送られてきた声明の中で、「当社はエンターテインメント、自己表現、コネクションのホームであるがゆえに1億人もの米国の人から愛されている。当社はあらゆる家庭に喜びを、当社のプラットフォームで制作する人に将来にわたって意義あるキャリアを引き続き提供することを約束する」と述べた。
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カテゴリー:セキュリティ
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(翻訳:Mizoguchi)