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これは売れるね!トヨタ「ヤリスクロス」は使い勝手、走り、装備がすべて良し

8月31日に発売がスタートしたトヨタのコンパクトSUV「ヤリスクロス」。販売の出足は好調とのことで、すでに多くの受注を得ているという。

そんな人気モデルの魅力はどこにあるのか? 子細に見ていくことで明らかになった、ヤリスクロスの魅力についてレポートする。

■トレンドのど真ん中に位置する新星ヤリスクロス

「これは売れるね!」。ブランニューモデルとして8月末に正式発表されるやいなや、すでに多くの受注を集めているというトヨタのヤリスクロス。実車に触れてみると、多くの人々から支持される理由がよく分かる。

まず、コンパクトなボディサイズが時流に乗っている。このところ日本では小さめのクルマがよく売れているが、全長4180mmとコンパクトなヤリスクロスは、そうしたムーブメントにマッチしている。

また、SUVという人気カテゴリーに属していることも大きい。正確にいえば、ヤリスクロスは乗用車とSUVの中間的なポジションであるクロスオーバーSUVだが、それはまさに昨今の流行り。コンパクトなクロスオーバーSUVというトレンドのど真ん中に位置するヤリスクロスは、ある意味、ヒットが約束されているようなものなのだ。

そこで整理しておきたいのが、トヨタのSUVラインナップにおけるヤリスクロスの立ち位置。トヨタのSUV軍団の中で最も小さく、リーズナブルなのは「ライズ」だが、ヤリスクロスはその次に小さい。ひとつ上のモデルは「C-HR」となる。

ただし、誤解したくないのは“ボディサイズが大きい=居住性に優れる”わけではないこと。ヤリスクロスはC-HRよりもリアシートの居住性に優れ、ラゲッジスペースもC-HRの318Lに対し、ヤリスクロスは390Lと広いから実用性が高い。そのため、ファミリーカーや遊びの足グルマとして使うなら、C-HRよりヤリスクロスを選ぶのが正解だ。

だからといって「C-HRには魅力がない」というわけでなないから面白い。C-HRの美点は、なんといってもクーペのような軽快なスタイルや、舗装路における高次元の走り。セダンに例えれば、ヤリスクロスはファミリーセダンで、C-HRはスポーツセダンといったところだろうか。

■ヤリスクロスこそ実用コンパクトカーの正統派

話をヤリスクロスに戻そう。このモデルを知る上でもうひとつ押さえておきたいのが、コンパクトハッチバックである「ヤリス」との関係性だ。両車はホイールベースを含むプラットフォームや、車体の基本構造を共有している。しかし、ボディサイズはヤリスクロスの方がひと回り大きく、リアシートもラゲッジスペースも広い。

前後シートは、ヤリスのそれに比べると居心地がいい。特にリアシートは、フロントシートとの間隔こそヤリスと同じだが、ヤリスクロスの方が後席の着座位置が20mm高くなっている。そのため、着座姿勢が適正化されて足の収まりも良くなり、座った時にしっくりくる。その上、サイドウインドウが大きく、さらにキャビン上部の絞り込みも小さいから、頭上空間がゆったりしていて開放感があるのだ。

実は、ヤリスは先代モデルに当たる「ヴィッツ」に比べて後席スペースが狭くなっているのだが、その理由は「実用性を求めるならヤリスクロスをどうぞ」といった、作り分けの上に成り立つパッケージングだから。つまり、ヤリスクロスのキャラクターは“(従来の)ハッチバックに代わる実用コンパクトカーの正統派”なのだ。

そんな視点からラゲッジスペースを見ると、ヤリスクロスのそれは単に広いだけでなく、さまざまな工夫が盛り込まれていることに納得がいく。リアシートの背もたれは一般的な左右2分割タイプではなく、40:20:40の3分割仕様になっていて、ニーズに応じてそれぞれ個別に倒せるようになっている。

また、普通は1枚のボードで構成される荷室のフロアボードは、上級グレードなどでは左右分割タイプになっていて、荷物の大きさなどに合わせてフロアをアレンジ可能。

こうしたコストや重量増をいとわない工夫は、いずれも実用性を向上させるためのアイデア。他のコンパクトカーと見比べても「おっ!」と驚く仕掛けが盛り込まれているのだ。

ちなみにラゲッジスペースは、ゴルフバッグ2セットや、“それ以上大きくなると航空機へ搭乗する際に別途料金が発生する”特大サイズ(110L)のスーツケース2個が収まるよう、さまざまな寸法を決めていったという。また、低価格帯のコンパクトSUVでありながら、電動リアゲートも用意されている。

