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モータージャーナリスト川端由美が体験!元祖”ぶつからないクルマ”新型「レヴォーグ」

中島飛行機に端を発するスバルの安全へのこだわり

 スバルといえば、アイサイト。そう連想するほど、スバル車には「クルマが自分で止まる機能が搭載されている」というイメージが定着している。実際、エントリーを担う「XV」や「インプレッサ」でも、アイサイトが標準装備されている。そして今回、待ちに待った日本専用モデルである「レヴォーグ」の新型車に最新アイサイトが搭載されると聞いて、ひと足早く体験すべく、茨城県にある日本自動車試験場(JARI)に向かった。

 真夏の空が広がるテストコースに、新型「レヴォーグ」が行儀よく整列している。SUVブームの真っ只中にあっても、スバルはあえて、ワゴン・スタイルを維持している。ボンネットを開けると、アイサイトと並ぶスバルのアイコンである水平対向エンジンも健在だ。1.8リッター直噴ターボエンジンと新型リニアトロニックを組み合わせて搭載することで、最高出力が+7psの177psに、最大トルクが+50Nmの300Nmに、それぞれ向上している。あえてウンチクを並べるなら、水平対向エンジンではピストンが互いに振動を打ち消し合う上に、重心が低いため、走りの魅力を重視した設計であることは一目瞭然だ。が、歯に衣着せぬ物の言い方をすれば、イマドキの流行には一切と言っていいほど追従していない。売れ筋商品の開発という観点から見れば、SUVが人気の時代だし、水平対向エンジンは物理学的には理想的だが、なにかとコストが高い。世界的に見ても、水平対向エンジンを量産しているのは、ポルシェとスバルくらいなものだから、個性的過ぎて、汎用品がなく、何もかも自社で専用開発するハメになるからだ。

2020年8月20日にベールを脱いだ2代目「レヴォーグ」の目玉は、最新のアイサイトとフルコネクテッドの搭載だ。2014年に発売された初代「レヴォーグ」は、国内専用モデルとして話題になった。5代目「レガシィ」がアメリカ向けに大型化したことを受けて、国内専用に開発された「レヴォーグ」が事実上、「レガシィ・ツーリングワゴン」の後継となっている

 それでもあえて、スバルがこだわりを捨てないのには理由がある。「安全なクルマを作る」ことを追求し続けるためだ。「きちんと走って、曲がって、止まる」というクルマとして基本的な走行性能を担保することと、事故の低減は、自動車メーカーにとって永遠のテーマであり、当たり前のことに思えるが、現実的には、流行りのクルマを低コストで作るために、現行の安全基準を満たしていれば十分という考え方の方が主流だ。しかしながら、中島飛行機に端を発するスバルにとって、「安全性」の概念は、単に基準を満たせばいいというものではなく、常により安全なクルマを作ることを目指している。だからこそ、クルマの基本性能にもこだわるし、アイサイトのような先進安全機能を標準装備することも先進的に取り組んでいるのだ。

株式会社SUBARU 商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャー・五島賢(ごしま さとし)さんは、「中島飛行機に勤務していた祖父から数えて親子3代でスバルに勤務。体の中にスバルブルーの血糖が流れています」と自負する。「レガシィツーリングワゴンで培ってきた血統を受け継ぐ日本のためのクルマを作るという思いがあります。スバルのグランドツーリング思想である『より遠くに、より早く、より快適に、より安全に』の継承です。もう一つは、レヴォーグに期待されるクルマの新しさです。『継承と超・革新』と、東京モーターショーで発表した背景には、そのような思いがあります」(五島氏)

 冒頭から、スバルを援護するような発言をしたが、世界シェアでみれば、1%程度というスバルの立ち位置からすれば、あえて”スバルらしさ”という個性を磨いて生き残る道を極める方が潔いと思うからだ。

フルコネクテッドと走りの質感の向上に隔世の感がある

 前口上はこのくらいにして、早速、新型「レヴォーグ」を試してみよう。昨年の秋に、東京モーターショーで見たプロトタイプと比べると、いくぶんプレスラインの鋭さが抑えられたものの、量産モデルになってもほぼ印象が変わらない。最大のトピックスは、新デザイン言語となる“BOLDER”を採用した点だ。従来までの“Dynamic × Solid”では、スバル・ブランド全体のメッセージを伝えてきたが、“BOLDER”では、「より大胆な」という英語の意味の通り、個々のモデルの個性を大胆に打ち出す意図がある。これまで控えめな印象が強かったスバル車としては、自己主張している、と言っていいだろう。ヘキサゴングリルとコの字型ランプを強調したフロントビューや、四つ角に張り出したタイヤが力強さを演出し、前足でぐっと踏ん張りつつ、リアエンドに向かって収束するキャラクターラインのおかげで、力強く走り出すかのような塊感を醸す。実は、コの字型のランプはスバル自慢の水平対向ボクサーエンジンを象徴しており、力強く張り出したタイヤはこちらもスバルの真骨頂であるAWDを象徴している…なんてウンチクを知らなくても、素直に頼もしさを感じるスタイリングに仕上がっている。

