SoftBank(ソフトバンク)とMubadala Corp.(ムバダラ・コーポレーション)は、米国の商業用不動産ビジネスでの大胆な振る舞いを止めることはないようだ。WeWork(ウィワーク)の破たん後も、この2社は、7億ドル(約731億円)をREEF Technology(リーフ・テクノロジー)に投資する企業連合に参加して、同様のビジネスモデルへの投資を強化している。
リーフの前身は、駐車場向けの設備、ソフトウェア、管理サービスを提供する企業としてマイアミで創業したParkJockey(パークジョッキー)だ。同社は創業以来、基本的なビジネスモデルを忠実に守りながら、ビジョンを拡大してきた。現在も駐車場の管理サービスを提供しているが、それに加えて、クラウドキッチン、ヘルスケアクリニック、ロジスティクス、ラストマイル配送などのインフラ、さらには、使われなくなった駐車場や駐車用建造物に小売用の実店舗や体験型の消費者向けスペースを設置して有効活用する事業を展開している。
ウィワークと同様に、リーフは運営する不動産のほとんどをリースで確保し、改装してからテナントに貸し出している(またはスペース自体を使用している)。一方、ウィワークと異なるのは、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック拡大防止対策をうけて加速したビジネス好機を非常にうまくとらえている点だ。
そう言える理由の1つは、リーフが敷地内で自社のビジネスを運営し、スタートアップ企業と協力して、地元の企業だからこそ成功し収益をあげられる商品やサービスを提供しているという点だ。
リーフの共同創業者兼CEOであるAri Ojalvo(アリ・オヤルヴォ)氏によると、今回調達した資金は、拠点数を現在の約4800か所から全国1万か所へと拡大し、駐車場を「地域のハブ」へと生まれ変わらせるために使用されるという。
ソフトバンクとムバダラは、プライベートエクイティや金融投資の巨人であるOaktree(オークツリー)、UBS Asset Management(UBSアセットマネジメント)、欧州のベンチャーキャピタルであるTarget Global(ターゲット・グローバル)と共に、リーフに対して巨額なエクイティファイナンスを行うための資金を提供している。一方、ブルームバーグが月曜日に報じたように、リーフとオークツリーは3億ドル(約313億円)の不動産投資ビークルであるNeighborhood Property Group(ネイバーフッド・プロパティ・グループ)でも提携している。
総じて、「地域の店舗版ウィワーク」とも言えるリーフは、「proximity-as-a-service(サービスとしての近接空間)」プラットフォームと呼ぶものを構築するために10億ドル(約1040億円)の資金を持っている。
2018年にソフトバンクから部分出資を受け(同社を10億ドル(約1040億円)と評価したと報じられている投資)、パークジャッキーからリーフ・テクノロジーへと変貌を遂げて以来、同社はバーチャルレストランチェーンの増加をサポートするために、活況を呈するクラウドキッチン事業を追加した。
さらに、ラストマイル配送の新興企業であるBond(ボンド)および物流大手のDHL、全国的なプライマリーヘルスケアサービスのクリニック運営およびテクノロジー開発企業であるCarbon Health(カーボンヘルス)、電気自動車の充電およびメンテナンス企業であるGet Charged(ゲットチャージド)、そしてロンドンの事業所では、新しい垂直農業開発企業であるCrate to Plate(クレート・トゥ・プレート)など、多くのサービスプロバイダーをパートナーに加えてきた(ちなみに、オヤルヴォ氏によると、クレート・トゥ・プレートについては、米国の既存の垂直農業企業との提携の可能性を探るべく現在交渉中であるという)。
オヤルヴォ氏によると、同社は来年、オースティンで運営しているスペースに、最初の体験型の屋外エンターテイメント施設を立ち上げる予定とのことだ。
そしてさらにその先には、同社は21世紀のスマートシティを牽引するデータ処理センターや通信ゲートウェイのハブとしての役割を果たす機会を見据えている、とオヤルヴォ氏は語る。
「エッジコンピューティングを行う企業や5Gの準備をしている企業からの関心が寄せられている。データとインフラストラクチャは、地域のハブにとって、まるで電気のように重要なものだ。電気と接続がなければ、望み通りの未来を築くことはできない」と同氏は続ける。
同社の収益源の大部分は駐車場事業だが、クラウドキッチン事業の拡大が続けば、その図式も変化していくとオヤルヴォ氏は考えている。「当社のクラウドキッチンサービスであるNeighborhood Kitchens(ネイバーフッド・キッチンズ)は、駐車場以外の収益の重要な部分を占めるようになる」と同氏は語る。
リーフはすでに北米の20以上の都市で100以上のネイバーフッド・キッチンズを運営しているが、対応地域の拡大にともない、その数はさらに増えていくだろう。リーフは、David Chang(デビッド・チャン)のFuku(フク)のような有名シェフのバーチャルキッチンをホストしているほか、同社によると、ニューヨークのチェーン店Jack’s Wife Freda(ジャックズ・ワイフ・フレダ)やマイアミのMichelle Bernstein(ミシェル・バーンスタイン)のキッチンのような、地元で愛されるレストランへのライフラインを提供している。
このようなレストランの中には、リーフが運営する各地のキッチンで採用した従業員を活用しているものもある。これは、ウィワークとリーフのもう1つの違いだ。リーフはスペースを提供するだけでなく、多くの場合、労働力を提供しビジネスの規模拡大も支援している。