これは、プレミアムブランドの車種を除くと、同クラスへの採用例が珍しい装備で、ライバルに対する明確なアピールポイントとなりそうだ。

■車高の低いクルマであるかのような操縦性

そんなヤリスクロスを公道で走らせてみて驚いたのは、完成度の高い乗り味だ。以前レポートしたように、サーキットを舞台にしたプロトタイプでも潜在能力の高さに驚かされたが、その際に感じた走りに対する好印象は、公道でも変わらなかった。

中でも特筆すべきは、走行中の各種挙動がとても自然なこと。車高の高いSUVは、走行時にフラフラしたり、フラつかずシャープに走れるモデルでも、足回りが硬くて路面の凹凸で上下にゆさぶられたりと、挙動が落ち着かないモデルが多い。

しかしヤリスクロスは、自然な挙動でドライバーのハンドル操作に忠実に反応してくれる上、旋回時はハンドルの舵角がピタリと決まるし、直進時のハンドル修正量も驚くほど少ない。つまりドライバーに対して、ムダな操作を求めてこないのだ。その素直な操縦フィールは、まるで車高の低いクルマを操っているかのよう。運転していて車高の高さにストレスを感じることなく、とてもリラックスしてドライブできる。

同乗者の視点から見た時の、乗り心地の良さも魅力的だ。継ぎ目や路面のうねりが多い都市高速を走行しても、車体が路面の凹凸で揺さぶられることはなく、フラットな姿勢がしっかり保たれている。

これが優れた乗り心地に直結していて、リアシートに座っていて快適に移動できるのだ。

■想像を超える頼もしさの本格4WDを採用

ちなみに今回は、特設のオフロードコースでヤリスクロスの4WD性能も試すことができた。そこで分かったのは“最低地上高こそ170mmと大したことはないが、アプローチアングルやデパーチャーアングルは意外に確保されている”ということと、“スタックしても案外、脱出しやすい”ということ。

ヤリスクロスの4WDには、トヨタのコンパクトSUVとしては初めて、悪路での走行制御を選択できるモード切り替えダイヤルが組み込まれている。ガソリン車に搭載された“マルチテレインセレクト”の“マッド&サンド”モードや、ハイブリッド仕様に用意される“トレイル”モードは、滑りやすい路面でスタックした時などに効果を発揮。

ガソリン車

ハイブリッド車

タイヤの空転を抑え、前へ前へとしっかり進んでいく。コレは、オフロード走行時だけでなく、雪道でスタックした際の脱出にも有効な機能だから、雪国に暮らす人々やウインターレジャーを楽しむ人たちも、そのメリットを享受できることだろう。

そして最後に、ヤリスクロスで驚かされたのが、その価格設定。装備を絞った廉価グレード「X“Bパッケージ”」の179万8000円というのは脇に置いておくとして、ベーシックグレードの「X」は189万6000円、アルミホイールや本革巻きハンドル、8インチディスプレイオーディオなどを標準装備する「G」は202万円と、とても割安に感じられる。クルマ自体の完成度が高い上に安いのだから、トヨタって“大人げがなさすぎる”。

パッケージングに優れ、走りのレベルが高く、価格設定だってフレンドリー。おまけに上級車から乗り換えたユーザーをも満足させる、充実装備がおごられたヤリスクロス。トヨタが進める「もっといいクルマを作ろう」という取り組みから生まれたこのコンパクトSUVは、ライバルにとって大きな脅威となるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆Z(2WD)
ボディサイズ:L4180×W1765×H1590mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:120馬力/6600回転
最大トルク:14.8kgf-m/4800〜5200回転
価格:221万円

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドZ(2WD)
ボディサイズ:L4180×W1765×H1590mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
モーター最高出力:80馬力
モーター最大トルク:14.4kgf-m
価格:258万4000円

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドZ(E-Four)
ボディサイズ:L4180×W1765×H1590mm
車重:1270kg
駆動方式:E-Four(電気式4WDシステム)
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
フロントモーター最高出力:80馬力
フロントモーター最大トルク:14.4kgf-m
リアモーター最高出力:5.3馬力
リアモーター最大トルク:5.3kgf-m
価格:281万5000円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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