四つ角にタイヤが踏ん張るワイドなフォルムを採用し、サイドのキャラクターラインがリアエンドでぐっと集約するスタイリングによって躍動感を演出している。

 見た目の印象以上に、乗り込んだときの方が大きな進化を感じる。ドアを開けるときの質感からして、ぐっと質感が増している。運転席に滑り込むと、大振りなシートに包まれるような頼もしさを感じる。身長171cmで痩せ型の筆者が座ってもお尻や太ももをすっぽりと包み込んでくれる上に、サイドサポートのホールド感が高く、体幹をまっすぐに整えて座れる。ワゴンスタイルゆえに、SUVやミニバンと比べると、低い位置に座るにも関わらず、運転席からの見晴らしがよく、後席やサイドの視界もしっかり確保されている。

ワゴン・スタイルながら、切れ味のあるリアエンドのデザインによって、スポーティな印象を持つ。リアゲートにあるスバルのバッジに体の一部をかざすと、さっと自動で開く「ハンズフリーオープンパワーゲート」を採用。スクエアで使いやすそうな荷室は、現行モデル比で開口部の幅を300mmも拡大している。フロア下には、さらにサブトランクが備わる。

 実のところ、素直に身を預けるだけで正しいドライビング・ポジションを取れるクルマはそう多くはない。コンパクトカーでアップライトに座る姿勢は乗り降りがしやすいが、体が保持しにくい。SUVやミニバンでは見晴らしはよいものの、ハンドルを抱え込むドラポジになりがちだ。デザイン性を重視してAピラーを寝かせた結果、ミラーの位置を後ろにすれば、左右の視認性は下がってしまう。その点、新型「レヴォーグ」では、視界を確保するために覗き込んだり、左右に首をぐっとふったりする必要がない上に、座りながら体がふらつくようなことがない。町中のちょい乗りなら適当なシートでも十分だが、長距離ドライブではドライビング・ポジションが正しく取れると、圧倒的に疲れにくい。

大振りなフロントシートはサイドサポートが張り出しており、各所のサポート感が高い。フロントシートに大柄な人が座っても、後席の居住空間に十分な余裕がある。リアシートもリクライニングに対応するなど、ロングドライブでの居住性を重視した設計だ。

 まだナンバープレートが付く前の試乗会ということもあってテストコース内の限られたシーンでの体験ではあるが、ハンドリング路に加えて、高速道路に模した周回路を使ってアイサイトの体験が組み込まれていた。ハンドリング路では、加減速と旋回とハンドリングを組み合わせたコースが設定されており、現行モデルと新型を比較することができた。

アイサイトをオンにすると、モニターにグリーンのランプが灯る。ステレオカメラ、前後のレーダー、超音波センサーなどの車載センサーが働いて、白線を認識したり、周囲にクルマがいないかなどを確認する。ウインカーを出すと、死角にクルマがいないかなどを確認し、車線変更を行う。120km/hまでの高速走行時に、前のクルマに追いついてしまった場合、自動で車線変更も行うアクティブレーンチェンジの機能も搭載する。

 2014年に初代「レヴォーグ」が発売された当時にべた褒めした筆者としては、新型があまりにもいいクルマになっていて、現行モデルが霞んで見えるほどの大きな衝撃を受けた。初代「レヴォーグ」が登場した当時、ハンドルを切ったときやアクセルを踏み込んだときの挙動が素直で、自分の手足の延長にあるようなリニアなドライブフィールに感心した記憶がある。それなのに、それなのに…新型「レヴォーグ」を試してから、現行モデルに乗ると、自分とクルマの間に一枚紙が挟まっているようななんとも言えない曇った気持ちになってしまう。それくらい新型の走りが、全速度域で向上しているのだ。コンフォート、ノーマル、スポーツの3種類のドライブモードのうち、コンフォートなら乗り心地がいいのは当然だが、むやみに柔らかくするのではなく、しゃきっとした切れ味のいい乗り味はそのままなのだ。スポーツに切り替えると、鋭い加速感と足回りがカチッとして、切れのいい乗り味になるのはもちろん、同時にほどよく粘る味わい深さと制御のしやすさも持ち合わせている。 

死角にクルマが存在すると、モニターに警告が表示される。ドライバーに異変があることを察知すると、自動で速度を落として、停車まで行う。もちろん、ドライバーによる解除も可能だ。そのほか、渋滞のような低速走行時にはハンズオフで停車までアシストして、再発進にも対応する。前方のクルマに追従する機能はもちろん、3D高精度マップを搭載しているため、カーブ手前や高速の料金所でも自動で減速する。