すでに1000人以上のキッチンワーカーを雇用しており、彼らはレストランで料理の下ごしらえをしている。また、リーフは5月初めに、ある会社を買収し、オンデマンド配送のバックエンドサービスを統合した。
この戦略は、同社の他のサービス事業にも適用される可能性が高い。
「当社は近接空間のプラットフォームを構築している。この近接性は、駐車場や駐車ガレージに設置された店舗設備によって推進されており、それによって、あらゆる種類の企業がその近接空間をプラットフォームとして使用することが可能になる。基本的にはテナントが活用できるマーケットプレイスを構築している」とオヤルヴォ氏は述べる。
事業拡大に向けて資金を調達するリーフは、アムステルダムからアリゾナ州テンピに至るまで、各都市の市長たちが支持している都市開発の新理論「15分シティ(快適な都市生活に必要なアメニティが15分以上離れていない都市)」を活用している。
それは価値のある目標だが、市長たちがアクセスしやすいアメニティの可用性を重視している一方、リーフのリーダーたちは、近隣住民がアクセスしやすく、多目的に利用できる駐車場やガレージはごく一部にすぎないことを認めている。広報担当者によると、同社が計画している1万件の事業案件のうち、近隣住民のアクセスを促進するようなマルチユースのモール環境が整備されるのは数百件にとどまるという。代わりに、そのビジネスは、ほとんどの配達サービスは15分以上離れていないはずだという考えに基づいているようだ。
これは別のプロジェクトだが、多くの支持者がいる。Zuul(ズール)、Kitchen United(キッチン・ユナイテッド)、Travis Kalanick(トラビス・カラニック)氏のCloud Kitchens(クラウド・キッチンズ)のようなクラウドキッチンのプロバイダーは、すべて同じ理念を持っていると言えるだろう。Uberの共同創業者であり、ソフトバンクから数十億ドルの資金を調達したことがある元CEOのカラニック氏は、City Storage Systems(シティ・ストレージ・システムズ)という投資ビークルの下で米国とアジアの不動産を買収してきたが、これも駐車場や廃墟となったモールをフルフィルメントセンターとして利用する事業だ。
大手小売企業もこの新しい収益源に注目しており、米国の小売大手の1つであるKroger(クローガー)は中西部でゴーストキッチンの実験を行っている。
それだけでは不十分な場合でも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる景気後退とパンデミックを抑えるための政府の対策のおかげで、すでに市場に出回っている利用率の低い資産が数多くある。
あるベンチャー投資家はメールの中で次のように書いている。「国内の大手企業(スターバックス、マクドナルド、ドミノなど)が焦点を当てているように見えるドライブスルーやカーブサイドピックアップに対して、配送業者が今後数年の間どのようにうまく対応していくかによって大きく異なると思う。しかし、配送業者はこれらのスペースを活用する方法には限りがあるが、それに対して、小売業者にはステージングやパッケージの返品に使用できる低コストの小売スペースがたくさんあると言える。既存の駐車場にモジュラーやプレハブのユニットを追加して、拡大のための柔軟性を提供する余地はあるかもしれないが、誰もが急速に成長しているというわけではない。新しい活用方法を探している小売店やオフィスのための商業スペースと、有効活用のために転換された駐車場をどのように比較して考えればいいのか、まだよくわからない」。
米国の現代生活を、1年という短いスパンで急速に、これほどまでに変えてしまった新型コロナウイルス感染症の発生が都市環境変革の衝動を生み出したわけではないが、その変革を大きく加速させたことは間違いない。
リーフが認識しているように、都市には未来がかかっている。
2050年までに世界の人口の約3分の2が都市に住むことになり、世界の大都市では、これまで効果的に対処できていなかった経済、市民、環境の変化の圧力により歪が生じている。
モビリティ、ひいてはそれを支える車両を保管し、維持する場所が問題の一部となっている。リーフが指摘するように、現代の米国の平均的な都市の約半分は駐車場に充てられているが、公園が占めているスペースは都市空間の10%にすぎない。リーフの言葉は駐車場の世界を楽園のような空間に変えることを中心に据えているが、その言葉とは裏腹に、コミュニティの交流ではなく、(少なくとも今のところは)商業的なニーズが配達によって満たされるように個人を個々のスペースに隔離することで収益を得ているのが実情である。
それでも、何かを変えなければならないという事実は変わらない。
投資会社Urban.Us(アーバンUs、リーフの投資者ではない)を通じた都市環境の変革への投資家であるStonly Baptiste Blue(ストンリー・バティスト・ブルー)氏はこう語る。「従来のデベロッパーや地域の政策は、新しいテクノロジーや運営モデルの導入に腰が重い。しかし、より良い『都市製品』への需要は高まっており、環境と私たちの生活のために都市をより良いものにしたいというニーズはかつてないほど大きくなっている。未来の都市を建設するという夢は決して消えることはない。今、その夢を支援しているのがベンチャーキャピタルだ」。
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カテゴリー:モビリティ
タグ:資金調達 物流
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(翻訳:Dragonfly)