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防水性能だけじゃない、ダイバーズウォッチの必要条件【時計百識】

【腕時計の基礎知識:時計百識008】

1953年にブランパンが「フィフティ ファゾムス」を発表して以降、各社による開発競争が繰り広げられて今日に至るダイバーズウォッチ。現在ではそのデザインのみをモチーフにしたモデルも増えたことで選択肢は広がり、日常使いの時計としても使われるようになった。

とはいえ、前回も述べたように、ダイバーズウォッチとは潜水士が海中での作業を安全に行うために開発されたプロフェッショナルツール。デザインはもちろん、その性能にも厳密な条件があることを知れば、間違いなく本格ダイバーズウォッチに魅了されることだろう。

■世界の規格に影響を与えたセイコーダイバーズ

1953年に誕生した「フィフティ ファゾムス」は、今日のダイバーズウォッチの礎となる特徴を備えていた。防水性は50ファゾム(=91.45m)。ブラックダイアルに大きなインデックスをレイアウトするのみならず、回転ベゼルにもくっきりとした目盛りを配して水中での視認性を確保。また、回転ベゼルにはロック機構を備え、誤作動からダイバーの生命を守る構造になっていた。

以後、いくつものメーカーがダイバーズウォッチの開発に着手。基本的な特徴は「フィフティ ファゾムス」を踏襲したものだが、やがてひとつのメーカーの技術を手本としてダイバーズウォッチの規格が確立する。現在のダイバーズウォッチに不可欠となった数々の技術を打ち出したのが、セイコーだ。

セイコーが国産初のダイバーズウォッチを発表したのは1965年のこと。これは自動巻きムーブメントを搭載し、150mの防水性を実現したモデル。1966年から4回にわたって南極観測越冬隊員の装備品として採用され、初のダイバーズモデルでありながら高い信頼を獲得した。

▲1965年に誕生した国産初のダイバーズウォッチ「62MAS-010」。2017年には復刻モデルが限定発売されて話題を呼んだ

続く1968年には300m防水を実現した「6159-010」を発表。日本山岳会の植村直己と松浦輝夫が1970年のエベレスト登頂時に携行したモデルで、セイコーダイバーズ史にその名を残す傑作として知られている。そして1975年、セイコーは“600mダイバー”と呼ばれた「ダイバー・プロフェッショナル」をリリース。

これは世界で初めてダイバーズウォッチのケースにチタニウムを採用するのみならず、日本で初めて飽和潜水に対応したモデル。この600mダイバーこそが、世界的なダイバーズウォッチ規格に大きな影響を与えたのだ。

▲1968年発表の「6159-010」は裏蓋のないワンピース構造のケースを採用し、倍の耐水圧となる300mを実現

▲“600mダイバー”と呼ばれた1975年誕生の「ダイバー・プロフェッショナル」(6159-022)。今やセイコーダイバーズのアイコンとなっている外胴プロテクターはこのモデルで初採用された

 

■防水性能だけにとどまらない、ダイバーズウォッチの厳密な規定

ダイバーズウォッチをはじめとする防水時計は現在、ISO(国際標準化機構)とJIS(日本産業規格)においてその種類が明確に分けられている。日常生活での汗や洗顔時の水滴などに耐えられる2〜3気圧防水のものは「日常生活用防水」、水仕事をはじめ水泳や素潜りに耐えられる5〜20気圧防水仕様は「日常生活用強化防水」と定められており、これ以上の防水性を備えた時計がダイバーズウォッチに位置付けられる。

ダイバーズウォッチも、100〜200mの防水性を持ち、圧縮空気を呼吸気体とするスキューバダイビングで使用できる「空気潜水時計」と、200m以上の防水性を備え、ヘリウムと酸素の混合ガスを呼吸気体とする「飽和潜水時計」の2種類に分けられるのだが、さらにISOとJISではダイバーズウォッチの規定を11項目で定めている。

「タイムプリセレクティング装置(誤操作を防ぐ、逆回転防止機能付き回転ベゼルなど)を備えていること」「暗所で25cmの距離から時刻などが読み取れること」「3%の食塩水のなかに24時間放置しても作動すること」をはじめ、耐磁性や耐衝撃性、耐久性なども求められ、さらに飽和潜水時計においては耐ヘリウムガス性も規定されており、この規定の基となったのが、セイコーが生み出した世界初の技術。

操作性、安全性、耐久性に優れた回転ベゼルや視認性に優れたダイアルおよび針のデザイン、耐磁性を有するムーブメント、蛇腹式のポリウレタンベルトといった数々の独自技術こそが、潜水士たちの安全性向上に大きく寄与したことになる。

2020年、セイコーダイバーズは誕生から55年の節目を迎えた。これを記念してセイコーダイバーズ史においてターニングポイントとなった3モデルをアップデートした限定コレクションをリリースした。それ単体でも十分に琴線を刺激するタイムピースだが、今日のダイバーズウォッチを確立させた立役者であることを知ると、より一層魅力的に感じられるはずだ。

▲1965年に登場した国産初のダイバーズウォッチの復刻モデル。デザインをオリジナルに近づけながらも、ブルーグレーのカラーをダイアルとストラップに用いたことで、よりダイバーズウォッチ然とした雰囲気に仕上がっている。ケース素材には、一般的なステンレススチールを凌ぐ耐食性と輝きを持つエバーブリリアントスチールを採用。世界限定1100本。65万円(税別)

▲植村直己と松浦輝夫が1970年のエベレスト登頂時に携行したことで知られる1968年のモデルを復刻。防水性能を飽和潜水仕様に、ガラスをサファイアガラスへとスペックアップしていることに加え、ムーブメントには雫石高級時計工房で製造されるダイバーズウォッチ専用のハイビート・キャリバー8L55を搭載し、安定した精度を実現。世界限定1100本。70万円(税別)

▲チタン製の内胴およびプロテクター(外胴)が初採用となった1975年モデルのデザインを可能な限り忠実に復刻。その一方で、プロテクターにはセラミックスを、ベゼルの素材にはエバーブリリアントスチールを採用し、さらに純鉄製のダイアルを備えて40000A/mの耐磁性を確保するなどスペックを大幅に向上させた。世界限定1100本。45万円(税別)

>> [連載]時計百識

<取材・文/竹石祐三>

竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。

 

 

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