 新型「レヴォーグ」では、操舵フィーリングが大幅に向上している点が大きい。プロドライバーがするように、ステアリングホイールに手のひらを当てて押し出すような操舵をすると、その違いがさらによく分かる。手応えがしっかりとしていて、手の延長にクルマの鼻先があるような素直さだ。ボディの剛性感が高く、足回りもしっかりと路面をいなすから、全体に操舵してから鼻先を曲げていくまでの動きがリニアにつながっていて、運転していても気持ちいい。急にハンドルを切っても、粘ってロールした後に足をぐっと伸ばして路面を蹴るから、姿勢の変化にボディがついてくる印象だ。ボディ剛性を高めた結果として、足回りのセッティングに幅をもたせることができたため、スポーティな走りと乗り心地を向上の両立に成功している。

初代「レヴォーグ」では、1.6リッター水平対向エンジンを採用していたのに対して、新型ではターボ付き1.8リッター直噴水平対向エンジンを搭載。新型リニアトロニックとの組み合わせによって、最大トルクが+50Nmの300Nmに増強されたことに加えて、1500rpmという低いエンジン回転数でも最大トルクを発揮するため、町乗りでの扱いやすさが格段に向上した。最高出力も+7psの177psまで強化しつつも、リーン燃焼技術の採用によって、燃費性能も16.6-16.5km/Lと現行モデルより好燃費を達成している。

 高速道路に見立てたアイサイトの体験でも、ボディ剛性の高さや操舵フィールの向上といった素性の良さは生かされている。これまでも先進的な安全性を搭載してきたアイサイトだが、今回、さらに新機能が追加されている。最大のセリングポイントは、自動車専用道路では自動でレーンチェンジが可能になり、50km/hまではフルハンズオフが可能になったことだ。さらに、高精度のデジタルマップを使うことで、高速道路の料金所などでの原則も自動で行うことができる。自動車メーカー側としては、先進安全運転支援という言い方に留まるが、実際にテストしてみると、「高速道路ではほぼ自動運転」という印象を受ける。テスト車の運転席に座って、アイサイトをオンに設定すると、ハンドルに軽く手を添えておけば、前のクルマに自動でついていく。自分で設定したスピートに対して、前のクルマが遅くなると、センサーで周囲を検知して、斜め後方の死角まで検知して、追い越しが可能なら自動でレーンチェンジしてくれる。 前のクルマがいなくても、カーブに差し掛かると、自動で減速してくれる。3D高精度地図を搭載しており、ETC料金所に見立てた場所では、これまた自動で減速してくれる。アイサイトではステレオカメラやミリ波レーダーといった高度なセンサーに加えて、「準天頂衛星も使ってるんだよ」なんていえば、子どもたちのウケも良さそうだ。

コンフォート、ノーマル、スポーツの3種の走行モードから選べるドライブセレクトトモードが搭載されている。モードごとに、エンジン、ステアリングホイール、サスペンション、AWD、アイサイトの介入、エアコンの快適性まで最適な組合わせがプログラミングされている。ステアリングホイールにある+ーのパドルシフトを操作して、スポーティに操ることも可能だ。

 さらに、フルコネクテッドなのも見逃せない。コックピットの前に鎮座する12. 3インチディスプレイでは、通常の2眼モードと地図モードに加えて、「アイサイトが何を見てるかがわかる」アイサイトモニタリングモードなる表示が選べて、子どもたちにどのセンサーがどこを見て警告してくれるかなんて説明するのにぴったりだ。中央に鎮座する11.6インチのセンターディスプレイからは、エアコンやナビなどの車両情報がコントロールできる。さらに、ドライバーの様子を見るドライバーモニタリングシステムが搭載されており、よそ見や居眠り運転の可能性を警告してくれる。

2種の大型ディスプレイを採用したデジタルコックピット。伝統的な2眼メーターパネルとナビ画面とアイサイトモニタリング・モードが切り替えられる12.3インチディスプレイと、11.6インチのセンターディスプレイでは車載エンタテインメントやエアコンなどの調整が可能だ。

 全方位でイタレリツクセリな新型「レヴォーグ」だけれど、今、流行りのSUVでもなければ、ハイブリッドでもない。愚直なまでに質実剛健で、清々しいまでに流行なんて気にしていない。レベル2の自動運転に当たる先進安全機能として、最新のアイサイトを搭載する点はイマドキの機能といえなくもないが、それもスバルとしては基本的な安全機能だと信じているから、オプションではなく、標準で装備されている。なによりも、町乗りからグランドツーリングまでの幅広い実用性と質実剛健な走りっぷりというクルマの本質を重視した機能があれば十分満足という、名より実を取る人にとってはこれ以上の選択はないだろう。


text : 川端由美

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