なんだか世間が騒いでるようだけど、使える場所がほとんどないため誰もがスルーしている、これが日本の5Gサービスの現状だろう。「5Gって高いんでしょ」「スマホの種類も少ないようだし」とネガティブなイメージばかりが先行しているのが実情だ。しかし海外ではもはや5Gスマホは1万円台の低価格な製品も登場している。「5Gなんて無縁のもの」なんて時代は終わりをつげ、誰もが5Gを使う時代がすぐにやってくるのだ。
シャオミのスマホは5万円以下
海外では激安5Gスマホが登場
新型コロナウィルスの影響もあり、日本の5Gのエリア拡大は大幅に遅れている。それでも高輪ゲートウェイ駅周辺でドコモの5Gが使えたり、上野にあるauのおしゃれなショップは5Gが完備されているなど、5Gが使える場所は少しずつ増えている。
5GスマホもKDDIから出てきたシャオミの「Mi 10 Lite 5G」が5万円を切る価格で販売されており、十分手の届く価格の製品も少しずつ出てきている。しかし海外、特に中国では5Gスマホの格安化が一気に進んでいるのだ。今年頭には2000元、つまり約3万円を切る5Gスマホが登場して「すごいことになった」と中国の消費者をうならせた。ところがそれから1年もたたないうちに、今度は1000元(約1万5500円)を切る激安5Gスマホが登場したのだ。
Realmeの新製品「V3」は定価999元(約1万5000)円ながらも3つのカメラを搭載した実用的なスマホだ。ディスプレイサイズは6.5インチと大きく、解像度は1600x720ピクセルと他社の低価格スマホよりも若干低いが十分使える性能だ。カメラは1300万画素に200万画素のマクロと200万画素の深度測定用を備える。カメラスペックもやはり価格相応といったところだろうか。しかしバッテリーは5000mAhあるので1日フルに使うことができる。4Gの格安スマホとあまり変わらない性能なので、4Gスマホを買うくらいなら5G対応のRealme V3を買ったほうがお得というわけだ。
ファーウェイ制裁のカギを握る
台湾のチップセットメーカー
Realme V3はどうしてこんなに安いのだろうか。それは低価格なチップセット(SoC)を採用しているからだ。SoCにはスマホを動かすCPUやメモリ、各種インターフェースが備わっている。車でいえばボンネットを開けて見えるエンジンとその周辺の機器が統合されたものがSoCだ。SoCはこれ1つ搭載すればスマホがほぼ完成するといえる「スマホの心臓部」なのだ。
そのためSoCのコストはスマホの製造原価の中でも最も高い。つまりスマホの販売価格を大きく左右するのがSoCなのである。10万円を超えるハイスペックスマホは当然のことながら高性能なSoCを搭載しており、そのSoCの価格も高い。一方低価格なスマホは性能を落とした価格の低いSoCを搭載しているのだ。車のエンジンには排気量や性能でいろいろな種類があるように、スマホのSoCにもたくさんのバリエーションがあるのである。
スマホのSoCではクアルコムが大きなシェアを握っている。クアルコムはアップルと係争を行ったことから名前を聞いたことのある人もいるだろう。しかし台湾のメディアテックもクアルコムを追い上げようとコスパのいいSoCを次々と送り出しているのだ。そのメディアテックのSoCの1つ、「Dimensity 720」は低価格スマホ向けに開発されたもので、Realme V3はこのSoCを搭載することで999元の激安価格を実現できたのだ。
そして今、このメディアテックにスマホ業界が大きな注目を寄せている。アメリカによるファーウェイに対する制裁は日本でも多くの報道がされており知っている人もいるだろう。実はファーウェイも子会社(ハイシリコン)がSoCの開発を行っている。「Kirin」と呼ばれるSoCだ。Kirinの最上位モデルはCPUの速度やAIの制御、ネットワーク周りの性能、省電力などに優れており、ファーウェイのスマホの多くが採用している。
しかし9月以降、アメリカの制裁によりKirinの外部委託先メーカーが製造を行うことができなくなった。つまりファーウェイのハイスペックスマホだけではなく、多くのモデルに搭載するSoCが調達できなくなるのだ。すなわちファーウェイはスマホの外側だけは作れるものの、心臓を手に入れることができなくなる。事実上、ファーウェイはスマホを製造できなくなってしまうのである。
そこでファーウェイが目を付けたのがメディアテックだ。アメリカの制裁は汎用品には及ばないため、メディアテックが販売するSoCをファーウェイが購入して自社のスマホに搭載しようというわけだ。すでに2020年に入ってからメディアテックのSoC「Dimensity 800」を採用したスマホの数が増えている。同SoCはDimensity 720の上位モデルで、それを搭載した「Enjoy Z 5G」は1699元(約2万6000円)と価格も比較的安い。
ファーウェイとしてはスマホの継続的な製造ができ、なおかつスマホの値段を下げることができることからメディアテックとの提携はいいことばかりと見える。しかし自社でSoCを作ればAI機能や5Gモデム周りの性能を最大限に引き上げることができるのに対し、メディアテックの市販のSoCを使う限り、スマホの性能は他のメーカーのDimensity搭載スマホと変わらなくなってしまう。つまり他社との差別化も難しくなるし、ファーウェイの来年以降のスマホの性能がスペックダウンしてしまうかもしれないのだ。
スマホの低価格化は誰にも止められない
日本でも5Gスマホが手軽に買える時代に
SoCを手掛ける大手メーカーは他にサムスンがある。またアップルもiPhoneやiPadには自社製のSoCを搭載する。だがそれ以外にも新たなメーカーがチップセットの製造に乗り出している。中国のUNISOCはメディアテックよりさらに安価なチップセットを開発し、5Gスマホの価格をさらに下げようとしている。UNISOCはもともと中華格安タブレットなどにSoCを供給していたSpreadtrumを前身としているので、低価格SoCの開発ノウハウを持っているのだ。一時期はあのPC向けCPUの王者、インテルと5Gモデムで協業も行っていた。
そのUNISOCの5G向けSoC「T7510」を搭載したCoolpadのスマホ「X10」は1388元(約2万1000円)の低価格5Gスマホだ。Realme V3ほど安くはないが、カメラは2100万画素+500万画素+200万画素とこちらが勝っている。
中国では5Gの新規加入者が毎月1000万人レベルで増えており、その大半が低価格なスマホを求めている。日本でもキャリアの「iPhoneバラマキ販売」が終わり、誰もがiPhoneを買う時代は過去のものとなった。これからはコストに見合ったスマホを消費者が選択する時代がやってくる。UNISOCはそんなコスト意識の高いユーザー向けのスマホに特化したSoCを開発しているのだ。
もちろんハイスペックなスマホが欲しい人も多いだろう。要はスマホも車のように「軽自動車から大衆車、高級車やスポーツカー」を消費者が自由に選べるようにこれからなっていくのだ。今年4月に発売された「iPhone SE」はCPUを除けばスペックは2-3年前のモデルでありながらもヒット商品になったのは、普通に使うのならば価格相応の安いスマホで十分と考える消費者が増えているからだ。
来年になれば5Gが使えるエリアは今よりもっと増えている。4Gのスマホでも十分、という人も来年か再来年になれば5Gスマホに買い替えたくなるはずだろう。どうせ買い替えるなら格安5Gスマホや激安5Gスマホにしておけば、より長い期間使い続けることができるのである。海外で次々と登場する低価格な5Gスマホは日本でもこれから当たり前の存在になってく行くだろう。「5Gなんて興味ない」と思っているうちに、気が付けば誰もが5Gを使う時代になっていくのだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000129409/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