ライカのカメラを搭載してグローバルで一気に人気を高めたファーウェイのスマホ。しかしアメリカの経済制裁を受け中国外での販売数を大きく落としている。ファーウェイのスマホの今後の展開が見えない中、その代わりの位置を狙おうとシャオミが戦略的なスマホを発表した。
Mi 10からMi 10Tへ
シャオミの逆襲が始まった
9月30日にシャオミは新型スマホ「Mi 10T」シリーズを発表した。「Mi 10T Pro」「Mi 10T」「Mi 10T Lite」と一気に3モデルを投入。カメラやディスプレイを強化したモデルで、価格も比較的安いことから他社の秋冬モデルの大きなライバルになるだろう。
最上位モデルとなるMi 10T Proは1億800万画素カメラを搭載したことが大きな特徴だ。1300万画素の超広角と500万画素のマクロを加えたトリプルカメラ仕様。フロントカメラ画質も2000万画素と高い。ディスプレイは6.67インチ、チップセットはハイエンドスマホ向けのSnapdragon 865を採用。5000mAhのバッテリーも搭載して価格は599.9ユーロ(約7万5000円)。他社のミッド・ハイレンジクラスの価格で1億画素カメラのハイスペックフォンが手に入るのだ。
Mi 10TはMi 10T Proの最高画質カメラを6400万画素に抑えたモデル。本体カラーやメモリ構成も若干異なる。価格はさらに安く499.9ユーロ(約6万3000円)。そしてMi 10T Liteは同じサイズのディスプレイを搭載するものの、チップセットはミッド・ハイレンジ向けのSnapdragon 750 5Gを搭載。ちなみに同チップセット搭載スマホはこれが世界初となる。カメラは6400万画素+800万画素+200万画素+200万画素で、フロントカメラは1600万画素。バッテリーは4820mAhとやや容量が少ない。価格は279ユーロ(約3万5000円)の予定だ。
シャオミの2020年のフラッグシップスマホは「Mi 10」シリーズ。日本でもそのシリーズの中の下位モデル「Mi 10 Lite 5G」が販売されている。Mi 10シリーズは2020年2月に複数のモデルが発表された。サムスンやファーウェイは毎年、年明けと秋に大型の新製品を発表している。サムスンなら「Galaxy S」シリーズと「Galaxy Note」シリーズ、ファーウェイなら「P」シリーズと「Mate」シリーズだ。両社ともそれぞれ複数のモデルを発表するのが習わしだ。
シャオミのフラッグシップスマホも毎年複数発表されるものの、発表時期が一定ではなかったり、1機種のみの発表であったりと、サムスン・ファーウェイに対抗できるほどのラインナップは発表していなかった。しかし今年は「春のMi 10、秋のMi 10T」と、大きな柱の製品群を投入し、両社への対抗意識を大きくしている。
安物イメージからの脱却
カメラでファーウェイに対抗
Mi10T Proが搭載する1億800万画素カメラは、シャオミにとって初めてではなくすでに過去の複数モデルに搭載されている。2月発表の「MI 10 Pro」も1億800万画素カメラを搭載済みだ。9月発表のMi 10T Proはディスプレイサイズ、チップセットもMi 10 Proと全く同じ。カメラはMi 10 Proが4つだったので、スペック上は退化している。サムスンやファーウェイが年に2回のスペックアップを行っているのに対し、シャオミの秋モデルはマイナーチェンジに過ぎないのだ。
ではMi 10Tシリーズは何が新しいのだろうか?その1つはディスプレイのリフレッシュレート。業界最速144Hzのディスプレイを搭載している。リフレッシュレートは1秒あたり何回画面を書き換えるかという速度で、数字が高いほどスムーズな表示を可能にする。一般的なスマートフォンは60Hz程度、Mi 10 Proは90Hz。Mi 10T ProとMi 10Tはさらに高速なディスプレイを搭載している。これはゲームをするユーザにとっては見逃せない性能であり、サムスンでもごく一部の機種でしか対応していない。ゲーマー向けスマホとしてシャオミの性能は大きな魅力があるのだ。
しかしスペック以外からもシャオミが秋冬モデルをどう売ろうかとしているかが見えてくる。最近ではオンライン発表会がすっかり主流となり、Mi10Tシリーズの発表もYouTubeで行われた。スマホの新製品発表会ではスペック、特に本体サイズから説明に入ることが多いが、Mi10Tではカメラ性能に大きな時間が割かれた。もちろん1億800万画素のカメラは美しい絵を撮ることができる。しかしそれだけではなく夜景の美しさも大きくアピール。その夜景にピンク、ゴールド、ブルーのエフェクトを加える機能も説明された。写真をより美しく、より楽しく撮影できるのがMi 10Tシリーズなのだ。
星も撮影できる長時間露光、風景写真の空にカラーフィルターをかけてアニメーション化する「AI Skyscaping」、夜景に花火のアニメーションを加える機能、そして1枚の写真に自分の動きを複数写しこむ機能など、カメラのソフトウェアも大幅に進化している。前後のカメラを同時に使ってビデオが撮れる「Dual Video」はピクチャーインピクチャー撮影もできるなど、Mi 10Tのカメラ機能はどれをみても「使ってみたい!」と思わせるものばかりだ。
2021年は市場が動くいち早く仕掛けるシャオミ
カメラ性能の高いスマホの代名詞にもなったファーウェイも、アメリカの経済制裁を受けスマホ事業はこれからいばらの道を歩むとみられている。グーグルサービスの搭載もできなくなり、よく使うアプリを自由にインストールすることも難しくなった。
調査会社カウンターポイントのデータによると、ヨーロッパのスマホ市場ではサムスンが1位の座をずっとキープしている。約1年前の2019年第1四半期を見ると、2位はファーウェイで23%だった。3位は僅差でアップル21%、4位はシャオミの4%と続く。しかしファーウェイとシャオミの差は約6倍もあった。ところが2020年第1四半期はファーウェイが16%で3位に後退、シャオミは11%とし差を5ポイントまでに近づけている。ファーウェイのスマホが売れにくくなっただけではなく、シャオミのスマホがヨーロッパでも認知度を高めた結果だ。
ファーウェイは例年であれば毎年9月に秋冬フラッグシップモデル「Mate」シリーズを発表しているが、2020年は発表を遅らせるほどスマホ事業の見直しを行っている。このままいけばスマホのチップセットなど重要な部材を購入することができなくなり、ファーウェイのスマホは中国以外の市場から撤退してしまう可能性も高い。
そのファーウェイの抜けた穴に収まるのは今でも圧倒的な人気を誇るサムスンとみられているが、シャオミもファーウェイの窮地を黙ってみているわけではない。マイナーチェンジモデルに過ぎないMi 10Tを「カメラフォン」としてアピールすることで、ポスト・ファーウェイの座に就こうと猛烈なアピールを開始しているのだ。もちろん本体の仕上げも高級感を高め、所有欲を満たすことも忘れていない。
スマホの技術進化はこれからも止まらないだろう。しかし2021年のスマホ市場はファーウェイの販売数が半減以下に落ち込むことが予想されている。年間1億台以上を出荷するファーウェイの存在感が薄れるかもしれない中で、シャオミは数を出すだけではなくブランド力もつけようとMi 10Tを投入した。シャオミが出荷台数を延ばせば夢であったアップル越えも現実になるし、アップルを抜くとその上にはサムスンの姿しか存在しない。Mi 10Tはシャオミがサムスンに次ぐスマホ市場のメジャープレーヤーになるための戦略的な製品でもあるのだ。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000130351/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